芦の三姉妹 12
「いらっしゃいまし〜」
額にうっすら汗が浮かびはじめた頃、俺達はようやくコンビニへ着いた。コンビニ名は全国でも有名なブッチャーマート7、先月で100万店舗を突破したらしい
「あ〜涼しい。マンガでも買ってくっかな」
今日は少年チャンプの発売日なのだ
「私、むこう見てる」
「うん。好きなの選んで」
「うん」
梢は真っ先にお菓子コーナーの方へと歩いていった。ふ、なんだかんだでやはりまだ子供か。大人である俺はヤングチャンプでも読もう
「椿ちゃん、こんばんわんこそば〜」
「妙ちゃん、こんばんわんこそば〜」
雑誌コーナーへ足を運び、数ページめくったところで椿が妙齢の店員さんと交信し始めた。どっかの中年係長みたいな挨拶をしているが、意外と歳なのだろうか
「椿ちゃん、椿ちゃん。一緒に来たあの素敵な死人様はどちらさま?」
誰が死人だ
「恋人です」
「ぶっ!? あ!」
驚いて読んでた雑誌のページを破いてしまった……。仕方ない、買おう
「へ〜そうなんだ。椿ちゃん可愛いから男様よりどりみどりだな〜って思ってたけど、楓ちゃんと同じぐらい死んでる方にしたのね〜ちょっと意外。あれ? よく見てみるとあの方、楓ちゃんより……」
向かないぞ、レジからの視線を横顔にめっちゃ感じるけど、絶対そっちは向かないぞ!
「う〜ん、姉さんと同じぐらいかな。それに恋人と言うのも嘘で、だったら良いなって人です」
「そうなの? 告白したの? あの方、ホモなの?」
「どうでしょう」
そこは否定して!
「…………恭介」
「まったく……ん? どした梢」
いつの間にか俺の側に来ていた梢が、曇り顔で俺を見上げている
「びっくりして潰しちゃったの……」
そう言って差し出した手の上には、潰れた赤い箱があった
「そうか。いいよ、俺が買うから」
一見高級そうな箱ではあるが所詮コンビニのお菓子、千円は越えないだろう
「…………」
梢は俺と箱を見比べて、しばし躊躇した後おずおずと俺に箱を手渡した
「ごめんなさい」
「あいよ。てか俺もさっき雑誌破いちゃってさ、ははは」
しかし変わった箱のお菓子だな、見たこと無いし地方限定なのか? なら俺も一個買っておくか
「えーっと」
商品名はコンドー野郎Aチームっと……
「…………」
「……恭介?」
「か、楓さんに頼まれたのか?」
「??」
可愛く小首をかしげているが……
「い、いや、これはちょっと梢には早いような気がするんですよね、僕的に」
思春期の子には頭ごなしに怒らず、やんわりと諭してあげる事が大切です
「早くない。恭介と一発やるの」
「梢に変なことを教えた奴は誰だコラアァ!!」
「藤〇弘、謎の冒険野郎なの」
またアイツか!
「好きな人と一緒に買うといいって書いてた。お金、半分渡す」
梢はスカートのポケットから白い財布を取り出し、小銭入れを開けた
「あ、あのな梢。梢はまだ良く分かってないだろうけど、これはその……。し、将来を誓い合った恋人同士や夫婦が使うもので」
「知ってる。こんなこと本当はすごく恥ずかしいし怖い。でも、恭介もう来てくれないからチャンスあんまりない……。だからやるしかないの!」
梢は決意を込めた目で俺を見つめる
「あ、あのなぁ……ん? もう来ないってどういう意味だ?」
「ママが言ってた。来年は恭介受験生だから、もう来れないかもって。……やだそんなの」
「梢……」
来年どころか今年の冬休みにも行く気マンマンだったんだが、そういやもうすぐ受験生なんだよな俺。いや、それでも行くけどさ
「そうしょげるなよ梢。受験だろうがなんだろうが来年も、今年の冬休みだって遊びに来るから」
それで落ちるなら、元々実力が足りてなかったってだけだ
「……ほんと?」
「ああ、本当だ。約束するよ」
俺がそういうと梢は瞳を潤ませ、
「じゃあこれ一緒に買うの」
「買わん! これは俺が買って封印する!!」
なんなら姉ちゃんにあげ……たら殺されるかもしれん
「けち」
「なんでやねん!」
むしろ太っ腹レベルや!
「なに騒いでるの二人とも」
声が大きかったらしく、椿は注意する口調で俺達に声をかけた
「恭介、冬休みもきてくれるって」
「え? そ、そうなんだ……。なら焦らなくてもいいのかな」
「ん、なんだ?」
ボソボソ喋っていてよく聞こえん
「う、ううん、なんでもない。さ~早く買って帰ろ~」
妙に明るい声を出し、弾む足どりで雑貨品の棚の方へと向かっていく椿
「……変だな」
「変なの」
「なぁ」
梢から見ても変らしい
「さて、自分のもん買っとくかな」
漫画とコンドーさんと、かきのたね。他は……
「……恭介」
「ん?」
「やっぱりお金出す。私が潰したから」
「そうか……。なら100円な、これは俺が貰うからさ」
「誰と使う気なの!」
「ええ!?」