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芦の三姉妹 7

「あ」


「お」


トイレを済ませて廊下に出た俺は、丁度階段を降りてきた椿と鉢合わせた


「恭、姉さん知らない?」


「シャワー入ってるぞ」


お陰で俺は冷や汗だ


「そっか、ありがと。……何で知ってるの?」


笑顔から、急に疑うような目つきになった椿。だが俺は慌てず


「さっきお前がトイレに入った時、すれ違ったからな」


「ふーん」


疑いの眼差しは続いている


「な、なんだ?」


まさかパンツ事件の事を知って……


「ううん、別に。そっか、なら後でっと。リビングに戻ろ?」


「あ、ああ」


どうやら誤魔化せたらしいって、何で俺が誤魔化さなきゃならんのだ


「恭が来ると、ご飯が豪華になって嬉しいなぁ」


「ん? ふふ。ま、俺が役に立つのはそんな事ぐらいだからな」


秋姉とかなら、また違うだろうが


「あはは。……もっと会えると良いのにね」


椿は少し寂しそうに言い、ドアを開けた


「姉さんシャワーだってー」


「そう。それなら注文は楓が出てからで良いわね」


椿に続いて入ったリビングでは、梢と叔母さんが縦にした麻雀牌をピラミッド型に積んでいた


「はい、最後の一個。梢がやって良いわよ」


「頑張る」


梢は牌を受け取り、五段になっているピラミッドの頂上へ震える手を伸ばす。何だか俺まで緊張してくるぜ!


「…………できた」


牌はピラミッドを崩す事なく、てっぺんへ。見事な三角形だ


「綺麗に出来たな。凄いぞ、梢」


どう? って顔で俺を見ている梢の傍に寄り、褒めてみる。梢ははにかみ、


「恭介……好き」


「ど、どさくさに紛れての告白は条約違反だよ、梢!」


椿が慌てて梢を止めた。それを横で見ていた叔母さんは、俺に対して笑顔で一言


「……優柔不断は許さないわよ?」


「ごめんなさい」


目が怖くて思わず謝ってしまう


「もう。梢は可愛いからなぁ、油断ならないよ」


「ふゃ」


梢の頬を左右に軽く引っ張りながら、溜め息をつく椿。色々と苦労してそうだ


「……暑い」


そうこうしている内に、楓さんがダルそうに入って来た。灰色のスウェットパンツに白のTシャツ。ノーブラっぽいのは俺の気のせいと思いたい


「楓、今日はお寿司で良い?」


「はい」


楓さんは手招きする叔母さんの隣に腰を下ろし、頷く


「男の子が居るし、この12人前が良いかしら?」


12人前!?


「れ、麗華叔母さん? それはちょっと」


「少ない? そうよねぇ、男の子だもの。よし、こっちの20人前の方を……」


「逆です、逆! そんなに食べれませんてば」


「そう? 恭介君、食が細くなったわね」


去年は天丼を3人前、一昨年は蕎麦を4枚出されて、断る事も出来ず完食した。このままいくと、来年には胃が破裂するかもしれん


「この8人前はどうかな? 梢の好きなイクラも沢山入ってるし、姉さんのカッパ巻きだって多いよ」


「う〜ん、でも男の子が……」


以前から思っていたが、叔母さんは男の子を誤解している


「俺、それで十分です。梢や楓さんはどうです?」


「いいよ」


「うん」


「分かった。注文するわね」


そう言って叔母さんは立ち上がり、電話をしに行った


「恭、何か飲む?」


「いや、いらんよ。それよりもう夕食だし、麻雀片付けても良いか?」


楓さんも来た事だしな


「そうだね」


「しかし……」


このピラミッドを崩しても良いのだろうか


「恭介。最後のやっていいよ」


悩んでいる俺に、梢はそう言葉を掛けた


「最後?」


「崩すの」


パンチなジェスチャー。どうやらいつもやっているらしい


「な、なるほど。それは爽快そうだ」


「うん。刹那のわびさび」


「そ、そうか。渋いな」


梢は輝く目で俺とピラミッドを見ている。これは失敗出来ん!


「とりゃ!」


気合い一発、下の段を手刀で切り崩す。その後ピラミッドは崩壊し、無惨な牌の山と化す


「中々なの」


「真ん中からいった方が良かったんじゃない? ドカーンって」


「いや、上に強い衝撃を与えた方が綺麗に崩れたかもな」


こんな事でワイワイ盛り上がる俺達を、楓さんは、静かに見ていた。ただそれは昔の様に冷たい視線ではなく、どこか穏やかに見える……ってのは俺の希望だろうか


「お寿司、30分で来るそうよ。一応、巻物も2人前だけ注文しておいたからね」


「は、はい、ありがとうございます……」


念のために持って来た胃薬。今年もお世話にもなりそうだな


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