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芦の三姉妹 6

ゴーン、ゴーン


午後5時を報せる鐘の音が遠くから響いている。しかし、今の俺はそんなものに風情を感じている場合では無いのだ


「よし! リーチ一発門前ツモのドラ3で跳満〜」


「ロン。三色同順よ」


「最後……あ、ツモ。海底模月なの」


「…………」


さっきも言ったが芦屋家は麻雀が強い。バブル期の脱衣麻雀より強い


「恭、弱すぎ〜」


「あそこローピン捨ては無いわね」


「元気出して、恭介。私の点棒半分あげる」


「……ありがとう」


僅か半荘東3局で飛び。もう何をやっても勝てる気がしない


だがこの化け物親子をもってしても、楓さんは倒せないと言う。俺も一度だけ勝負をしたが、初っぱなから四暗刻やられた瞬間、この世は不平等だと言う事を知った


「姉さんは雀鬼だからね」


「目隠しで打たせて初めて勝負になるかしら」


「牌が自分から当たりに来る感じ」


三人とも、うんうんと頷いているが、俺はそんな貴女達にも勝てません


「次は恭が親だね。頑張って」


「ああ」


次こそは!


「の、前に。そろそろ出前を取っておきましょう。椿、楓を呼んで来てくれる?」


「はーい」


「あ、俺もトイレ借ります」


椿と同じタイミングで、俺も席を立つ


「あたし先!」


しかし椿が俺よりも遥かに素早く、リビングを出て行ってしまった


「こ、こら、俺も結構限界なんだよ!」


急いで後を追い掛けるが、無慈悲にもトイレのドアは先に閉じられた


「つ、椿! お前酷いぞー!!」


「き、恭! トイレの前に居るのは駄目なんだよ!? エッチ!」


「エッチって……」


しかしそう言われてしまったら、反論出来ない。俺は膀胱様を気遣いながら、玄関の方へとふらふら歩いた


そんな時、玄関の隣にある階段の上から床を踏む音がした。見上げると、目を擦りながら楓さんが降りて来る


「あ、楓さん」


「君、うるさい」


階段を降りきった楓さんは、俺を見て不機嫌そうに言った。どうやら寝起きらしい


「す、すみません」


謝る俺の横を、楓さんは無言で過ぎて行く。そして浴室の前で、突然着ているシャツを脱ぎ捨てた


「っ!?」


傷一つ無い綺麗で小さな背中と、キュッと締まった形の良い尻があらわになり、俺は目を奪われる。あれは水着の跡なのか、うっすらと浮かぶ肩ひもの跡が……って


「楓さん!」


「汗かいたから。シャワー入る」


「なら中で脱いで下さいよ!」


俺は顔を逸らして楓さんを見ないようにした……がっ! しかし目が! またしても目が勝手に楓さんの尻を追い掛けて!! ……な、なんだあれ?


楓さんの履く下着には、動物の絵がプリントされていた。目は青く、剥き出しの歯は鮫の様に鋭い。二足で立つこの毛深い動物は、武器を手に持って今にも誰かを襲い掛からんとしている


「……じっと見てるけど、なに?」


振り向き、少し苛ついた声で楓さんは聞く


「あ、いや、す、すみません! その動物が気になってしまって……。本当、すみませんでした」


「これ? 巨大猿型獣人モノスだけど?」


「なにその怪獣みたいな名前!?」


「ユーマシリーズ。安かったから。欲しいならあげるよ」


「え?」


言葉の意味を理解する前に楓さんは下着を下ろし、片足ずつ抜いた後、俺に投げよこした


「わ、とと……と」


思わずナイスキャッチしてしまったが、こ、これは!


「か、楓さん!?」


慌てて返そうとしたが既に時遅く、楓さんは浴室へ入ってしまっていた


「…………」


手のひらに感じる温度が生々しい


「……もう。廊下で待たないでよ」


浴室の方を見ながら立ちすくむ俺に、トイレから出て来た椿が、ぼやきながら声を掛ける。俺はほぼ無意識に、ああ。と頷き、額に流れる汗を手に持つ布で拭い……何やってんだ俺は!?


「……トイレ行かないの?」


「い、行く!」


急いで布……って言うか下着。むしろパンツをポケットにしまい、トイレに入って鍵を閉める


「…………どうすんだよ、これ」


膨らんだポケットを上から軽く触れ、嘆く。学校へエロ本を持って行くよりもずっとキツい


こんな事が叔母さん達にバレたら……


『最低ね、恭介君。がっかりだわ』


『最低! 馬鹿! 変態!』


『最低……嫌い』


「…………」


俺の評価は地に落ちるだろう。それだけはなんとか阻止せねばならぬ


「……洗面所だな」


後で適当に放り投げておこう


「しかし……ハァ」


一気に暑くなったよ、まったく


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