芦の三姉妹 5
「……ごちそうさま」
30分の格闘の末、ついに氷山を切り崩した俺。最後の方はジュースになっていたが、それは飲まないでと梢が止めてくれた
「梢、うまかった。サンキューな」
少し気持ち悪いが
「……恭介」
梢は、きゅっと俺の手を握った後、器を両手で抱いて嬉しそうに流し台に持って行く。ふ、微笑ましいぜ
「椿も手伝ってくれてありがとよ、俺一人じゃ……なんでむくれてんだ?」
「はい、ラッパとお水!」
「あ、ああ」
むくれる椿からラッパさんと水を受け取り、飲んでおく。これで一安心だ
「姉さんだけでも厄介なのに……もうこれはやるしかないよ!」
「な、何をですか?」
気合いを入れて立ち上がった椿に尋ねると、椿は俺を見下ろして一言
「後でっ!」
そしてそのままドタドタとリビングを出て行った
「…………」
なんだこの胸騒ぎは
「椿姉?」
洗い物をしてたらしい梢は、キッチンペーパーで手を拭きながら不思議そうに椿が出て行った先を見る
「多分部屋に戻ったんじゃないか?」
俺がそう言うと何故か梢の顔は綻び、いそいそと俺の前へ
「梢?」
「座るの」
「え? ととっ」
梢は俺の膝の間にちょこんと座り、
「ひとりじめ」
と言って、もたれ掛かってきた
「俺は座椅子かっての」
梢の頭に顎を乗せ、グリグリ
「あ、やぁ」
「ふふふ。痛いだろー」
昔この技で、あの春菜を泣かせた事があるのだ。その後、後頭部で頭突きされたが
「……いじわる」
首をひねり、涙目で俺を見上げる梢。そんな梢の頭にポンっと手を乗せる
「ごめんな。だけどもう大人なんだし昔みたいにベタベタなんて出来ないぞ。そう言うのは、本当に好きな奴が出来るまでとっとけ」
なつかれているだけに離れて行くのは少し寂しいが、兄貴分として見守ってやりたい
「…………」
そんな風に感傷に更ける俺を、梢は信じられない物を見た時の様な、驚きの顔で見つめた
「どした?」
「……恭介」
視線を逸らし、唇を噛む梢。そして立ち上がり、真剣な顔で俺と向かい合う
「な、なんだ?」
「……好き」
「え?」
「私、恭介が好き」
「あ、ああ。ありがとう」
改めて言われると照れるな
「……どうすれば良いの?」
「ん? 何が?」
「何でもする」
「う、う〜ん? なら肩揉みでも頼もうか」
「……うん」
俺の背中に回り、肩揉みを開始する。中々力強くて気持ち良い
「ほう、やるな梢。こいつは小遣いやらんとな」
オッサンか俺は
「いらない」
「遠慮すんなって、まだ少し余裕あるんだ。あ、そうだ。後で本屋行こうか」
「…………違う」
「梢?」
急に肩を揉むのを止め、また黙ってしまった
「どうし」
た、と声を掛けるタイミングで、ドアが突然開いた。そのドアからタオルを巻いた椿が入って来る。そして
「えーい!」
と、俺達の前でタオルを投げ捨てた!
「な!?」
タオルの下は、ボーダービキニ。白と水色の縞柄が爽やかだって
「……春菜と発想が同じだぞ、お前」
「春ちゃんと!?」
椿はショックを受けているようだ
「か、被ったか〜。流石春ちゃん!」
「…………」
「…………」
「……着替えて来ます」
「そうしろ」
俺達二人の無言のプレッシャーに負けたらしく、椿はとぼとぼと引っ込んで行った
「……何考えてんだあいつは」
「本気なの」
「え?」
「みんな本気なの」
そう言って梢は、深く頷いた。まるで何かを決意した様に……
「ちょっと、あなた何で水着!?」
「ま、ママ!? え、えっと、そう、暑くって!」
「暑いって……恭介君が来てくれてるのに失礼でしょう!」
「ご、ごめんなさ〜い」
「…………むう」
廊下で何やら揉めている。が、放置だ。好奇心は猫を殺すってな
「さて……。何かゲームでもやるか? 麻雀?」
此処の家族は全員やたらと麻雀が強い
「椿姉達にも聞いてみる」
「頼む。俺は一度部屋に行ってみるよ」
泊まるときは、いつも二階の奥を貸してもらっている。この家の主だった孝則叔父さんの書斎だった部屋だ
「……そういえばもうすぐ三年になるんだな、孝則さんが居なくなってから」
「うん。今頃向こうで見守ってくれているの」
「そうだな」
あの清々しい笑顔が懐かしい
「お正月にバッファローのお肉が届いたの」
「そ、そうか」
孝則さんは三年前にアフリカへ左遷させられたのだが、今では支社長にまで出世してしまった為、帰るに帰れないらしい
「どこの家も大変だよな……よし、じゃ後で」
「うん」
汗もかいてるし、俺も着替えてみるか