芦の三姉妹 3
「本当いい加減に離れろって! 暑苦しいだろ!」
ソファーに座ってから、かれこれ10分。退けても退けても抱き付いて来る二体のゾンビに強い口調で注意すると、二人はショックを受けた顔をして静かに離れた
「……ごめん」
「ごめんなさい」
素直に謝る所は可愛いものだ。やはりあの人とは違う
「落ち着いてくれたなら良いよ。つかお前らは女なんだから、むやみに男に触れたらあかんぜよ」
「別にむやみじゃ……ママの手伝いしてくる」
「私も手伝う。……ごめんなさい、恭介」
「あ、ああ。いってらっしゃい」
凹んだ二人は、肩を落としながらリビングを出て行く
「……言い過ぎたかな」
ソファーに座り直して反省する。久しぶりに会ったんだ、ちょっとはしゃいだぐらい良いじゃないか。たく、まだまだ俺は度量が狭いな
よし、戻って来たら謝って……
カチャ。軽いドアの音がした
俺は二人が戻って来たのかと、首を後ろに向けて……ひ!?
「……暑い」
ドアから入って来たのは卵形の小さな顔に、鮮やかで蠱惑的な紅い唇と綺麗な柳眉、そして真っ直ぐに通った鼻を持つ、作り物の様に整った顔の女だった。しかしその目は果てしなくダルそうで、死んでいる
「ひ、久しぶりですね楓さん」
そう、この人が楓。芦屋家最恐の長女、芦屋 楓さん
「そうですね」
紅褐色に染めたショートヘアーを軽くかき上げ、3ボタンの無地な紺ブレザーを脱ぎ、それを床に放り投げた楓さんは、ノーガード戦法、或いは貞子の様に両腕をブラリと下げて、ふらりふらりと俺に迫って来る
「さ、最近暑いっすよね〜」
視線を合わせない様に前を向き、震える声でそう言うと、楓さんは
「そうですね」
と薄く笑い、俺の直ぐ横に立った。短いチェック柄のスカートが右腕に触れる
「汗」
「え? ひっ!?」
楓さんはそのまま跨ぐ様に俺の膝上に座り、首に抱き付く
「走ったから汗。ほら、太もも」
胸が潰れる程に抱き付いたまま、楓さんは白く引き締まった自分の太ももを、ゆっくりと丹念に撫で上げた
「君のせいでこんなだよ」
そして、その撫で上げた手で俺の頬にそっと触れる!
「な、なな、ななつはなついから大変っぎゃあああ!?」
汗で湿った俺の頬を、楓さんが舐めた。俺の背筋は凍り付き、恐怖で震える
「汗って混ざるとエッチだね」
「そ、そっすか? 汚いだけじゃないっすかね。あはは、ははははは」
「今回は逃がさないから」
「ぃっ!?」
楓さんは俺の耳に舌を入れ、次に痛いくらい強く噛んだ。抵抗しようにも体は硬直し、動けない。まさに蛇に睨まれた蛙の如く!
「か、かか楓さん。ち、ちょは、離れて頂けませんでしょうか?」
「いいよ」
意外にも楓さんはあっさり離れ、そのままドアの方へと移動した
「……ふぅ」
助かった……
「着替えて来るね。君が好きなデニムのショート」
「いつ好きだと言った!?」
好きだけど!
「キャミ、好きじゃないでしょう? ニーハイも反応悪かった」
「な!?」
そ、そういえば去年、楓さんは何度も服を着替えていたが、まさか俺の反応を見ていた?
「足、胸、お尻。君のだから。好みにあわせるよ」
「いつ俺のものに!? い、いやいや、ちがくって! なんでいきなりそんな話になるんですかって!」
「めんどくさいな、去年言ったよ。来年も君が欲しいと思ったら、もう躊躇しないって」
「た、確かに」
そんな事を言っていたが……
「君、迷惑そうだったから代わりに何人か付き合ったけど、つまらない。だから」
楓さんはそこで言葉を止め、ためる
ゴクリ。唾を飲むのも苦痛な程の緊張がリビングを支配し、尚も楓さんは言葉をためた。だが終わりは唐突に、簡単で、あっさりと――
「必ず君にポロリしてもらう」
そして俺はコケた