表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
383/518

芦の三姉妹 2

「お邪魔します」


この家のリビングへ入った時、真っ先に目に入る物は綺麗に整頓された対面式キッチンだろう。料理を作る場所だと言うのに、汚れ一つ目立たないのには畏れ入る


「お帰りなさい、恭介君」


そのキッチンのリビングダイニング側、桧の一枚板を利用したカウンターから立ち上がった叔母さんは、微笑みながら俺を迎えてくれた


短く揃えた髪に、スマートでしなやかな体躯。細めのジーンズとサマーセーターを着た様は、とても40とは思えない程若々しい


「お久しぶりです、叔母さん。これお土産の東京名物ひよこさんです」


リボンを付けたひよこ型のクッキーだ。結構人気があるらしい


「ありがとう。気を使わせてしまってごめんなさいね」


「いえ、全然です。それにしても相変わらず綺麗な家ですね」


「褒めても何も出さないわよ? ここは君達の家でもあるのだから」


「はは。そうでしたね」


姉さんとは折り合いが悪いけど、それでも家族。その家族である俺達も、また家族だと何年か前に麗華叔母さんは言ってくれた


因みに叔母さんは名前も考え方も中国の人っぽいが、ごく普通に日本人である


「ところで……、少し見ない間に大きくなったわね、すっかり見違えちゃった。やっぱり男の子は成長が違うわ」


ほぅっと感嘆の溜め息を漏らし、叔母さんは、うんうんと頷く。それが何となく照れ臭くなり、思わず後ろで俺を待つ梢を見て


「梢も大きくなりましたよ」


なんて返した。すると叔母さんはニヤリと笑い、


「梢は早く君に追い付きたがってるからね。この子はまだまだ子供だし、親としては色々複雑だけど、君が真剣に考えるなら私も真剣に考えてあげる」


「な、なんの話をしてるんですか?」


「将来の話。まだ早いけど」


「い、いや、従姉妹ですから、早いも何もないですよ。無理です、無理。有り得ません」


従姉妹なんて妹みたいなもんだか……ら?


「有り得ない……ねぇ。私の娘に何か不満でも?」


「うっ!」


さっきまで優しげだった叔母さんの目が、鋭く険しいものに変わった。流石母ちゃんの妹! 凄い迫力だぜぃ


「なんちて。冗談よ、冗談」


眼力にビビっていると、叔母さんは目尻を緩ませ、舌を出して笑った


「で、ですよね〜」


あ〜、びっくりした


「半分は、ね」


「…………え?」


「うふふ」


「…………」


こんな感じで暫く談笑? をしていると、クイクイっと裾を引っ張られた


「ん? なんだ梢」


「ママとばかりずるい」


そう言った梢は、不満げに俺を見上げている


「そうだよ〜。こっちでお茶飲もうよ〜」


リビング奥の窓際に置かれたテレビ前のソファーから椿がブンブンと手を振り、早く来いとアピールしている。それを見て苦笑いする俺に、


「モテモテね恭介君」


と、叔母さんはからかい、そして二人をたしなめた


「梢、椿。恭介君は長旅で疲れているんだから、余り我儘を言っては駄目よ」


「はぁい」


「……うん」


注意された二人は、しょんぼり肩を落とす


「あ、と。俺が茶を用意してって頼んだんです。悪かったな、椿。荷物片付けたらお茶貰うよ」


「荷物なら私が片付けて来るわ。ベッドメイキングのついでにね」


「い、いやそんなの悪いですよ」


「悪くない。こんな事で遠慮しないの」


メっと俺の鼻を軽くつまみ、叔母さんは俺の荷物を抱えてリビングを出て行ってしまった


「……はは」


叔母さんは昔から変わらないな


くいくい


「ん? あ、悪い。行こう」


「うん」


梢に連れられ、椿の所へ向かう


このリビングには余り物がなく、奥行きが広いゆったりとした空間だ。天窓から射す明るい光に、梁と白い壁のコントラストが美しい


「遅い〜!」


「悪かったって。よっこらしょ」


四角いテーブルの三辺を囲む様に並べられたソファーの一つに座ると、右隣に梢が座った。そして何故か椿まで自分の座っていた場所から立ち上がり、俺の左隣に座る


「狭いっての! 他のソファー空いてるんだから、お前らはそっち座れよ!」


「駄目。今日はベッタリなの」


「ほら、恭。お茶どーぞ」


椿はコップを持ち、ストローを俺の口許に寄せた


「一人で飲めるから」


「いいから、いいから」


「良くね〜」


と言いつつ、喉が渇いていたので一口


「ふ〜。やっぱ暑いときにはお茶だよな〜って何でお前も飲んでんだよ!」


「ん〜冷た。はい、次は恭の番」


「何でやねん!? てかお前、なんか楓さんに似てきてないか?」


あのモンスターに!


「姉さんに? どうだろう……。でもあたしはずっと一途だよ?」


透明感ある目で、じっと見つめる椿。この吸い込まれそうな視線を俺は逸らす事出来ず、近づいて来る唇をただ呆然と待ち――


「近付き過ぎなの」


梢は椿の頭をグイッと押し戻し、俺との距離を開けた


「きゃ。こ、梢〜」


「私の」


「あ!」


梢は俺の腕にギュッと抱き付き、それを見た椿も逆の腕に抱き付いて来る


「お、お前らな……まったく。お前らが好意を寄せてくれるのは嬉しいけど、従姉妹だからな?」


てゆーか、何で従姉妹にしかモテないんだ俺は……


「従姉妹? それが」


「どうしたの?」


首を傾げ、素で不思議がる二人を見て、私は楓さんに通じる恐怖を感じました


「……楓さん、帰って来るのが遅ければ良いな」


しかしその願いは叶わなかったのです


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ