第146話:父の希望
前回のあらすじ
謎の組織に拐われた佐藤。連れ去られた先は、地獄すら生温い死と破滅の島だった
島は、四辺を鋭い岩と高波に囲まれていて、脱け出す事は不可能。その島の中心には四六時中真っ黒い煙を大量に噴き出している山の様に大きな工場があり、そこでは島で採れる特殊な草の加工が行われていた。そう、佐藤達はその労働力として拐れたのだ
しかし、この島で生きていられるのはもって半年と、奴隷達は言う。そう、草は加工の際、有害なガスを発生し、吸い続けると廃人と化すのである
誰かが言った。我らに出来る事は死ぬだけだと。島の支配者である教皇が存在する限り、我らに明日は無い、と
「働け、働け〜! 死ぬまで働けぃ!」
「流れ作業のコツは死ぬ事だ〜。脳を殺し、何も考えず手だけを動かせ〜」
朝、5時。佐藤達はろくに食事も与えられないまま、作業に駆り出される
工場には100のラインがあり、1ラインにつき、20人の奴隷が配置されている。その中で佐藤は22と書かれたラインの最後尾で、パレットへの段ボールの積み込み作業を行っていた
「はぁ、はぁ。はぁ、はぁ」
佐藤は酷く疲れていた
段ボールの重さは一つ5キロ。軽いとは言えない重さである。それを毎日16時間休まずパレットに積み込むのだ、疲れない訳がない
「働け、働け〜。そして死ねぃ!!」
ガスマスクを着けた看守は、鞭を片手に奴隷達を叱咤する。死んでも構わない、そんな感情が見てとれた
「良いか、貴様ら! 教皇様は誠に慈悲深いお方だ。勤勉に勤めば、我々の様に奴隷から看守に引き上げてもらう事も可能であろう! 故に働けぃ!!」
看守になれる。これだけが奴隷達の希望であり、甘いアメ
封鎖された空間で、日々の食事の事しか考えられなくなった脳には、このアメは甘くとろけ、反抗する気力を無くさせる
俺も看守になりたい。看守になって好き放題したい
奴隷達の牙はとうに抜け、今では支配者達のご機嫌を伺う飼い犬となっていた
「死ねぃ、死ねぃ! 貴様らには死ぬか全てを得るか、そのどちらかしかないわー」
「働け、働け! 働いて死ねぃ!!」
一月後、恐らく今いる奴隷の大半が死ぬであろう。佐藤も半分諦めかけていた
だが、佐藤には生き延びなくてはならない理由がある。故にその目はまだ生きており、また牙も抜けきってはいない
「……みんな」
自分一人なら、とうに死んでいた。だが佐藤には愛する家族がいる。だから佐藤は生きていた。手も足もボロボロになり、持病の腰痛が悪化しても
「……必ず帰るからね、みんな」
決意を込めて呟く佐藤の目には、もはや一抹の迷いも無かった
そしてその頃、佐藤家では
「そ、そんな……。なんて事なの」
買い物から帰宅し、パソコンで調べものをしていた母は、あるページを見て目を見開き、世界を呪う
「明日がお肉の特売日だったなんて……」
日も平和だった!
今日の腰痛
父>>>>>母>夏>>俺
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