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俺の遊び 10

一回戦目、千里の使用キャラである浜っ子さんの素早い攻撃により、俺のサン・ポールはあっさりと地に沈んだ


「つ、強い」


あの頃よりも更に腕を上げている


「お兄ちゃんに勝つなんて……千里ちゃん、凄い!」


「ふ〜ん。やるじゃない」


「イエイ」


勝利した千里は立ち上がり、近くで見ていた雪葉や花梨達にピースサインを披露


「可愛いぞ〜フラッド・ガール!」


「俺の養女になってくれ〜」


「お断り」


観客に向けてペコリと頭を下げ、次に俺を見て


「腕落ち?」


「いや……」


確かに俺の腕は落ちた。だがしかし、ここまで一方的に負ける程は落ちていないはず。て事は


「強いな、千里」


「そう?」


だが、このまま負ける訳にはいかない。戦い方を変えてみるか


「次、始まるよ」


「ああ」


そして始まったラウンド2 


さっきはガードしつつ隙を見て攻撃と言う感じでやったが、今回はサン・ポールの持ち味であるトリッキーな技で攻めていこう


《イーアルサンスー》


《あう、あうち》


上中下段を自在に打ち分ける四種の攻撃を二発喰らい、浜っ子さんは一瞬よろめいた


《アイヤー、ホイヤー、ホーイ》


そしてジャブ二発からの投げ技!


《ひゃー》


「よし!」


浜っ子さんのライフが3分の1減った。追撃で倒れている浜っ子さんにジャンピングエルボー


《げはっ!》


浜っ子さんは血ヘドを吐いて、地べたを転げ回った


「さ、流石ワンコイン・キョー。簡単には負けないぜ」


「く、俺のライバルは不死鳥さ」


いい感じにギャラリーも集まって来た。浜っ子さんが起き上がった瞬間、大技を叩き込む!


「この人混み、なになに〜? あ、兄ちゃん達じゃん。リサー、兄ちゃんと千里がやってるぞー」


「千里が? 千里、ゲームめちゃくちゃ上手いのよね。過去に何百回負けたことか……」


美月達も来たのか? 画面から目が離せん!


「兄ちゃんも超上手いよ。わたしの師匠なんだ」


おおー師匠復活!


「よし、一気に決めてやるぜ!!」


後転しながら立ち上がる浜っ子さん。距離を詰めて、下段から天空へと昇る必殺の蹴りを……かわされた!?


「危ない。でもセーフ」


「ぐっ!」


浜っ子さんは、タイミングがシビアな回避技、マタドールを使って攻撃を反らした


反らされた蹴りは虚しくも高く上がり、上がりきった所で掴まれる


「今!」


千里の気合いが入った声から放たれるのは、浜っ子さん最大の奥義――


「む、無想転生!」


「無より転じて生を得る。恭君、また今度やろうね」


そう言って千里は立ち上がり、珍しく笑顔を見せた。画面上では、サン・ポールが馬乗りにされてボコボコに殴られている。そう、無想転生はライフを半分近く消費し発動する、決まったら逃げ出せない浜っ子さんの究極奥義なのである


「強いな千里。いや、フラッド・ガール」


「……それ、やっぱり恥ずかしいし」


そして砕け散るサン・ポール。千里は続きをやらない気なのか、台を離れて雪葉達に近寄った


「上手いのね、千里」


「ありがと。雪ちゃん次、やってみる?」


「え!? わ、私、ゲーム出来ないよ?」


「大丈夫。師父ならやれる」


そう言い、千里は雪葉をじっと見つめて手を握る。千里の奴、どうもマジで雪葉を尊敬している節があるんだよな


「雪葉」


「は、はい、お兄ちゃん」


「試しにやってみたらどうだ? 横で見てるからさ」


意外と気に入ったりして


「……うん。じゃあちょっとだけ」


若干ビビりながら、雪葉は台の前へと向かう。その横では花梨がSPみたく付き添っている


「横で見よーっと」


「私も」


解散し始めたギャラリー達を避け、美月やリサも側にやって来た。俺達に囲まれた雪葉は気まずそうに席へ着き、そして震える手でレバーを……


「って、そんなに緊張するなよ」


「う、うん……」


ちやちゃらぽらりーちゃららぽりー


始まった!


「雪葉、先ずはパンチとキックボタンを覚えるんだ。横にある六個のボタンを打ち分けろ」


「こ、これ?」


「雪ちゃん。基本はガード。レバーを引いて、きっちり守る」


「こう?」


「雪、飛び道具、飛び道具! レバーを下からぐりっと斜め上に上げて、Aボタンだ!」


「え、えい!」


「ヤバい、来るぞ雪葉! ジャンプだ、レバーを素早く上に上げろ!!」


「雪ちゃん。ここは回避。バックステップで一瞬無敵。お勧め」


「カウンター行けー!」


「わ、分かんないよ〜」


三人から同時に指示されて、混乱する雪葉。結局浜っ子さんは相手の技をまともに喰らい、砕け散った


「あ……。ごめんなさい」


雪葉は、しょんぼりとしてしまった


「い、いや、俺達の方こそ」


「ごめん、雪」


「詫助」


俺達もしょんぼりした所で、ファイナルラウンド。さっきとは打って変わって、無言な俺達を気にしつつ、雪葉はポチポチとボタンを押す


「適当にやれば佐藤さん? たかがゲームなんだし」


「されど人生」


「あのねぇ」


「はいはい、あんた達二人は黙って見てなさい。雪、気楽にね」


「う、うん。ありがとう花梨ちゃん」


結局この後直ぐに雪葉は負けてしまったが、楽しそうにやれたみたいなのでオッケーだ。なんでか知らんが千里も満足そうに頷いてるし


「さて、それじゃそろそろ次の場所に行くか」


何か忘れている気もするが……あ


「風子達は何処行った?」


皆にそう尋ねると、千里が手を上げた


「はい、先生」


「はい、千里君」


「脱衣系」


「脱衣系?」


「風見さん、さっき脱ぎ脱ぎ麻雀に座ってたじゃん」


「…………渋いな」


流石風子。ハードボイルドだぜ


「それじゃ宮ちゃんは?」


「風見さんの後ろで」


「…………」


見てるのか?


「よーし、わたしも麻雀やるぞー」


「お前にはまだ早い」


美月を止め、大人であるわたくしめは皆を待たせていざ麻雀へ


「…………」


寂れたゲーセンの、更に寂れた店の奥。紫煙と殺気漂う大人のコーナー


「久しぶり……だな。キャサリン」


若い頃、母に多額の借金をしてまでこの女に貢いだものだ


セロハンテープでボタンを補強してある台を軽く撫で、更に奥へと向かう


「お、いた」


一番奥の角で、場にそぐわないちっこい背中を二つ発見


「おーい」


「ひっ!?」


鳥里さんの体はビクンと跳ね、そのまま振り返らずに全力で逃げて行った


「…………」


「宮はまだお兄さんが苦手みたいだね」


「まぁな。つか脱衣麻雀ってお前……」


風子の横に立ち、画面を覗いてみる。どうやら既に四枚脱がしているらしく、残り一枚となっていた


「父さんが麻雀好きで、このゲームをやっているのも何回か見た事があるんだ。それで少し懐かしくって――」


《ローン! 国士無双よ〜》


「……ふふ。負けちゃった」


画面から目を離し、俺を見上げる風子。泣きそうなのをごまかしている様な、そんな表情だ


「風子?」


「なんでもないよ、お兄さん。さ、みんなの所へ行こう」


席から立ち上がり、風子はそのまま雪葉達の方へと歩き向かう


「……何か困った事があったら、何でも言えよ?」


的外れかも知れないが、俺はそんな言葉を風子の背中に掛けていた。風子は振り向き、そして


「――うん」


可愛らしい笑顔で頷いてくれた



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