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俺の遊び 9

「ここ。ここが今、一番熱い」


市民会館から歩くこと十分。千里に連れられて着いた場所は、俺がよく行くゲーセンだった


「って、ここか?」


店長は良い人だし客も穏やかな奴が多いが、はっきり言ってボロいし、子供が好んで来る場所ではない


「あ、ゲーセンじゃん。わたし、キャプテン翼子バトルロワイヤルとか強いよ? あるかな?」


「それ私も上手いわよ、坂上さん。家にゲームあるもの。勝負してみる?」


「よーし、明日の牛乳賭けて勝負だ!」


「……牛乳なら普通にあげても良いんだけど」


自動ドアを開けて先に店へ入った美月を追い、リサもまた入って行く


「俺達も行くか?」


「うん……。ここって、お兄ちゃんがよく行くお店だよね?」


「ああ。そんなに混まないし、中々良い店だぞ」


仲睦まじい、いちゃつきカップルも居ないしな!


「恭君もこの店に来るの?」


雪葉の発言に、千里は意外そうな顔で聞き返した


「うん。お兄ちゃんが、よくぬいぐるみを取って来てくれるんだ♪」


「そう……恭君、きょうくん、きょー。ま、まさか」


ゴクリ。それは緊張か恐怖か、千里の喉が鳴った


「千里ちゃん?」


「な、何でもない。入ろう、雪ちゃん」


「え? う、うん」


千里に引っ張られ、雪葉も店の中へと入って行く。後は花梨達だが、花梨はゲーセンの看板を見たまま立ち止まっている


「……ゲームセンター、か」


「どうしたんだい、花梨」


「え? な、何でもないわ。ほ、ほら、風子、宮。早く入りましょう!」


「あ、ま、待って花梨ちゃん。置いてかないでぇ!」


ようやく動き出したと思ったら、鳥里さんは悲鳴に近い声をあげて俺から逃げる様に入って行った


「…………」


俺も入ろ



ざわ……ざわざわ


店に入った瞬間、俺は店内に立ち込める張つめた空気に気付いた。これは懐かしき戦場の匂い……


「あ、あれはどんな優勢な時でも決して攻撃を弛めず、冷静に相手を倒す様からインフィニティ・フラッド・ガールと言うちょっぴり恥ずかしい二つ名を暇な店長から与えられた女の子じゃないかー!!」


な、なに!? や、奴が今日、来ているのか?


「ちょっと待て! い、入り口の前に居る死んだ目をした男は、金が無いのか毎回100円だけゲームをして帰るのを繰り返す内に、だんだんと上手くなってゆき、終いには100円で五、六時間も粘れる様になってしまった店側からしたら迷惑極まりない男、ワンコイン・キョーだぁああ!!」


やべ、恥ずかしい!


咄嗟に俯いて顔を隠す。すると、俺の前に小さな靴を履いた誰かが立った


「ワンコイン・キョー。その名前、嵐の如く私の心を荒らす」


「……インフィニティ・フラットか。感じるぜ、お前の凍気」


俺は顔をゆっくりと上げる。俺の前に立つ者は、少女ではない。少女の皮を被った一匹の獣だ


「お前がそうだったとはな……、気付かなかったぜ」


過去に二度格闘ゲームで対戦し、一勝一敗。全盛期の俺を、僅か三分で帰宅させた相手だ


「最後の対戦後、顔を見ようとした時はギャラリーに囲まれてて、全然見れなかった。それ以降店に来なくなったし……逢いたかった」


「……やるか?」


「やるし」


交差する視線。頷いた瞬間、龍虎は相打つ


「対戦機種は?」


「お任せ。ブランクあり?」


「ある……が。お任せとは余裕だな。家ではほぼ毎日やっているぞ?」


暇だから


「実戦から離れた猟犬は、吠えるだけのただの犬。私はずっと第一線に立っていた。暇だったし」


「ふ、らしいな。お前からは俺と同じオーラを感じる」


暇人だけが出せる、面倒臭がりやのオーラだ!


「ブッチャーファイター3。これが俺を再び戦場に呼び戻すだろう」


「了解。KO行くよ?」


そして俺達は店の奥に向かって歩き出す。雑兵達は、急いで道を開けた


「た、大変だ! キョーとフラット・ガールが試合を始めるぞ!!」


「み、みんなに知らせないと!」


俺達の話を聞いていたのか、店の客達が一斉にメールや電話をし始めた。その様子を、クレーンゲームの前に居た雪葉や花梨達が不安げに見ている


「お、お兄ちゃん?」


「ふ、大丈夫だ。ちょっと昔に戻るだけさ」


心配そうな雪葉の前を通り過ぎ、俺達は対戦機の前に立つ。古い機種なので微妙に小汚ないが、これがまた良い味を出していた


「…………」


「…………」


互いに無言で別れ、俺が手前側、千里が奥側の椅子に座った。財布から100円を取り出し、強く握る


「一戦コンピューターを相手に練習しても良いか?」


「許可」


「では」


挿入口に100円を落とす。――コトン


ゲームを止めて、俺達を囲んだゲーマー達。静寂の店内、100円が機械に落ちる音、響く


ちゃららぱらーちゃららぱぱー


軽快な電子音と共にゲームは始まった。俺は普段良く使うキャラであるアメリカ生まれの中国人、サン・ポール三世を選ぶ


「き、キョーが超上級者用のキャラ、サン・ポールを選んだぞ!」


「ポールの技、イメヤポナス(私は日本人です)は複雑な操作と間合いを必要とする難易度S指定の超必殺技。実戦で使えるプレイヤーは存在しないと聞いていたが……」


「……奴は使うよ」


「だ、誰だ! 俺の独り言に、耳元でやたら渋い声で返してくれたお前は!」


「あ、あいつはハロウィン・キッド! 一年前のハロウィンに奇抜なファッションでゲーセンに来た時、子供達に菓子を寄越せと絡まれて、ゲーム代全てを奪われた男!?」


「……く、俺も有名になったものだ。キョーよ、見させてもらうぞ? お前の力を」


ラウンド1 ファイツ!


対戦相手はコンピューターが操作する、太郎。オーソドックスな空手使いだ


《次郎拳、次郎拳》


離れた場所から飛ばして来る次郎をガードし、間合いを詰める


《長州拳!》


バックステップでジャンプアッパーな長州拳をかわし、ジャブを一発、二発


《アイヤー、ホイヤー》


《いったいねん、いったいちゅーてるねん!!》


体勢が崩れた、今だ!


レバーを時計回りに一回、逆時計に二回、ABCボタンを同時に押しつつ、Zボタンを5連打。レバーを上、下、半分右回転のYボタンの左が二回のABCボタンから指を外して、心地よく8ビートのリズムでABを刻みつつ、タテタテヨコヨコの丸かいてちょん!


「で、出たー! 銀河を崩壊させる技、イメヤポナス!! 一発でKOだ〜!」


「……やれる。ワンコイン・キョー、まだ世界でやれる!」


やりたくないが


「……待たせたな、千里。いや、インフィニティ・フラット・ガール」


誰だよ、こんなアダ名付けた奴


「……真面目に言われると、少し恥ずかしい」


あ、やっぱり?


「でも、了解。お小遣い投入」


コトン。二度目の投入音は、短く響き


「行くよ?」


「来い」


そして乱入戦が始まった


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