夏の休日 2
「どう、中々気持ちいいでしょ?」
町から少し離れた峠道。姉ちゃんとのドライブは意外と順調で、中々楽しい物だった
「ああ! 風も涼しいし凄く気持ちいいよ」
「ふふ。山の麓で温泉あるから、後でひとっぷろ浴びようか」
「良いね!」
今日の姉ちゃんは何か優しくて良いぜ!
「こんなに気分が良いならもっと早く誘えばよかったかな」
「姉ちゃん……」
「この先がちょっと良い景色がなのよね~」
ニコニコご機嫌な姉ちゃん。だが、次の瞬間その笑顔が凍りついた
「ね、姉ちゃん?」
「……走り屋かしら」
「え?」
振り返ると、後から猛スピードで突っ込んで来る車があった
「二車線しか無いってのに危ないわね。車を端に止めて通り過ぎのを待ちましょうか」
姉ちゃんは言葉通り車を端に止め、通り過ぎるのを待つ。流石姉ちゃん、大人だね
そんな姉ちゃんに対して背後の車は、邪魔だといわんばかりのクラクションを鳴らしながら、俺達を抜かして走り去って行った
「なんなんだアイツ!? 危ないな!」
「………………」
「ね、姉ちゃん?」
姉ちゃんのこめかみがピクピクと動いている
「い、嫌よね交通ルールを守らないアホは。私達はルールを守ってゆっくり行きましょう」
そう言ってエンジンを掛け、発車する。しかしそんな時、再び背後から甲高いスキール音がした
「も、もしかして走り屋のコースなのか此処?」
「ひ、昼には出ない筈なのだけどねぇ」
姉ちゃんの声が震えている
不安で怯えている? 初めて聞く人にはそう聞こえるかも知れない。でも俺は知っている、この声の震え方は!
ゴオオ、ゴオオオと地響きが起き、続いて凄まじい勢いで迫る車
その車は俺達にクラクションをガンガン鳴らし、抜く際に『デカイ車乗ってんじゃねー邪魔だバカヤロウ』と罵声を浴びせた
……バキン!
何かが割れる音にハッとし、隣を見ると、片手でサングラスを握り潰している姉ちゃんの姿
「……バカヤロウだ? ああん!?」
「ね、姉様?」
「あたし達を舐めた事を後悔させてやるわ!!」
「ちょっと!? の、のんびりドライブをぅうおおおおお?」
姉ちゃんはアクセルを踏み、車を加速させた。そして左手でシフトチェンジをって
「ATだってこれ!」
「なんで!?」
「アンタいっつも乗ってるだろ!」
「あ~うるさい!」
姉ちゃんはアクセルを吹かす
カタン
一瞬車体が軽く揺れたその瞬間、姉ちゃんはアクセルを強く踏み込んだ。その行為によりエンジンは吠え、一気に加速する!
「ち、向こうはブースト組んだランエボⅥか。直線じゃ、追い付けないわね」
「追い付かないで良いから! ゆっくり行って、ゆっくりって前、てか前にカーブ! スピード、スピード!!」
「……あんた、ドリフトって知ってる?」
「知ってるけど止めて! スピード緩めて!!」
「ATは荷重移動のドリフトしか出来ないのよ?」
「そんな豆知識、いらねー!?」
姉ちゃんは、道のギリギリ端まで車をアウト側に寄らす
「ステアリングが鍵なのよね~。車体が重い分、失敗したら谷底かな」
「呑気な声で物騒な事を言わないでぇえぎゃああああ!?」
車はスピードを緩める事なく、カーブに突入。姉ちゃんは僅か手前でハンドルを左へおもいっきり回し、凄まじい角度でインへと入る
「ひぃいい!?」
横殴りのGが、俺の体にのしかかる。凶暴な鉄の塊は、巨大な車体を滑らし、見事カーブを曲がりきった
「よし、捉えた! 次のコーナーで距離を詰めるわよ!!」
「お、降ろしてぇえ!」
それから三度目のカーブで遂に前の車を、下りの途中で最初の車を抜かす事に成功した。しかしその頃には俺の魂も抜けていた
「た、たす……たすけ……て」
「ふぅ、ちょっとはしゃぎ過ぎたわね。ほら、もうすぐ麓よ。姉ちゃん、肩凝っちゃった」
「あ、悪魔……姉ちゃんは悪魔……」
「あん? そんな事言ってると、昼ご飯奢らないわよ。海が近いから、結構美味しい刺身が出るのよね~」
ふんふふ~んと、上機嫌で鼻歌まじりに運転する姉ちゃん。薄れる意識の中で俺は、二度と二人だけではドライブに行かないと誓った
今日のスピード違反
夏>>>>>他
「うーん、食べた、食べた。じゃあ帰りましょうか」
「そうだね……ん? うわ!?」
「夏紀様、ちわっーす!」
「さっきはご指導、あざっすたー!!」
「あら、あんた達も此処で食事?」
「はい! 夏紀様の車をお見かけして、洗車しておきましたー!!」
「ご苦労。これからは安全運転しなさいよ?」
「はい! それでは失礼しまーす!!」
「ええ」
「…………な、なに今の人達。いきなり90度のお辞儀を披露してくれたけど」
「さっきの走り屋」
「…………」
ようやっと