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秋姉 2

また中途半端な所で番外編です。いつか必ず全部を整理をしますので、お許しを……

公園で恭介と遊んでいた時、男の子達が近付いて来た事があった


男の子達はニヤニヤと頬を緩ませながら私達の側に寄って、折り紙で出来た手裏剣? を幾つも恭介に投げ付ける


『……だめ』


私は泣きそうな恭介の前に立って、守ろうとしたけど、男の子達は止めてくれない


『だめ!』


精一杯強く言う。すると男の子達はつまらなそうな顔をして


『いっつも姉ちゃんに庇ってもらって、かっこわり。行こうぜ』


そう言ってブランコがある方へと走って行った


『……大丈夫?』


『う、うん。へっちゃらだよ!』


目は潤んでいるし、体も震えている。とても大丈夫だなんて思わない


『……私、あの子達とお話してくる』


突然あんな事をするなんて、冗談でも許さない


『や、止めてよ! あいつら乱暴なんだから。僕は全然大丈夫なの、余計な事しないで』


『……ん』


必死に止める恭介。私は頷いて、手を繋ぐ


『秋お姉ちゃん?』


『……帰ろう?』


『……うん』


公園から家に帰るまで、5分の時間。その間恭介は、不自然なぐらい明るくて、色々な話をしてくれた。でもその中に、さっきの事と関係ありそうな話は無かった


『それでね、秋お姉ちゃん』


『ん……凄いね』


無理しているの分かる。でも、恭介は私の前では無理をし続ける


だから私も無理をして、普通を装って話を聞いていた


家に帰って、手洗いうがいを済ませた後、恭介は真っ直ぐ部屋に戻って行った。普段なら部屋で一緒に遊んだり、雪葉の所へ行ったりするのに


『…………』


心配。だけど、恭介は私を頼ってくれない


私は消えた恭介の背中をしばらく見送って、自分の部屋へ戻った



部屋に戻った後も、胸のモヤモヤは続いていた。恭介はイジメられているのかな? 前にアザだらけで帰って来た時、転んだと言っていたけど、もしかしてそれも……


『……どうしよう』


もし本当にイジメなら守らなくちゃ。でも、どうしたら良いの?


『……相談』


そうだ、私には相談出来る人が居る。いつも私を守ってくれる強くて優しい人


私は部屋を出て、部屋の隣にある階段を上がる


きっと姉さんなら、なんとかしてくれる。一番良い解決方法を教えてくれる


階段を上がり終わり、左側のドアをノックしようとした時、ドアが僅かに開いていた事に気付いた


『――なんだ』


中から聞こえてくるのは恭介の声?


『そう、イジメられちゃってるのね』


イジメ。その単語を聞いた私の体は、止まってしまう。姉さんに相談しているの?


『……どうしてかな。僕みんなに何か悪い事してるのかな?』


『そうねぇ……、恭ちゃんは優しくて怒らないでしょう? だから遊び半分でイジメられちゃってるのかも』


『遊び半分で?』


『少し難しい話なんだけどね、イジメってやる側の子は罪悪感や痛みが無い場合があるの。それは誰かをイジメるとスッキリするから、楽しいからやっているだけで、遊びの延長だからなのよ』


『遊び……なの?』


『かもしれない。本当の理由は本人しか分からないけど、少なくともアタシは恭ちゃんが悪くてイジメられるなんて事は無いと思うもの』


『……やっぱり怒らないと駄目なのかな。でも、よしお君達を叩きたくない……。駄目だよね僕って。なんでこんなに弱いんだろ』


『ううん、恭ちゃんはとっても勇気があって強い子よ。だって前にアタシを変態から守ってくれたじゃない。あの時みたいに恭ちゃんが怒らないのは、よしお君達を友達だと思っているから。それは弱さじゃなく、優しさと強さ。でも、イジメてる子達がそれに気付くのは今よりずっと後かも知れない。それでも恭ちゃんは今のままで居てほしい、お姉ちゃんそう思ってる』


『…………』


『……イジメの事、話してくれてありがとう。お姉ちゃん凄く嬉しい。それで……ね、この事はお姉ちゃんだけじゃ解決出来ないかも知れないの。だから恭ちゃんの先生に相談したいんだけど……させてくれるかな?』


『え? で、でもそんな事したら僕また……』


『もしイジメが酷くなったなら、アタシはどんな事をしてでも恭ちゃんを守る。てゆーか絶対にこれ以上恭ちゃんをイジメさせない!』


『夏紀お姉ちゃん……』


『お願い。お姉ちゃんを信じて』


『……うん。分かったよ夏紀お姉ちゃん。先生にも話す!』


『恭ちゃん……ありがとう。恭ちゃんは本当に勇気ある子だね〜』


『わわ、苦しいよ夏紀お姉ちゃん! 抱きしめないで〜』


『やーよ。うりうり〜』


『…………ん』


恭介はもう大丈夫。それは確信に近い


恭介は夏紀姉さんに相談したんだ……よかった


でもちょっと寂しいな。なんだか胸が苦しくなって、私はそっと階段を下りた



そんな事があって、何日か後。学校が終わって恭介を下駄箱前で待っていた時、恭介が三人の男の子達に囲まれながらトイレへ連れて行かれるのを見た


それは仲良さそうには全く見えず、無理矢理に近い


『…………』


一瞬だけ躊躇した。でも躊躇は直ぐに消えて、私は男子トイレへ走って向かう


『チクってんじゃねーよこの!』


『ぶっ殺す! 超ぶっ殺す!!』


トイレの中では、男の子達が恭介を蹴ったり叩いたりしていた。その中にはトイレブラシで頭をゴシゴシしている子も居る


『っ!』


初めてだった。人を叩いたりしたのは


私は怒りを抑えられず、恭介とトイレブラシを持っている男の子の間に入り、その頬を叩いた。突然現れた私に男の子達はア然としていたけど、その表情は次第に怒りへ変わってゆき、その内の一人が私をドンと突き飛ばす


『きゃ!?』


『お姉ちゃん!? 何するんだ!!』


それからは大変だった。今まで見たことが無いぐらい怒った恭介は、三人の子達とつかみ合いの大喧嘩。何分か後に先生が止めに入った頃には、みんな鼻から血を流していたり、あちこち擦りむいていたり


何でこうなったかと怒る先生に事情を話すと、先生は気まずそうな顔をして、私達だけを先に帰らせた


そして帰り道。雲一つ無い空は涼しい風を運んでくれて、叩かれた部分を優しく癒してくれる


『……痛そう』


鼻に詰められたティッシュが痛々しい


『全然大丈夫! 秋お姉ちゃんこそ大丈夫?』


『うん……。ごめんね、恭介』


『え?』


『……私、何も出来なかった』


守れなかった


『それどころか、私が居たせいでこんなに怪我を……』


赤くなった頬に指で触れると、恭介は僅かに眉をしかめた後


『男の勲章だよ!』


にっこりと笑った


『…………』


『あ〜あ。でもカッコ悪いな僕』


『……そんなことない』


『ん〜ん、やっぱりカッコ悪いよ。お姉ちゃん一人守れないんだもん』


『…………私こそ』


『え?』


『…………』


『……あ〜あ、強くなりたいな〜』


『……うん』


姉さんの様に強くなりたい


『剣道なんて良いかも』


『……剣道?』


『うん。なんかね、三倍なんだって』


『三倍?』


『うん、普通より三倍強いんだよ!』


『??』


剣道……。お母さんに聞いてみようかな



その日から、八年が経って――


「頑張れ、秋姉!!」


県大会、団体戦決勝


徳永さんの突きをまともに受け、半分飛んでしまった意識


その意識の中、その声だけが届いた


身体は自然に動き、私の竹刀は相手の竹刀を刷り上げる。何度も何度も練習をした体捌き、手の動き。徳永さんの突きは私の首を抜けて大きく逸れる


「いけ〜、秋姉〜!!」


「っ! ヤアアアアアアア!!」


流れる様に、吸い込まれる様に。私の竹刀は徳永さんの面へと深く入った


「一本、それまで!」


「…………ふぅ」


勝てた……


「や、やった秋〜」


「これでみんなとインターハイに行けるわ!」


「秋先輩、最高!!」


振り向くと、喜んでくれる部活のみんな。そして恭介達


「…………」


ねぇ、恭介。私、少しは強くなれたかな?


「おめでとう、秋姉〜」


「……ん」


ありがとう、恭介


もう私が守る必要が無いぐらい貴方は強くなったけど、これからも貴方達の姉として誇ってもらえる様に、頑張るからね



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