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燕の訪問 11

コンコン


「ん?」


部屋に戻って10分ぐらいの時間が過ぎた頃、ドアがノックされた。はいよと声を掛け、ドアを開ける


「お、燕か」


「う、うむ」


まだ湯上がりなのか、燕の顔は微かに桃色がかっている。よっ! 姉ちゃん色っぽいね、なんて古きよき下町のオッサンみたいな事を思わず言ってしまいそうだ


「あ、あの……お風呂、お先に頂きました」


「あ、ああ、はい」


丁重に頭を下げる燕に、こっちも恐縮しながら頷く。なんか気まずいな


「それで……私はそろそろ帰ろうかと思う。迷惑を掛けてすまなかった」


「そうか? じゃ、姉ちゃんに送るよう命令してくるぜ」


たまにはしてみたいね、命令 


「いや、一人で帰宅するよ。大丈夫だ」


「駄目だ。送る」


昔、姉ちゃんが変態に襲われそうになった事があった。十時を過ぎた今、一人では行かせられん


「しかし……君も疲れているだろう?」


そう言って、燕は遠慮がちに俺を見つめる。てか俺は留守番するつもりだったんだが……


「まぁ疲れてるけど……車乗るだけだからな。付き合うよ」


燕んち行くのも久しぶりだし


「……すまない」


「気にするなよ。俺とお前の仲だろ?」


あ、やべ!


「あ、ありがとう恭介。そう言って貰えると…………うれしい」


お前って言った事で怒られるかと思ったが、しおらしく礼を言われてしまった


「そ、そうか?」


「うん……」


視線を下げ、頷く燕


「じ、じゃあ姉ちゃんに頼んでくる」


なんか変に照れ臭くなって、俺は逃げる様に姉ちゃんの部屋へ向かった


んで、姉ちゃんの部屋の前。ノックをすると、珍しく直ぐにドアが開く


「あら。何かしら?」


最近酒を飲んで無いからなのか、姉ちゃんは割と穏やかだ。このまま行けば昔に戻ってくれるかもと少し期待してしまう


「今、友達が来てるんだけど、もう帰るらしいから車で家まで送ってくれない?」


「あん? そうねぇ……肩揉み三回ね」


「ではそれでお願いします」


どうせ、いつも揉まされてるし


「着替えるから、10分後ぐらいに外で待ってなさい」


今、姉ちゃんの格好は唐獅子模様のステテコにシャツ。オッサンみたいな格好だ


「はいよ。じゃ後で」


「ええ」


ドアを閉めて階段を下りる。それにしても、すんなり了解してくれたな。こんな感じで、たまに優しいから侮れない


そんな事を考えながら階段を下りきると、部屋の前では燕が待っていた


「燕?」


「あ、恭介」


燕は微笑み、正面からジっと俺を見つめて言葉を待つ


「車、出してもらうから帰る準備してくれ」


「うむ。では、おばさまにご挨拶をしてきます」


そうおしとやかに言い、燕はリビングへ向かって行った


「……う〜ん」


真面目だねぇ。うちのちゃらんぽらん(長女)に見習わせたいものだね、こりゃ


一人で頷きながら、秋姉の部屋へ。直ぐ出て来た秋姉に車の事を話すと、自分も一緒に行くと言う


「そう?」


「ん……邪魔かな?」


「そ、そんな事ないよ」


悪戯っぽく言う秋姉に、慌てて否定したタイミングで、姉ちゃんが下りて来た


「最近、階段を下りると膝が痛いのよね」


「姉ちゃん……」


本当に二十代なのだろうか


「……ありがとう姉さん」


「え!? な、なに?」


久しぶりに秋姉から礼を言われた姉ちゃんは、あわてふためいた。いつも俺をシスコン呼ばわりしているが、姉ちゃんだってかなりのものだよな


「……姉さん、車で送ってくれるって。だからありがとう」


「い、いいのよ全然! アキが望むなら毎日の学校の送り迎えだってしちゃうわよ」


先ずは自分がきちんと学校に行けよ、などと言えない俺に花束を


「さ、さーて車出してこよー」


浮足立って出ていく姉ちゃんを、秋姉は不思議そうに見送る


「……なんだか機嫌良いね、姉さん」


「複雑な性格してるからね」


いや、単純か?


「複雑?」


「いや、なんでも。それじゃ秋姉は先に車で待ってて」


「……うん」


俺はリビングへ燕を迎えに行くか


んでもってリビングに行くと、春菜がまだ蕎麦を食っていた


「って、あれ? お前、うどんを食ってなかったけ?」


「うどん、そーめん、そして蕎麦の順番だけど?」


「いや、そんなそれがどうかしましたか? 的な目で見られてもな……」


こいつ一人で我が家のエンゲル係数は、どれだけ上がってるんだろう


「ところで燕は?」


リビングを見回しても発見出来ない


「さっきも聞いてたな。台所で母ちゃんとなんかやってるぞ」


「ふ〜ん?」


覗いてみるか


「燕〜」


リビングとキッチンを繋ぐドアを開けて、燕を呼ぶ。すると調理場で母ちゃんと一緒にしゃがみ込んでいた燕が顔を上げた


「あ、恭介……。すまない、待たせてしまったかね?」


「大丈夫だが、何やってんだ?」


「うむ。実はおばさまからぬか床の作り方を教わっていたのだ」


その言葉通り手袋をはめた母ちゃんが、ぬかを一生懸命混ぜている


「さっき燕ちゃんが美味しいって言ってくれたのよ〜。だから、ぬか分けしてるの〜」


「……へぇ」


また渋い事を


「ぬか分けをありがとうございます、おばさま。大切に使います」


「いいのよ〜。駄目になったらまた分けるから遠慮なく言ってね〜」


「はい!」


ぬかが入ったビニール袋を片手に、超良い笑顔を見せる燕。なんだろうこのミスマッチさは


「……そろそろ良いか、燕?」


「ご、ごめんなさい。おばさま。今日は夜遅くにお邪魔してしまい、申し訳ございませんでした。そろそろ、おいとまいたします」


「は〜い。気をつけて帰るのよ〜」


「ま、送ってくから」


「当たり前よね〜」


当たり前らしい


「じゃ、行くべ」


「うむ。……頂いたお料理、とても美味しかったです。今日は本当にありがとうございました」


燕は最後に深く頭を下げて、礼を言った。相変わらず生真面目で堅苦しい奴だが、これが燕なんだよな


「ほんと、変わらないな」


出会った頃のままだ


「む?」


「なんでもね。さ、行くべ、行くべ」


「わ、わ。お、押さないでくれたまえ!」


この偉そうな口調も変わらないし。威厳をつける為とか言ってたが、あまり効果なさそうだ


「む。人の顔を見て、ニヤニヤしないでくれないかね。失礼だぞ」


「悪い悪い」


ま、俺も変わってないか




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