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燕の訪問 10

「ただいま……ふぅ」


疲れた。帰ったら手洗いうがい? そんなもんは軟弱な奴らがする事さ


てな事で直接リビングへ行く。リビングには秋姉達はおらず、 春菜がうどんを食っていた


「よ、春菜。燕達を知らないか?」


「秋姉の部屋じゃない?」


うどんをすすりながら、春菜は上目で俺を見る。どうやら今は、うどんに集中したいようだ


「あ、母ちゃん」


キッチンから出て来た母ちゃんに声を掛けると、母ちゃんは相変わらずの細めで


「なにかしら〜」


と、呑気に返してくる


「さっきはありがとう」


さっきとは、ホテルでの事。結局俺だけでは泊まれず、母ちゃんに電話してみた所、ホテルの人に代われと言われ、代わってみたら支配人が出て来て平謝り。そして半額で泊めてくれたと言う、不可思議体験をして来たのだ


「どういたしまして〜」


「うん、助かったよ」


母ちゃんはソファーに座り、チャンネルをポチポチ


「なぁ兄貴」


「ん?」


「なんか疲れてない?」


「分かるか? 今日は歩き過ぎた」


自慢じゃないが普段運動していない俺は、歩いて15分の駅を何度か往復するだけで体力の限界を超えてしまうスーパーモヤシっ子なのである


「ふ〜ん。うどん食ったらマッサージしてやろうか?」


「いや、大丈夫だ。ありがとよ」


さて、部屋に戻る前に燕に会って来るかな


リビングを出て秋姉の部屋の前へ行き、軽いノック。はいっと返事があった後、静かに襖が開いた


「……おかえりなさい」


「ただいま秋姉。静流さん、明日は試合をしないでそのまま京都に帰るって」


「そうなんだ……残念」


「そうだね」


全国でもトップクラスの相手と試合をする機会を逃したのだ、真田先輩も残念がるだろう


「ん……。一緒にお昼食べたかったな」


あ、そっちか


「秋姉に宜しくって。インターハイで会おうってさ」


そう秋姉に伝えながら、先程の会話を思い出す


『本当に重ね重ね、ご迷惑をお掛けしました。恭介さんには、大変な恩義を感じております』


宿泊騒ぎがあった後、静流さんは俺に申し訳なさそうに頭を下げ、礼を言った


『俺は特に何もしてないから。気にしてないでくれ』


『……やっぱり優しいですね』


静流さんは微笑んだが、その口調からは若干の憂いが感じられた


『静流さん?』


『受けた恩は全てが終わった後に、必ずお返しします』


『あ、ああ』


『……では、失礼致します。佐藤……さんに宜しくお伝え下さい』


それだけを言って、静流さんは俺から逃げる様に立ち去る。その後ろ姿はとても小さく見えた


「…………」


「…………恭介?」


「え? あ」


秋姉をほっといて、考え事なんかしてしまった


「ごめん、ぼーっとしてた」


多分静流さんは秋姉と出会い、秋姉を敵だと思えなくなってきてしまったのだろう。急に帰ると言い出したのは、これ以上馴れ合いたくないからだと予想する


この考えがあってるかどうかは分からないが、一度そう考えてしまうと、何だか静流さんが可哀相に思えてくる


「……インターハイ頑張ってね秋姉」


だけど、やはり俺は秋姉を応援したい。今年が最後なのだ、全力で頑張って欲しい


「? ……ん」


秋姉は多分難しい顔をしているであろう俺を不思議そうに見つめ、こくんと頷いた


「うん……ところで燕は部屋?」


今気付いたが、秋姉の部屋に人が居る気配がない



「……お風呂」


「風呂?」


なぜに風呂?


「……燕の家は10時過ぎると入浴禁止みたいだから……」


秋姉が入ってけ、と薦めたらしい


「ふ〜ん……」


風呂……か。清廉潔白を絵で描いた様な好青年である俺は、女友達が風呂に入っていようが気にも止めない。ただ、手洗いうがいを忘れていた事を思い出し、足は自然と洗面所の方へ向いて……


「……恭介」


「は、はい!」


よこしまなオーラが出てたか!?


「ん……燕、大変そう」


「え?」


「……力になってあげて欲しい」


「あ、うん」


良く分からんが、力になれる事なら力になってやろうと思う


「うん……」


どこかホッとしたように微笑み、部屋に入るかと秋姉は尋ねた。俺はそれを断り、自分の部屋へと行く


なんか色々複雑な事が起きそうだが、俺は俺で普通に頑張れば良いやね。頑張ってるかと聞かれれば何とも言えんが……


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