燕の訪問 6
部屋を出ると、ちょうど秋姉が玄関で靴を揃えている所だった
「おかえり、秋姉」
「……ん。ただいま」
はんなり秋姉に、俺の魂が癒される
「真田先輩と燕が来てるよ」
「……奈都美も? 珍しいね」
「俺の部屋で待っててもらってるから」
「ん……ありがとう。着替えてくるね」
そう言い秋姉は、ショートポニーを軽く揺らし、自分の部屋に入って行く
「さて」
俺も戻るか
「先程は睨んでしまい、申し訳ございませんでした」
部屋へ戻ると、まず静流さんは俺にそう言って頭を下げた
「ああ、良いよ。気にしてないから」
ビビったのは秘密だ
「本当に申し訳ございません……。明鏡止水、未だ遠い」
静流さんがそう呟いた数秒後、コンコンと部屋のドアがノックされた。秋姉かな?
「はい、どうぞ」
ドアを開けると、やはり秋姉が立っていた。白と黒のボーダーシャツに青のジーンズ。シンプルながら、美しい……
「こんばんは、秋」
「お邪魔してるわよ秋」
燕と先輩が挨拶し、秋姉が静かに、いらっしゃいと返事する。そして静流さんを見て、目を丸くした
「秋姉?」
「ん。……六桜さん?」
「はい……。佐藤 秋さん……ですね?」
強い目で秋姉の顔を見つめる静流さんに秋姉は頷き、燕の横、静流さんの向かい側に正座した
「……はじめまして、六桜さん。佐藤 秋です」
「……六桜です」
「ん……県大会、優勝おめでとう。決勝戦、本当に凄かったよ」
「ありがとうございます秋さん。私も貴女の試合を拝見させて頂きましたが――」
そこで一度、静流さんは言葉を句切った。そして
おもむろに立ち上がり、
「秋さん、私、貴女を恨んでいます」
と、言い放った
「し、静流さん?」
「ごめんなさい、恭介さん。ですが……」
静流さんは、そのまま黙り込んでしまう。俺や燕達は、そんな静流さんに声を掛ける事も出来ず、部屋は重苦しい雰囲気に包まれる
「…………え、えっと。さ、真田先輩?」
この雰囲気をなんとかしてくれ〜
「え!? あ、あ〜美味しいお茶。静岡かな? 美味しいお茶は、静岡で決っまり〜♪」
「…………」
「…………」
先輩はサン〇リアのCMみたいな事を言い出したが、周りの反応は無い。しかしその勇気を俺は認めてあげたいと思います
「……これは私怨です。秋さんは何も悪くありません」
気まずそうな先輩を慈愛の眼差しで見ていると、静流さんは再び口を開き始めた。口調は穏やかだが、どこか物悲しい
「ですが、徳永が敗れた今、私にはこの道しかありません。秋さん、私はインターハイで貴女を完膚なく倒し、父の強さを証明します。宗院などの臆病者が、父と同等に語られない為に!」
秋姉を見る静流さんの目に、明確な敵意が宿る。それを感じ、俺の足は微かに震えた
「な、なん……だと」
これは暗黒雪葉のプレッシャーに近い。この俺が鬼以外の人物に震えるとは……ん? 鬼? 鬼の父……ま、まさか!
「六桜 静流!?」
「は、はい! な、なんでしょう?」
突然フルネームを呼ばれたからか静流さんは、びっくっと背筋を伸ばし、恐る恐る俺を見つめた
「い、いや……もしかして静流さんって六桜 久志さんの?」
「あ、お父さんを知っているのですか? 嬉しいです!」
胸の前で両手を合わせ、
静流さんは嬉しそうに笑う
「そ、そうか……。君が天才、六桜 静流さん。なんで気付かなかったんだ俺」
綾さんから聞いていたのに
「そ、そんな。私、天才なんかじゃないです。平々凡々、まだまだです」
「いやいや、噂は聞いてますぜ」
「ど、どのような噂なのでしょう。少し気になります……」
モジモジする静流さん。なんだかモジモジしたくなるぜ
「ん……仲良し」
そんな俺達を見て、微笑む秋姉。この微笑みだけで俺は、DVDに三万出せる
「ほらほら静流さん。取り敢えず座って、お茶を飲みましょう。美味しいわよ」
「あ、は、はい」
穏やかな先輩の声を受け静流さんは、ちょこんと正座した。そして思い出したかの様に、
「えと……せ、宣戦布告でした!」
と、秋姉にペこりと頭を下げる。しかし宣戦布告か、秋姉争いごとが苦手な人だからな……
「ん……受けて立つ」
「え!?」
秋姉が勝負を受けた? め、珍しい
「……秋さん」
「負けない」
「わ、私も! 負けませんっ!!」
おお、二人の間に火花が見える! これは是非、特等席で試合を見なくては
「取り敢えず」
そんな二人を尻目に、先輩は呑気な声を出す。そして言った
「明日、練習試合をしてみない? お互いに得るものがあると思うわ」
何か企んでそうな顔で