燕の訪問 5
「なのです」
「なるほど、ここですか……ふむぅ」
「あ、ほんと。気持ち良い」
お茶と適当な和菓子をトレイに乗せて自分の部屋の前に戻ると、和やかな話し声が聞こえた。どうやらある程度は打ち解けた様だな。よし、此処は俺も明るく!
「は〜い、お待たせ。おいしいお茶ですよ〜」
明るくドアを開けると、燕と先輩が服の上から自分達の胸を、静流さんの前で揉んでいた
「…………」
「…………」
「…………」
「……ごめん、邪魔したみたいだ」
きっと女同士、色々あるのだろう。ここは一つ空気を読んで……
「ま、待ちたまえ!」
「お待ち下さい!!」
「待って、佐藤君!」
ドアを閉めて立ち去ろうとすると、固まっていた三人は一斉に動き出し、俺を呼び止めた
「ち、違うのだこれは」
「そ、そうです。胸にあるツボをお教えしていただけなのです!」
「ふ〜ん」
ツボねぇ
「静流さん、ツボに詳しいから肩コリ解消に私が聞いたのよ。最近特に重くって」
重くて。先輩の言葉に燕は自分の胸と先輩の胸を見比べた。が、それを俺に見られた事に気づき、慌てて
「だ、男性が居る前で、はしたないぞ奈都美!」
と、頑固親父みたいな事を言い出した
「え? あ! か、肩よ肩! 肩が重いって事」
「か、肩? ……そう。すまない、変な勘違いをしてしまった」
「もう、燕ちゃんたら」
恥ずかしがる燕の頬を、顔を赤くした先輩が指でつんつんと突く。なんだか俺もつんつんしたくなる光景だぜ
「まぁ、なんでもないなら良いんだけどさ」
つんつんは我慢し、とりあえず部屋に入ってお茶と数種類の和菓子を配る
「ありがとう恭介」
「ありがとうございます恭介さん」
「ありがとうね、恭介君」
三人に微笑まれてしまった。流石に少しドキドキするな
「あ、栗のお饅頭ね。はい、燕ちゃん」
「ありがとう奈都美。ではこちらの羊羹を」
お互いの好きな菓子をトレードする二人。なんか微笑ましい
「……お二方はとても仲が宜しいのですね。一目瞭然、羨ましいです」
はふぅと溜息をつき、窓から空を見上げる。まさに上の空って感じだ
「六桜さん?」
心配したのか燕が声を掛けると、静流さんは燕と先輩の顔を見比べ、ぽつりと尋ねる
「お二方は佐藤 秋……さんとも仲が宜しいのですか?」
秋姉? なんで今、秋姉の名前が出て来る?
答えを求めて視線をさ迷わせると、何故か困った顔をしていた先輩と目が合ってしまった
「……そうですね。秋は私の……、私と奈都美の大切な親友です」
静流さんの問いに、ゆっくりと優しい口調で答える燕。燕がいかに秋姉を大切にしているのかが、分かる
「親友……」
静流さんは考え込み、
「どのような方なのでしょうか、秋さんという方は」
「秋ですか? 秋は……うむむ」
「あ、難しい質問をしてしまいました。申し訳ございません」
「いえ、大丈夫です。そうですね……、一言で言うと綺麗な女性です。それは容姿が、と言う事では無く、心や生き方、考え方が綺麗で強い」
「強い……」
「そして、とても穏やかな女性です。穏やかで優しい。強さと優しさを併せ持つ、稀な女性だと私は思っています」
「……英雄豪傑、素敵な方なのですね。ありがとうございました、菊水さん」
静流さんは弱く微笑み、視線を床に落とす
「……ただいま」
そんな時、廊下から秋姉の声が聞こえた
「秋姉、帰って来たみたいですね。今、呼んで来ます」
「っ!」
「ん? うわ!?」
静流さんの体がぴくんと跳ねた気がし、目を向けてみると、静流さんは凄い目つきで俺を睨んでいた
「え? あ、し、失礼しました」
そしてまた俯いてしまう
「あ、ああ」
眼力だけでこの俺をビビらすとは……ただ者じゃないな! ちっこいのに