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燕の訪問 2

細い道。空はまだ明るいが、電灯がちらほらと点き始めた。燕は俺の左側を、相変わらず一歩下がった距離で歩いている


「ひっく」


「…………」


「ひっく」


「…………」


もうじき俺の家へ着くのだが、燕のしゃっくりは治まる気配が無い


「ひっく。ひっく」


それどころか悪くなっている様な気がする。少し心配だな……よし


「後、60回か」


「ひっく。何がだね?」


「ほら、100回しゃっくりすると死ぬとかって言うだろ? もう40回ぐらいやったかなって」


「そんな事でひっく。死ぬのならば、私はとうの昔に死んでいる」


「そうだよな。死ぬ訳無いよな。声が野太くなるだけで」


「んくっ!?」


燕は息を飲み、大きく見開いた目で俺の顔を見つめながら尋ねる


「そ、そうなの?」


「いや、冗談」


「む!」


丸くなっていた目が、吊り上がって三角になってしまう。肝心のしゃっくりはと言うと


「悪い冗談ひっく。止めてくれたまえ」


継続中だ


「豆腐の原料は?」


「大豆だ。何故このタイミングで聞く?」


「この質問も民間療法の一つらしい。……もしかして止まったか?」


「む…………ひっく」


駄目か


「他は……」


携帯を取り出し、検索する


「……キス」


「えっ!?」


「は違うか」


「…………ひっく」


キスで治るのは、恋愛小説だけだな


「茄子の色は?」


「ムラサキだ!」


「な、なんで怒ってるんだよ?」


「怒ってない! ひっく」


プイっと顔を逸らす燕。なんだか分からんが、機嫌を損ねてしまった様だ


そしてタイミングが良いのか悪いのか。またしても見知った顔が、道の向かい側から歩いて来ていた。本当今日は千客万来

っ奴だな


「今帰りか?」 


俺は制服を着た男、遠藤に声を掛ける


「ああ、キング・ブラザー。これは奇遇ですね」


遠藤は前髪を軽くかきあげて、薄く笑う


「そのあだ名、外で使うの止めてくれよ」


恥ずかしいじゃないか


「では佐藤くん。おや、そちらの方は……き、菊水 燕か!?」


「む? 突然大声で人の名を呼ぶのは失礼だぞ、ひっく。君」


「何故貴様が我が党首、キング・ブラザーと歩いている!」


党首言わんといて〜


「ひっく。彼は友人だ」


「お、怨敵である貴様とキング・ブラザーが友人だと……馬鹿な」


「ん? なんだ、二人は知り合いか?」


陰険になりそうな雰囲気だったので、敢えて気軽に声を掛けてみる。とは言っても燕は何の事だか分かっていないみたいだが


「……ええ。5月に行った鳴神、朱白、光沢の三校の生徒会による教育改革をテーマにした討論会にて、相まみえました」


「おいおい」


この地域の高校は、生徒会によって教育改革されているのか?


「菊水 燕! 私は忘れてはいないぞ、あの日の屈辱を!!」


「ふむ? ああ、遠藤君か。その節はひっく。世話にひっく」


「馬鹿にしているのか、菊水 燕!」


「い、いや、そんな訳ではひっく。無いのだが。すまない、しゃっくひっく。止まらないのだ」


「そうか、それなら仕方ない。……と言う訳で、今から新たな討論をするぞ!」


何が、と言う訳なのだろうか?


「ひっく。後日にして頂けないか? ひっく。今日は忙しいのだ」


燕は俺を見上げ、僅かに体を寄せる。燕本人は絶対に認めないだろうが、俺に守って欲しい時にする仕草なんだよな、これ


「……悪い、遠藤。燕は今から俺んちに行く所なんだ」


「な、なんと!? 菊水 燕がブラザーのご自宅へ? ……ば、馬鹿な」


「秋姉の親友なんだよ、燕は。だから此処は退いてくれないか?」


「……分かりました。不本意ですが、確かに菊水 燕ならば秋様の友に相応しいかも知れません。だが菊水 燕よ、私は貴様が嫌いだ! いつか必ず貴様に勝ってみせる! 先ずは来月行われる全統模試の結果を――」


「私は塾に通ってはいないぞ。ひっく」


「家庭教師か!」


「いや、私は人見知りがあってな。ひっく。一人で勉強した方が捗る」


「そ、それであの成績が取れるとは……はは」


遠藤は肩を落とし、虚空を見つめて悲しげに笑う


「……行こうぜ、燕」


「し、しかし、彼は良いのかね? なんだか様子が……」


「男には、ほっといて欲しい時があるのさ」


あばよ、遠藤。また学校で会おう


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