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第141話:春の誤解

「ただいま」


家に帰ると例え誰も居なくても、ただいまと言ってしまう。習慣って奴だ


「おかえり兄貴」


しかし今日は返事があった。顔でも洗っていたのだろうか、洗面所から春菜がひょっこり顔を出す


「お、居たのか。ちょうど良かった、おやつ買って来たぞ。食うだろ?」


「いらね」


「……え?」


俺の知ってる限り、春菜は今まで一度もおやつの誘いを断った事が無い。しかし今、空耳じゃなかったら断られた様な……


「なんか胸が苦しくてさ」


「ええ!?」


ま、まさかそれは恋わずらい


「三郎」


「三郎!」


「亀吉」


「亀吉!!」


「ボンゴレラ」


「何処の国の人!?」


「部活帰りにラーメンを三郎で食った後、駅前の亀吉でうどん食って、シメに駅裏にあるボンゴレラでパスタを食べたんだけど、やっぱ食い合わせが悪かったかな」


「食い合わせの問題じゃねえよ! キャ〇ジンでも飲んどけ!」


胃に優しいです


「そういえば兄貴」


「……なんだよ」


びっくりさせやがって


「兄貴は私のパンツでエロい妄想してるのか?」


「なんなんだよ!?」


「いや、今日一緒にラーメン食いに行った友達に言われたんだ。兄貴は絶対に変態でシスコンのパンツマニアだから気をつけろってさ」


「なにこの風評被害!」


「良く分かんねーけど、男なら普通なんだろ? 兄貴ならそんなに嫌でもねーし、別に良いぜ。そのかわり持ってったら新しいの買ってくれよな」


そう言って春菜はニカッと笑い、洗面所へ引っ込んだ


「……春菜」


なんて器が大きい妹なのだろう。きっと真っ直ぐに、優しく育ってくれたからだな。これで俺も安心してパンツを――


「アホか!!」


「うわ!? な、なんだよいきなり」


「誤解だ誤解! 大体、何でお前のパンツを持っていくって話になってるんだよ」


一回だけじゃないか。理由もちゃんと説明したし


「ん? ああ、そういえばそうだな。持ってくなら秋姉のか」


「そうそう。光沢や肌触りがまるで違うんだよねって、だからそうじゃ無いって!」


危うくノリで認めてしまう所だった


「……変な兄貴」


「お前のせいだろ! 言っとくけどな、パンツ、それも家族の物に興味なんて無いから」


ここはしっかり否定しておかないと、姉ちゃんに続いて春菜にまで変態認定されかねない


「そうなのか?」


「ああ。パンツなんか盗らないし、ましてや家族相手にエロい妄想なんかするかよ。それはただの危ない変態だ」


「そっか。やっぱそうだよな、こんなもん汚ね〜だけだし。なに勘違いしてたんだろうな、百合の奴」


主にお前のせいだと思うが


「ま、誤解が解けて良かったよ。ただお前のパンツをマジで狙ってる奴もいるかも知れないから、普段から気をつけとけ」


春菜は隙が多過ぎる。せめて雪葉ぐらいの警戒心が欲しい所だ


「じゃ、俺は部屋に戻るよ」


なんか一気に疲れたぜ


「部屋に戻る前に手を洗ってけば? 風邪の九割は手から来るらしいぜ」


「みのさんみたいだな、お前。つか洗面所で何かやってんだろ? 俺は後で良いから」


「あ〜わりわり。じゃ、どくよ」


そう言って廊下に出て来た春菜は、パンツ一丁の腕白スタイルだった


「……お前ねぇ」


「あっちこっちに、あせもが出来たから薬塗ってたんだ。ほら見てみろよ胸の下辺りとか」


自分の胸を片手で持ち上げてポリポリかく妹の姿は、俺の瞳から一滴の涙を零れさせた


「あ、兄貴?」


「頼むから人前では裸にならないでくれよ? 頼むからさ……」


来年は高校生。俺はもう心配で心配で


「あ、ああ。わ、分かった、気をつける。約束する」


「うん、うん」


春菜のちょっと成長したかな発言に思わず涙が零れてしまう


「あ、兄貴? わ、私、なんか悪い事した?」


「い、いや。ちょっと目にゴミがな……うぅ」


「な、泣くなよ。謝るからさ……だ、だから、泣かないで……ね、兄貴」





今日の涙


春>>>俺


「ご、ごめん、ごめんよあにき~」


「ち、ちょ春菜!? 何でお前が泣くんだよ! つか服を着ろ、服!!」


「う……ひっく……じ、じゃあ、ゆ、許してくれる……の?」


「あ、あれ? なんで? なんで許すとかって話になってんの? つかこれって俺がお前の服を脱がした後、それを着せないでイジワルしてたみたいな状況になってない?」


「ただいま~。……お、お兄ちゃん!?」


「……前から思ってたけど、雪葉はいつも最悪のタイミングで来るね~」


地獄

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