六の来訪 4
おもいで 2
幼稚園
『夏紀お姉たん』
『あら、なにかしら恭ちゃん』
『友達のね、悟君はね。いっつも美香ちゃんや牧ちゃんと仲良くしてるんだけど、何で美香ちゃん達は、僕とは仲良くしてくれないの?』
『う~ん。それはね、多分、時代のせいよ。まだ恭ちゃんの時代が来てないの』
『時代?』
『恭ちゃんはおっとりさんだからね。恭ちゃんの良さが分かるのは、女の子達がもう少し大人になってからかな』
『大人に?』
『そ。例えばね、アタシは普段、男共が蟻の様に寄って来るぐらい好かれてるんだけど、アタシはそいつら全員より恭ちゃんの方がよっぽど好き。大好きよ』
『ほんと~? やったぁ』
『うふふ。さ、一緒にお風呂入ろ?』
中学校
『姉ちゃん、俺ってなんでモテないんだろ?』
『あん? あ~、それは時代ね、時代。時代がまだアンタに追い付いてないのよ。それよりアタシの肩でも揉みなさい。揉んでる内にアンタの時代がやって来るわ』
現在
「姉ちゃん! 俺の時代はまだ!? まだ来ないのか!?」
「は? アンタの時代? もう終わったんじゃないの? 昨日辺りに」
「いつの間にっ!?」
「……随分時間掛かってるな」
書類を取りに職員室へ行った真田先輩を、俺と静流ちゃんは校門前で待つ
手元の時計では、待ち始めてからもう20分は経っているが、先輩が戻って来そうな気配が無い
「きっとお手間を取らせてしまっているのでしょう。恭介さん、お忙しい様でしたらもう」
「大丈夫、暇だよ。もう少し静流ちゃんと話してても良いか?」
「……はい、喜んで」
そう言って静流ちゃんは静かに微笑む。こういう表情が出せるだけでも、俺よりよっぽど大人だな
「…………」
「……恭介さん? どうかなされましたか?」
「いや、静流ちゃ……静流さんは大人だなと思ってさ」
「そんなこと……恭介さんの方がよほど大人びていらっしゃいます。始めて恭介さんをお見掛けした時は、私てっきり大学生の方かと思っていました」
「そう?」
俺も静流さんが高校生だとは思わなかったが、それは言わない方が良さそうだ
「はい。恭介さんは誠実で、とても落ち着いていらっしゃる方です。温厚篤実です」
「そ、そうかな?」
そんな事、初めて言われたぜ
「私も、もう少し身長があれば……」
静流さんは肩を落とし、無念そうに呟く。コンプレックスなのだろうか
「あっと……静流さんは何処の高校なの? あんまり見かけない制服だけど」
「京都にあります、永京と言う高校で学んでいます」
「京都!?」
そんな遠くから!
「はい。えっと、東京の道はややこしくて、ほんにすかんわぁ」
「おー」
京都の人っぽい!
「ですが私の父は関東の生まれですので、私も殆ど使いません」
「そうなんだ。じゃ、わざわざ京都からこの学校に?」
「はい、朝に新幹線で。私、今日初めて新幹線に乗りました」
何となく嬉しそうだな
「駅弁食べた?」
「はい!」
「やっぱり電車旅には駅弁だよな〜。俺もまた冬休みにでも京都に行こうかな」
女将の顔もたまには拝みにいかんとのう
「お待たせ、二人とも」
京都に思いを馳せていると、真田先輩が大きめの胸を揺らしながら駆け足でやって来た。これは健全な男子高校生としてガン見しても許されるのではないだろうか?
「はい、静流さん。これに必要事項と訪れる日にち、時間を書いて出せばオッケーだから。中々貰えなくて難儀したわ〜」
先輩はニコニコ笑顔で書類を静流さんに渡す。受け取った静流さんは深く頭を下げて、ありがとうと礼を言った。なんだか良い雰囲気だ
「……ふ」
どうやら俺の役目は終わった様だな。後は若い者に任せよう
「さてと。じゃ、俺はそろそろ帰るよ」
二人にそう告げると、二人は笑顔で俺に向き直る
「手伝ってくれてありがとうね、恭介君」
「ありがとうございました恭介さん。銘肌鏤骨、受けた親切忘れません」
「ああ。じゃあね」
別れの挨拶をし、俺は家へ向かって歩き出す。まったく良い時間潰しが出来たものだ
満足しながら携帯で時間を見ると、もう午後3時となっていた
「ん~」
コンビニにでも寄って帰るか。春菜におやつでも恵んでやろう
今日の歩数
六>>>>>俺>>>真
つり輪