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六の来訪 3

「それじゃあね」


「はい。本当にありがとうございました」


学校の校舎前で静流ちゃんと別れ、俺はそのまま体育館横の剣道場を目指して歩く


途中テニス部の連中に、この時間に居るなんて珍しいな、なんてからかわれたりしながら目的の場所に着いた。普段なら竹刀と竹刀が激しくぶつかり合う音が響くのに、今日は何も聞こえない


「…………ん?」


入口から中を覗き込んでみると、中には誰もおらず、しんと静まり返っている


「う〜ん」


走り込みに出てるのかね


「……あら、恭介君。どうしたの?」


一人唸っていると、声を掛けられた。振り向くと剣道の副部長である真田先輩が、何本かの竹刀を抱えながら不思議そうに俺を見ていた


「今日は部活やってないんですか、真田先輩」


「ええ、今日は朝練だけで放課後はお休み。私もこれの手入れをしたら帰るけど……お茶でも飲む? 入れてあげるわよ」


「じゃ、竹刀の手入れ手伝います。そのついでに秋姉の部活情報でも聞かせて下さい」


「相変わらずねぇ」


真田先輩は苦笑いをしながらも、良いわよと頷いてくれる。相変わらず優しい人だ


「それじゃ、さっさと終わらせましょうか」


「はい」


それから会話を楽しみながら紙やすり等を使って竹刀を手入れ。一通り終わった所で、剣道場の端にある部室でまったりティータイムとなる


「はい、お煎餅」


「ありがとうございます」


「こちらこそ、ありがとう。お蔭様で早く終わったわ」


「どういたしまして。それにしても何で一人でやってたんです?」


「特に理由は無いんだけどね。もうすぐインターハイでしょう? なんだか落ち着かなくって」


「先輩らしいですね」


「あら。それじゃ私は、いつも落ち着いてないみたい」


「あ、いや、そんな事は……」


「うふふ。冗談」


「……参ったな」


つかみどころが無い所も相変わらずだ


「今年のインターハイ、皆さんの調子はどうですか?」


「上々ね。みんなの気合いも入ってるし、コンディションも悪くない。ただ、秋が……」


「秋姉が?」


「少し気負い過ぎてる感があるわ。それが自分の試合の為ならまだ良いのだけど、秋は団体戦の方に重きを置いているでしょうね」


「団体での出場は初めてですからね」


「秋はペース配分が苦手だから、先にやる団体戦で疲労を溜めてしまわないか心配だわ」


「秋姉なら大丈夫ですよ」


どんな状況でも秋姉は自分の力を出し切る事が出来る。それに秋姉が一番望んでいたのは団体戦での試合だ。例え個人戦を前に力尽きても後悔なんか絶対しない


「……うん。そうね」


「そうです」


頷き合って、笑い合う。

先輩とこういう風に話せるのも、秋姉の人柄のお蔭だな


「あ、そうだ。秋が何で剣道を始めたのか知ってる? この間たまたま、きっかけを聞いたのだけど……」


「ええ……いや、すみません」


俺のせいなんだよな


「うふふ。昔から変わってないのね、秋は」


「変わりませんね。ずっと世話になりっぱなしです」


いつか恩を返したいぜ


「――――っ!!」


「ん?」


先輩と和んでいると、外から怒鳴り声の様なものが聞こえた


「なんだ?」


「なんだか外が騒がしいわね」


「ちょっと見てきます」


「私も行くわ」


二人で部室を出て、剣道場の入口へ向かうと、言い争う声がする


「良いから早く校内から出て行きなさい、勝手に入って来て。大体見慣れない制服着てるけど、君は何処の中学だ?」


「誰が中学生ですか!」


「……小学生か?」


「なっ!? 教諭の方とは言え、無礼な発言は許しませんよ!」


外で争っていたのは歴史の金澤先生と、ちびっ子だった


「って、静流ちゃん!?」


「恭介さん! 恭介さんもこの無礼な方に何か言ってやって下さい!!」


「言ってやってくれと言われても……」


「ん? 佐藤の知り合いか?」


「え、ええ」


「全く……学校に子供を連れて来るんじゃない」


「こど!?」


「す、すみません、金澤先生。直ぐに帰しますから」


「そうしてくれ。じゃ任せたからな」


「はい。さよなら先生」


怒りからなのか、固まってしまった静流ちゃんが動き出す前に先生を追いやる


「……行ったか」


先生が校舎の中へに入ったのを見計らって、ほっと一息。面倒な事になる前にさっさと逃げ出そう


「行こう静流ちゃん」


「……誰が」


「え?」


「誰が子供ですか!」


「うわ!?」


「良いですか、私はもう15歳、高校生です! 近所の方々にも六桜さん所の静流ちゃんは、大人っぽくて可愛げがないと言われる程に大人なのです!!」


「……嫌な近所だな」


しかし、高校生だったとは……


「ねぇ……ん? 六桜? それってまさか……」


真田先輩は頬に手を当てながら、静流ちゃんをマジマジと見つめる。知り合いなのだろうか?


「恭介さん! この学校は駄目です、嫌いです! 転校して下さい!!」


「よしきたって、だから無茶言うなよ!」


「……まさかね。静流さんと言いましたか? 他校生は許可が無いと学内へは入れないのです。許可が無いのでしたら今日の所は諦めて、明日以降改めて来て頂く事は出来ませんか?」


真田先輩がやんわりと尋ねると静流ちゃんはハッと我に返り、


「……申し訳ございません、そんな簡単な事も失念しておりました。周章狼狽、お詫び申し上げます」


と、元気なく謝った


「いいえ。それで、もし良ければ許可を取る為に記入が必要な書類を取って来ますが、少しお待ち頂いても?」


「あ……温厚篤実! 感謝します!」


「どういたしまして」


目を細めて優しく微笑む真田先輩。う〜ん、やっぱ先輩は大人だな


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