第140話:六の来訪
ピコピコピコリ、ピコピコリ〜
《KO!》
「ぐわ! やられた〜」
「ふ。腕が落ちたか、ワンコイン・キョー」
「まさかお前に負けるとは……やるなハロウィンキッド」
男達の挽歌。土曜日の寂れたゲーセン
来週の水曜日から始まる夏休みを前にし、久しぶりにゲーセン訪れた俺を迎えたのは、かつてのライバル達だった
その中で最近頭角を表してきたらしいゲーマー、
ハロウィンキッドが俺と格闘ゲームで勝負したいと言って来た。そして奴との激闘の末、俺は紙一重で敗北。今に至る
「……また現役復帰する気か、キョー」
「夏休み中は……な」
暇だし
「やれやれ。今年の夏は特別熱くなりそうだ」
「あばよ、ハロウィンキッド。また会おう」
後ろ手を振り、店を出る俺。余り金が無いのだ
「……ちぇ」
今日はワンコインで遊ぼうと思ったのに。仕方ない、古本屋で立ち読みでもするか
やっぱり寂れている道を本屋目指してダラダラと歩く。全く今日もいい天気だぜ
「そこなお兄さん」
「……ん?」
空を見上げていたら、前方から声を掛けられる。視線を下ろし、見てみると、右に曲がる道の前で中学生ぐらいの子が立っていた
その子の眼光は鋭く、キュッと結んだ口元が意志の強さを暗示していた。服装は何処かの制服なのだろうが、余り見掛けない地味なスカートとワイシャツ。そして小さい身体に良く似合っている大きなリボン付きカチューシャをセミロングの髪に付けている
「俺か?」
他には誰も居ないし
「光沢高校へは、どう行けば良いのでしょう?」
鈴の音の様に軽く、透き通った声で尋ねてきた女の子。見た目の割に随分としっかりした喋り方だ
「……もし?」
「ああ、ごめん。光沢高校ね」
見学者か何かかな
「えっと……今、君が居る道を真っ直ぐ戻って駅前に行けば、十字路に出るからそれを右に行く。そしたら坂に出るから下って、その先のトンネルに入る。後はそのトンネル抜ければ、学校が見えてくるよ」
「なるほど……。感謝します」
「ああ。気をつけて」
女の子は頭を下げた後、振り返って来た道を戻って行く。それを何となく見送りながら、俺も古本屋目指して左の道路を歩き出す
道路を300メートル程歩き、一つ右に曲がると二階建てのまだ新しい建物が見えて来た。この建物が古本屋。広くて涼しくて、一日中でも時間が潰せる貧乏学生には聖域の様な場所だ。ただ、人が多いんだよな……
「そこなお兄さん」
「え?」
店の前にある満車になった駐輪場をウンザリ見ていると、聞き覚えのある声で後ろから呼び止められた。振り向くと――
「……やっぱり」
「光沢高校へは、どう行けば……え?」
さっきの女の子が不思議に俺を見ていた
「いや、てかそんな顔をされても……道分からなかったのか?」
「…………」
女の子は何も言わず、ジッと俺を見続けている
「な、なんだ?」
「貴方は、すとーかーと言うやつですか?」
「違う!」
「では何故、私の先回りをするのです」
「俺が君に教えた道と違うだろ? 逆だ、逆」
だいたい右の道を行ったたのに、何でこっちに来てるんだ?
「逆? 本当ですか?」
「ああ」
「そうですか……」
女の子は肩を落とし、しょんぼりとしてしまう
「……地図書いてやるから。書く物とかある?」
「ありません」
何でか自信満々の即答
「……あっそ」
仕方ない、そこのコンビニで買って来るか
「ちょっと此処で待ってな」
「分かりました」
頷く女の子を残し、俺はコンビニへと向かった