雪の水族館 2
最後に会場へ上がった俺達は、一際大きな拍手で出迎えられる
雪葉は、おれの袖を掴んだまま離さない
「はい、それじゃ皆さん輪をどうぞ」
会場に上がったのは八人。一人一つずつ輪を貰い、順番に並ぶ
「さ、アシカのアッシー君の登場です! 芦ノ湖に居たりするかもなアレとは違いますからね!」
「……アレ?」
「ネッシーの仲間な」
首を傾げる雪葉の頭を撫でてやる
「それじゃあ……アシカ、出てこいや!!」
お姉さんが叫ぶとドラムが鳴り響き、奥からゆったりと出て来たアシカ……
「アシカ?」
あんなんだったけ? もう少し大きくて毛がツルツルしていた様な……
「つーかそれオットセイじゃん!」
「ちっ! ……え〜何ですか〜」
「お、お姉さん、今、舌打ちしなかった?」
「アシカでもオットセイでも良いじゃ無いですか〜。似たようなもんだし」
「水族館の職員が言う台詞じゃないだろ!?」
俺達は暫し睨み合う
「お、お兄ちゃん……」
雪葉の声で我に返ると、会場はどっちでも良いから早くやれやって雰囲気に包まれていた
「……ど、どっちでも良いです」
「は〜い。それじゃあお兄さんもアッシー君と遊ぼうね」
「は〜い」
もう、どうでもいいや
俺達はお姉さんの誘導で、アシカもどきの3メートル前へと行く
「一人一回ずつ投げて、アッシー君がキャッチ出来たらアッシー君人形とサインをプレゼントします!」
「サインってアッシー君の手形かな?」
雪葉が期待を篭めた声で呟く
「私のですよ」
「いらねぇよ! 子供の期待を裏切んなよ!!」
何なんだこの水族館は!?
「えぐい水着姿の生写真付き」
「ナイスガール!」
「……お兄ちゃん?」
雪葉がジト目で俺を見上げた
「おっと失礼」
俺はいつもの紳士に戻る
「さぁ、性少年が納得した所で」
「字が違いますよ〜」
「アシカショー始まりだコノヤロウ!!」
うわ〜! と会場が声援で埋まる
「アシカ! アシカ!」
「アシカー愛してる〜!」
「いいぞアシカー、おっぱいネーチャンも最高!」
会場はスタンディングオベーションだ
「……なぁ、雪葉」
「……うん、お兄ちゃん」
二人で顔を見合わせ何と無くため息
「それでは最初の子の挑戦です!」
雪葉と同じくらいの男の子が、恐々輪を投げる
…………バシン!
アシカもとい、オットセイが弾きやがった!?
「……う、うわぁあん!」
泣く子供を慌ててなだめるお母さん。盛り上がる会場にこやかに拍手するお姉さんとオットセイ
「……地獄絵図だ」
「お、お兄ちゃん。あのアシカさん怖い……」
雪葉は俺の脚にギュッとしがみつく
「だ、大丈夫だ。兄ちゃんが付いてるぞ」
それからも奴は輪を弾き、時にはフェイントを混ぜつつかわす
「強い、強過ぎるぞアシカ君! このままベルト防衛か!?」
「……別に良いけどさ」
次は俺達か
「先にやるぞ、雪葉」
「う、うん」
不安そうな雪葉から離れ、俺はアシカの正面に立つ
「…………」
「…………」
ガンの飛ばし合いだ
「アシカもどきが、俺を舐めるなよ?」
「アオッ! アオッ!」
ヤロウ挑発していやがる
「お兄ちゃん、頑張って!」
「ああ、任せとき!」
右手に輪を持ち、投げ
「! ……アオ?」
「投げないよ〜。騙されてやんの〜」
「アオ!!」
オットセイは怒り、身を乗り出す
今だ!
「死ねぃ!!」
俺は輪をオットセイに投げた。輪はオットセイの頭をくぐり首へ!
「おっとっと」
首へと入る瞬間、横のアマが輪を掴みやがった!?
「はい残念。また来週」
「今、入ってた!」
「のーん。駄目よ、失敗。さよならナリ〜キテレツ〜」
「む、むかつく」
「さ、いよいよ最後の挑戦者です! 最後はとても可愛い女の子ですね。お兄さんとは大違い」
「あれ? 俺、もしかして嫌われてる?」
なんか釈然としないが、これ以上文句を言っても仕方ない
「ほら、雪葉。頑張れよ」
「う、うん」
雪葉は渋々オットセイの前に出る
「アシカさん……」
「オウ! オウ!」
オットセイは巧に頭を振っている。奴はやる気だ!
考えろ、冷静な頭と熱いハートで奴の弱点を!
「それでは輪投げ、お願いします!」
お姉さんの声に雪葉は輪を握り、下からエイッと思い切り投げた
輪は、オットセイの真上に高く上がり、落ちて来る。オットセイは余裕をこいて動くのを止める
パシャン!
突然プールでイルカが跳ねた音
その時、俺の頭に一筋の光が射す!
「後ろにシャチだ!!」
「オウ!?」
オットセイの動きが固まる
「ふ、やるわね」
お姉さんが空中に手を伸ばし、輪を取ろうとした
「客席にブラッド・ピットが!」
「残念ね。私はシブメン専門なの」
「K〇NISHIKIだ!!」
「なんでK〇NISHIKI!? って伏せ字になって無いから!! ……あ」
雪葉の輪は見事オットセイの頭をくぐり、首にぶら下がった
会場は大歓声と拍手に包まれる
「やったな雪葉!」
「で、でも……」
雪葉の視線を追うと、ひざまついているお姉さんとオットセイ
「負けたわ……完璧に。さすが力石だ、参ったぜ」
「お姉さん意外と歳、食ってる?」
お姉さんは一度俺を睨んだ後、会場の奥へ行ってデカイぬいぐるみを取って来る
「何はともあれ、私達の負けね。はい、どうぞ」
しゃがんで、雪葉へと渡すお姉さん
「うわぁ! ありがとう、お姉さん!!」
「どういたまえまして」
「え?」
「基本的にオヤジだよね、お姉さん」
「シブメン専門ですから。はい、お兄さんには生写真」
「ふん。貰ってやろう」
えぐい水着かぁ。紐? それとも貝殻!?
ワクワクしながら写真を見ると……
「…………えぐいな〜」
「えぐいでしょう」
スクール水着を着たお姉さんが、立て膝をついて縦笛を吹いている写真だった
「何故にスクール?」
「シブメン専門ですから」
「色々言いたいけど……疲れた。帰ろうか雪葉」
「うん!」
嬉しそうにぬいぐるみを抱きしめる雪葉
「……ま、楽しかったかもな」
今日の満足度
雪>>俺>>>>父
続けれる