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第137話:千の満足

人は古来より争いが絶えない生き物であった。何故ならば、人は平等と言うまやかしを信じず、また良しとしない性を持つからである。そう、人とは他と自を比べ、優劣を決める事により精神の安定を得る愚かな生き物なのだ


そして俺もまた愚かな人間の一人。性に従い今、熾烈な争いをしている最中なのである


「王は進むべきか退くべきか……仕方ない、此処は一時撤退しよう」


「逃がさない。歩兵部隊進軍」


「うっ! な、ならばこちらも歩兵を囮に!」


「馬で蹂躙」


「た、待避だ! 矢倉にて篭城する!」


「竜王の怒りに触れて落城。王手」


「で、出口が……ま、参りました」 


火曜日の昼下がり。将棋仲間から一局指したいとの連絡があり、俺の家に招いたのだが、二時間ほど指して五戦五敗と言う結果に終わってしまった


「相変わらず強いな、千里」


「恭君もまぁまぁ。上手くなってる」


相変わらず表情に乏しいが、どうやら褒めてくれているらしい


「そう? 少しは特訓の成果出てるかね」


たまに千里がメールで送ってくる詰め将棋の問題のお陰で、少し読みが深くなってきた気がする


「恭君は悩んだ時に直感で打つことが多いから、詰め将棋はオススメ」


「そうそう。悩んでる途中で思考を破棄しちゃうんだよね、どうにでもなれってな。でも、詰め将棋はそれじゃ解けないから思考する癖が出来るって訳だ」


「直感も悪く無い。後はもっと落ち着いて打てば恭君は強くなる」


「ああ、いつか師匠を倒してやるよ。じゃあ今日はこの辺で」


俺と千里は姿勢を正して



「ありがとうございました」


「ありがとうございました」


頭を下げ、将棋の駒を片付ける。今日も師匠と充実した将棋が指せたぜ


コンコン。片付け終わった頃、ドアがノックされた


「開いてるよ〜」


「入るね、お兄ちゃん」


ドアを開けて部屋へ入って来た雪葉。左手と胸で抱える様にオボンを持っている


「ああ、ごめんごめん」


急いで立ち上がり雪葉からオボンを受け取ると、紅茶とクッキーの良い匂いが部屋に広がった


「お、手作りか」


「うん。イチゴジャムつけて食べてね」


お洒落な花柄カップと、クッキーの乗った皿。そしてをイチゴジャムが入ったアルミカップ円卓に置く


「ありがとう師父」


「今日はどうだったの?」


「師父の名に恥じない将棋が指せた」


この前の戦いで、雪葉は千里の師匠に就任した。そして雪葉の師匠は俺である。もはや逆立ちしても勝てないけど


それから雪葉は軽く千里と会話し、


「それじゃ、ゆっくりしていってね」


と、オボンを手に部屋を出て行った。なんだかもう俺のオカンかってぐらい落ち着きがあるな


「雪ちゃん、お姉ちゃん

みたい」


俺のって事だろうか……


「まだ時間があるなら、後で雪葉と遊んで来たらどうだ? あいつリサや千里と仲良くなりたいみたいだぞ」


「もう仲良い。師父だし」


「そっか」


ま、俺が口出す事じゃないわな


「さて、それじゃおやつでも楽しみながら将棋番組でも見るとするか」


「うん」


テレビの電源をポチ


《将棋っ子、クラブー》


「お、ベストタイミングだ」


「いただきます」


正座を崩さず、千里は紅茶を一口のむ


「名人級」


「クッキーも、うまい。流石雪葉だな」


「学校でも人気者。侮れない」


「ふむ」


学校での雪葉を知らないから、現場の声は興味深い


「彼女の素行はどうなんだね君ぃ。先生方の評価は?」


「おおむね上々。男子にも人気」


「……やっぱ男にモテてるのか?」


「ぶっちぎり」


「そ、そうか……」


嬉しいような複雑なような


「風ちゃんも急上昇中。雪ちゃんと人気ツートップ」


「ふ〜ん」


全くタイプは違うが、人気なのは分かる気がする


「ん? そこで桂馬か。なるほど」


「次、ニ、3銀。三、3歩、一、4金詰み」


「え? あ、本当だ」


「ジャム、おいし」





今日の満足度


千>>俺>>>>雪


つるま


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