第25話:雪の水族館
ゴールデンウィーク初日
俺は雪葉と水族館へ来ていた
「お兄ちゃん、マンボウだって!」
繋いだ手を引っ張る雪葉
「かわいー」
「そうだな。かわいい……かもな」
あんまり可愛くないな
「マンボウさん、マンボウさん…………あ、こっち向いた!」
「おー」
横を向いていても変わった顔だが、前を向いたら何とも言えない愛嬌がある顔になるな
「…………えへへ」
雪葉が俺を見上げてニッコリと笑う
「ん? どうした?」
「んーん。あ、お兄ちゃん向こうは深海魚コーナーだって」
「お、行ってみようか」
「うん!」
深海魚コーナーは薄暗く、殆どが標本や映像だが、一カ所だけ水槽がある
その水槽の小さな穴から雪葉は中を覗く
「うわぁ、……凄いなぁ。お兄ちゃん、見てみて」
「どれどれ」
覗いて見ると、長細くグロテスクな魚
「ぬぅ」
夢に見そうだ
《ただ今より、屋外プールにてイルカ達のショーを始めます。是非ご覧下さい》
「お兄ちゃん! 雪葉、イルカさん見たい!!」
雪葉の目がキラキラしている
「ああ、行こう」
屋外プールに出ると、既に沢山の人達が居たが、辛うじて前の方の席に座れた
「皆さん、こんにちはー」
インストラクターのお姉さんが元気良く挨拶をする
「こんにちは」
ペこりと頭を下げる雪葉
「今日は来てくれてありがとう! マッキー君もミーコちゃんも喜んでるよー」
お姉さんがそう言うと、プールからイルカが二匹跳ねる
「わぁー」
雪葉は興奮の声を上げる
「ふふ……あ、ラムネ2本お願いします」
横に来た売り子さんから、瓶のラムネを購入し、雪葉に渡す
「ありがと、お兄ちゃん」
ビー玉を落とすタイプのラムネだ。何だか懐かしい
キャップを使ってビー玉を落とし、溢れる前に口をつけて飲む
「たは〜良く冷えてる」
「ん、ん〜!」
「ん? ああ、ビー玉外せないのか?」
「だ、大丈夫! 雪葉あけられるよ」
「そうか。瓶押さえてやるから、両手でやってみな」
「う、うん……えい!」
雪葉が両手で上から押し付けると、ビー玉はカランと落ちた
「出来た!」
「雪葉、溢れる、溢れる」
「あ!」
雪葉は慌てて飲み口に口をつける
「…………危なかったぁ」
「ほら、口」
持っていたハンカチで、雪葉の唇からこぼれたラムネを拭いてやる
「ん〜。……ありがと、お兄ちゃん!」
その後もイルカショーはつづがなく行われ、雪葉のテンションがMAXになった頃、見物客も参加出来るショーが始まった
「はい、次はアシカの輪投げショーです! 手伝ってくれる子はいるかな?」
何人かの子供は直ぐに手を挙げ、ステージへと呼ばれたが、雪葉は手を挙げようかどうか迷っている
「俺達もやろうか、雪葉」
「う、ううん。見てるだけでいいの……」
「はい! 俺達も参加します!!」
「お、お兄ちゃん!?」
「はい、元気なお兄さんありがとうございます! それではお兄さん方もステージへお願いします!!」
「さ、行こう雪葉」
俺は椅子から立ち上がり、雪葉に手を伸ばす
「う、うん……」
その手を握り、雪葉はコクリと頷いた