第133話:末のテスト
火曜日の朝。教室へ入った俺を、クラスメート達が囲んだ
「佐藤! どうして昨日は休んだんだ!?」
「わたし達、心配してたのよ!」
「お、お前達」
普段はそんなそぶりを一切見せないのに……ふ、なんだかんだ言ってもやっぱり友達か。暖かいぜお前ら
「殆ど無遅刻無欠席だった秋様がなんで昨日お休みになられたのよ!」
「そうだ! 佐藤なんかどうでも良いけど、秋さんは心配なんだ!!」
「…………」
友達なんか居ない。所詮俺は孤独なスパルタクス
「……昨日凄い雨降っただろ? 姉ちゃんの車で海に行った帰りに降られたから、危なくて家に帰れなかったんだよ」
「そ、それじゃ秋様や夏紀様と一夜を共に!?」
「毎日共にしてるわ!」
こいつら俺をなんだと思ってんだ!?
「ちくしょう……ちくしょう! なんで世界は、神は俺を選ばなかったんだ〜」
「うるせーな。しっし」
群がる秋姉マニア達を追い払い、壁時計を見る。八時半。もうすぐチャイムが鳴る頃だ
キンコーンカンコーン
お、鳴った
「はい、おはようございます〜。では皆さん殺し合って下さい」
「何いきなり!?」
チャイムと同時に入って来た担任の佐山先生は、教壇に手をついて、そう言い放った
「よし、俺は佐藤を殺るぜ!」
良い笑顔だなS
「囲め囲め〜」
「てな冗談を言ってみました。はい、先生ストレス溜まってます」
佐山先生は、にこりと笑い何事も無かったように出席簿を読み上げる。なんか怖いので、俺を囲もうとしたクラスメート達は大人しく席に戻った
「明日からテスト期間ですが、きちんと勉強していますか? してない奴は挙手して下さい。そんな奴には先生、ちょっとお話あります」
誰も手を挙げない。挙げられる雰囲気では無いのだ
「大丈夫ですか? 大丈夫ですね。では今日のホームルームを始めます」
淡々とホームルームを進める先生。その間、教室内は静寂に包まれていた
「……佐山先生、なんか機嫌悪くないか?」
前の席のTに小声で話し掛けると、
「生理だろ? グハァ!」
チョークが飛んで来た!
「な、なんてバイオレンスな……」
身体が勝手に震えるぜ
「先生下品な冗談は嫌いです。ハゲ教頭の次に嫌いです」
教頭と言う単語に強い憎みを感じる。おそらく機嫌が悪い原因なのだろう
「佐藤君」
「は、はい!」
「先生、この間の見学会で凄かった佐藤君に期待しています。是非とも期末テストで良い点数を取って下さい」
「分かりました!」
底冷えする鋭い目付きで睨まれたら、分かったとしか答えようがない
「よろしい……はい、ではホームルームを終わりますね〜。今日も一日、頑張ろ〜」
急に明るくなった声で、健康飲料のコマーシャルみたいな事を言いながら佐山先生は教室を出て行く。残されたのは恐怖で一言も発せないクラスメート達と、死んでいるT
今回の期末テストは血の雨が降る。誰かがぽつりと言った
「……さ、佐藤君、今日勉強教えて?」
「あ! わ、私も、私もっ!」
「あたしも頼む!」
「やんややんや〜」
静寂の呪縛が解け、俺に群がる女生徒達。な、なんだこれは……これが噂のモテ期なのか!? しかし!
「断る!」
「え〜何でよ〜。ご飯奢るからさぁ」
「うちで一緒に勉強しよう? ね、佐藤君」
女生徒達は次から次へと俺を誘惑する。だが
「俺は秋姉と家で勉強するんだい!」
死ねシスコン!!
いつものよーに、みんなの声が揃いました。
「……と言う事なんだ」
夕方、家のリビング。学校から帰って来た秋姉にテスト勉強の事を相談する
「秋姉もテスト前で忙しいと思うんだけど……もし良かったら一時間程、一緒に勉強しない?」
一緒に勉強すれば、30日分の効果が見込めるだろう
「……いいよ」
微笑みながら頷く秋姉。その微笑みが俺の参考書
「ありがとう秋姉」
「ん。……じゃあ、やろう?」
「うん!」
俺は、いそいそと教科書やノートを用意する。一教科書10分づつやるとして、先ずは苦手な英語からやろうかな
「最初は英語で良い?」
「ん」
「それじゃ英文を……あ、秋姉?」
秋姉は直ぐ隣に座り、俺の教科書を覗き込む
「……分からないところがあったら言って?」
「で、でもそれじゃ秋姉の勉強が」
「ん……復習」
にこ
「うっ……」
ウオオオオー!!
10分後〜
「す、凄い。秋姉が読み上げてくれる英文が、そのまま脳に直接刻み込まれてゆく」
さ、流石が秋姉。まるでローレライの歌姫だ……
「英語はこれで完璧だよ! 次は数学をお願いします!」
「え? ……理解が早いんだね、恭介」
にこ
「うっ!」
ウガアアアアア!!
そして一時間後
「たっだいま〜。いや〜肩凝ったわ〜、トントンっと。……ん? あら、一人で勉強? 珍しいわね。姉ちゃんがちょっと見てあげようか、マッサージと交換で……あ、あれ? なんかアンタの身体から青白い炎が見えるような……」
「……姉ちゃん。俺、明日頑張るよ!」
「そ、そう。よ、良く分からないけど、頑張りなさい」
「ああ!」
目指せ100点。俺はやるぜ!!