俺の事件 3
深い山の中、たどり着いた怪しい山荘。そこで俺達家族が出会ったのは四人の男女達だった。そこで始まる謎の闇鍋パーティー。金〇一少年っぽくしようとしたけど失敗したかなと思いつつ、今、惨劇が始まる
桜庭山荘事件
File 3
なべくった。みんなたおれた
チュン、チュンチュン
「う……うぐぐ」
あ、秋姉。鍋にイカスミは……きつい
「キャアアアア!!」
「うわ!? な、なんだこの絹を裂くような女性の悲鳴は!」
飛び起きた俺の身体からタオルケットがずり落ちた。俺は寝ていたのか?
周りを見ると、見慣れぬ部屋に見慣れぬ天井。此処は一体……
「……うっ!?」
赤いカーペットが敷かれた床の上に、二体の人間が倒れていた
「な、なにが……っ!」
その内の一人、トラックに潰されたカエルの様に仰向けに倒れているあれは!
「姉ちゃん! 姉ちゃあぁん!!」
俺はピクリとも動かない姉ちゃんに縋り付き、身体を揺する
「う……う」
「大丈夫か姉ちゃん!」
「さ、佐久さ……ん。蛇……ぐふ」
「ね、姉ちゃん!」
蛇って何!?
「と、とにかく、姉ちゃんは無事みたいだし、まずは落ち着こう」
12畳はありそうなこの部屋の中心には、中華料理店などで見られる回転円卓とそれを囲むように置かれた八つの円座があった。他には観葉植物や絵画が飾られており、淡いベージュの壁紙と良く似合っている。しかしそれ以外に目立つものは無い
「……食堂?」
そうか、思い出して来たぞ。俺達は昨日、闇鍋パーティーをしたんだったそして――
「う!」
思い出そうとすると、頭が痛くなる。まるで思い出すなと脳が警告しているかのような……
「そ、そうだ悲鳴!」
秋姉達は無事なのだろうか?
急いで俺はドアの前で倒れている小太りなオッサンを跨ぎ、この部屋を飛び出した
「あ、お兄ちゃん」
部屋を出て右斜めに階段がある。その階段前で廊下の奥を覗いていた雪葉と会う。雪葉は俺の顔を見てほっとした様子だ
「雪葉……良かった。さっきの悲鳴は?」
「雪葉達もさっき起きたばかりだから良く分からないんだけど……。秋お姉ちゃん、雪葉に此処で待っていてって奥に行っちゃったの……」
「あ、秋姉が?」
確かに秋姉はめちゃくちゃ強いが、それでも女性だ。雪葉も不安そうな顔で、廊下と俺を交互に見ている
「……行ってみるか」
いざとなれば俺が盾に!
「雪葉も行く!」
「いや、危ないかも知れないから此処で……」
「行きます!」
真剣で強い眼差しだ。どうやら頑固モードが発動したらしい
「……分かった。俺から離れるんじゃないぞ」
なんとしても守る。何があってもだ
「よし、行こう」
「はい!」
ギシ、ギシ
フローリングの床はまだ真新しく見えるのに、根太の固定が悪いのかギシギシと音が鳴った。俺は忍び足を諦め、素早く廊下を歩む
そして廊下の突き当たりに差し掛かり、右へ曲がると少し先にあるトイレの前で、何かを持っている秋姉と桜庭さんの奥さんを見付けた
「あ、秋姉!」
「……おはよう」
「う、うん、おはよう。大丈夫だった?」
「……ん。ただ、ちょっと問題」
「問題?」
首を傾げながら近くと、秋姉が右手に持っているものはラバーカップだと気付いた
「どしたの、それ?」
「…………つまり」
「つまり?」
秋姉の側に行き、少しドアが開いたトイレの中を覗いてみると……
「……げっ!?」
ウォシュレット付きの水洗トイレは大量の宇宙物質Xと、何故か少し赤いトイレットペーパーによって埋めつくされていた
「お兄ちゃん?」
「見るな雪葉!」
「キャっ」
俺の後ろを、とことこついて来て覗こうとした雪葉の視界を手で塞ぐ。これは見せてはいけないものだ。し、しかし
「ま、まさか秋姉が」
さ、流石秋姉、す、スケールが違うぜ……
「…………私じゃない」
少しむっとした顔で否定する秋姉。レアだ
「だ、だよね〜」
て言うか、当たり前だろ俺! むしろ秋姉はトイレすら行かない妖精なのさ!!
「お、お兄ちゃん? まだ目隠ししてなくちゃ駄目ですか?」
「あ、ああ、ごめんごめん」
雪葉の体の向きを変えて目隠しから解放
「振り向くんじゃないよ」
「??」
カチャ。秋姉が静かにトイレのドアを閉めた
「あ、ありがとう秋姉」
「ん。……ごめんなさい桜庭さん。ラバーカップでは無理みたいです」
「こちらこそごめんなさいね、秋さん。それに恭介君、雪葉ちゃん」
俺達の様子を見ていた桜庭夫人は申し訳なさげに言い、ため息を付く
「今、佐久さんに水道局へ連絡して貰ってますから。それにしても、一体誰がこんな……」
「これはただ事では無いですね」
便器を埋めつくした宇宙物質X。犯人は一体……
「きっと外部犯だわ。熊か何かがトイレに来たのよ」
「……いいえ、奥さん。これは内部の人間の犯行です」
「え? ど、どうしてそんな事が分かるのです?」
「熊は尻を拭きません。そしてこの犯人はトイレットペーパーの補充をやっている!」
「なんですって!?」
「俺が昨日の夜トイレに行った時、余りトイレットペーパーが残っていませんでした。しかし今はトイレットペーパーの芯が床に置かれ、代わりにまだ殆ど使われていないトイレットペーパーが一個、補充されています。これはトイレに行った犯人が、紙が足りないと思って新しいトイレットペーパーを持ち込んだと見るべきでしょう。それはトイレットペーパーが、何処に保管されているかを知っている人物が犯人だと言う事を示しています」
「っ!? そ、そんな、まさか……」
「犯人め……秋姉にあんなものを見せやがって」
犯人は俺が必ず見付けだす。そう
「母ちゃんの名にかけて!」
「…………母さん?」
「なんか御利益ありそうでしょ?」
ほぼ鬼だし