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燕さん

最近燕の影が薄いと言われがちなので


今日の燕さん。その6




全国でも有数の進学校、鳴神学園。その中で時に教師以上の発言力を持つ組織がある。それが生徒会


生徒会の仕事は学校行事のセッティングや代表挨拶に始まり、部活等の予算決め、生徒指導、校則の改正などもある。他にも授業のカリキュラムや招き入れる教師の選別、果てはテスト内容まで決めているとかいないとか


知力、体力、人望、心。その全てが揃い、尚且つ運も無ければ入る事は難しい、それが鳴神学園生徒会だ。それ程までに難しく、輝かしい生徒会は全生徒達の憧れであり、頂点である


だが、その選ばれし頂点の者達を持ってしても、届かないと言わしめる頂きがある。それこそが鳴神学園創立史上初の女性による生徒会長、菊水 燕、その人だ


彼女は、かの有名な菊水流宗家の嫡女であり、学園トップの成績、美貌を持つ才女である


そんな彼女は今、とても悩んでいた。それは学園の行く末、堕落しきった日本の政治、乱れる世界情勢などについて……ではなく――


「ううむ〜」


7月の夕方、太陽が西の空に沈み始めた午後6時頃。駅前デパートの五階にあるゲームコーナーの入口で、燕は悩んでいた


入口には、本日最新機種入荷と書かれたポスターが貼ってある。それは燕が入荷を心待ちにしていた格闘ゲーム、ブッチャーファイターZの最新作の事だ


まさか今日が入荷日だったとは……。燕はトイレに行っている友人を待ちながら、プレイしてみるかどうかを悩んでいたのだ


「うむむ〜」


しかし今は制服姿。放課後は速やかに帰宅するのが生徒の義務である。友人の付き添いとは言え、デパートへ寄り道をした事だけでも、彼女としては、かなりの融通を効かせたと言える


「……彼はもう遊んでみただろうか」


ポスターを見ながら呟いたのは、燕の元彼である屍の事だ。このゲームは屍との思い出のゲームなのである


『燕、このゲーム面白いんだぜ? ちょっとやってみろよ』


当時ゲームなど触った事も無かった燕は、彼氏のそんな誘いにうろたえながらも頷き、始めてゲームに触れてみた


『お、今の動き良いぞ。やるな燕!』


燕にとってゲーム自体はとくに面白い物では無かったが、彼氏が喜び、自分を褒めてくれるのがとても嬉しくて、この日、燕は心からゲームを楽しんだ


『上手くなったな、燕。また、いつか勝負しようぜ』


今はもう、その褒めてくれる彼氏は居ない。だけど、たとえ恋人関係ではなくても、友人としてまた一緒に楽しくゲームが出来ればと、燕はずっと一人で練習をしていた


しかし、その格闘ゲームは余り人気が無く、あっという間に撤去されてしまう


もう、君と一緒に遊ぶ事は出来ないのだな。最後に撤去された店を出て、とぼとぼと帰宅する燕の耳に、神の奇跡か悪戯かゲーマー達の会話が届いた


『7月にブッチャーZの最新作が出るでごわす。ごっつぁんです』


と、こんなエピソードを回想した所で、現在


「うむむむ〜」


是非とも一度遊んでみたい。これから夏期休校に向かう今、生徒会の仕事に休みなどないし、家の方も来月には舞踊の発表会がある。自由に使える時間は非常に少ない燕にとって、今は数少ないチャンスなのだ


しかし、しかし。制服姿で、それも友人を待っている時に、そんな不埒な事をして良いものだろうか


否。自分は鳴神全生徒の模範である。模範足るべき者は、自分の欲望で動いてはいけないのだ


燕は後ろ髪を引かれる思いで諦め、ポスターから離れる。そこへ、ちょうど友人がトイレから戻って来た


「お待たせ、燕」


「うむ。では行こうか」


「うん。……あ、これブッチャーZ3! 入ったんだ〜、ずっとやりたかったんだよねー」


友人は燕の横を通り過ぎ、直ぐさまゲーム機に飛び付く。その手には既に100円玉が握られていた


「あ!」


ずるい! もとい不真面目だ!! 燕は顔をしかめ、友人を見る


「ごめん、燕! これ出るの、ずっと待ってたのよ。ワンプレイだけお願い! ね?」


「む……一回だけだぞ」


余り煩く言い過ぎるのも大人げ無いだろう。うむうむ頷きながら、燕はそう自分を納得させた


「やった! ありがと。よーしやるぞー」


腕を捲くって気合いを入れた友人の背後へ、燕は素早く回り込む。一番クリアにモニター画面を覗き込める、ベストポジションだ


「見ててね、一発クリアーするから」


「ほう」


自信があるようだ、これは期待しても良いだろう


腕を組み、じっくり見学体勢となった燕。しかし


「あ、負けた。う〜ん、前より難しくなってるわこれ」


「初戦で負けるな!」


特に盛り上がる事なく、あっさり終了。相変わらず今日も微妙な生徒会長であった


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