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夏の海 9

「おかえりなさいませ、ご主人様方。にゃ」


「…………」


海の家に戻ると、何故か天使のような白い翼を背中に着けた綾さんが俺達の側に駆け寄り、意味の分からない事を物凄くやる気なさそうな語尾を付けて言った


「ご主人様。先程、水着コンテストの出場登録しておきました、時間は四時からです。でもご主人様、こういうご趣味もお持ちだったんですね。ちょっと意外です。にゃ」


「ち、ちょっと待って下さい。一体何の話をしているのか良く分からないのですが……」


「え? うちのお店が主催となってやる水着コンテストの事ですよ? 先程、夏紀さんが出場するとお決めになられたのですが……。にゃ」


「姉ちゃんが?」


不思議だな。姉ちゃんはそういうもんに出たがらない筈なんだけど……


「兄貴〜、私、先に夏紀姉ちゃんとこ行ってる。腹減ったし」


横でポケーっと話を聞いていた春菜が焦れた様にそう言い、奥で店長に皿回しさせている夏紀姉ちゃん達の方に目をやる


「ああ。あ、春菜」


「ん? なんだ?」


「さっきの事、姉ちゃん達には秘密な。心配させたくないし」


「オッケー。兄貴と私だけの秘密な」


春菜はニカっと笑い、姉ちゃん達の方へと歩いていった


「前に一度お会いしましたが、春菜さんはやっぱり美人さんですね〜。ええと……春菜さんに夏紀さん、それに雪葉さん。秋さんと燕さんと綾音さん。う~ん、もはやハーレム状態ですね。よ、王様! にゃ」


「さりげなくハーレムの一員にならないで下さい」


って言うか立場的には王より奴隷に近いし……おっと涙がこぼれそうだ


「と、それより水着コンテストの事ですが、賞品か何か出るんですか?」


主に酒とか


「優勝者には、賞金5万円がでます。頑張って下さいね。にゃ」


「それ目当てなのかな?」


最近金欠らしいし


「佐藤君なら、きっと優勝出来ます。……にゃ」


「そうですかねぇ」


姉ちゃんは秋姉なんかと比べてしまうと、神とカブトガニぐらいの差があるが、まぁ、あれでも一応美人の部類らしいし、もしかしたら優勝を狙えるかもしれない


「四時でしたっけ? 楽しみです」


冷やかしてやろう


「う〜ん、私は余り興味無いのですが、佐藤君が出るのなら見学させて頂きます。にゃ」


「ええ、是非。……ところで、この店、何で皆さん背中に翼をつけてるんですか?」


店内には綾さんを入れて四人ほど店員が居るが、全員翼をつけている。邪魔そうだ


「ねこねこ喫茶、海のねこ。タイムサービスでこのお店、お昼過ぎから二時間だけコスプレして、語尾に、にゃをつけるんですよ。にゃ」


「ねこ??」


猫って言うか、鳥?


「うみねこです。にゃ」


「あ、あ〜、なるほど。しかし……」


綾さんはともかく、さっきから奥の方でちらちら見える翼の生えた眼鏡オヤジが非常にウザイ


「マニアックですね、うみねこなんて」


言われなきゃ分からない


「私も普通にネコミミ喫茶とかの方が、可愛いと思います。奇をてらい、失敗するタイプですね、うちの店長。にゃ」


「なんだかテンション低いですね~」


「これ、上げる方が難しいです。にゃ。でもお給料は良いんですよね~。にゃ」


ちりん、ちりん


せちがらい世の中。稼ぐのも大変だなって思っていると、店内に軽快な鈴の音が響いた


「にゃ。お客様のお呼び出しです、行って来ますね。にゃ」


「行ってらっしゃい、頑張って下さいね」


「はい。……にゃふ」


溜め息に近い鳴き声を漏らし、綾さんはテーブル席へと向かって行った


「うむ~」


無理してるなぁ


綾さんの今にも天国に飛んでっちゃいそうな後ろ姿を見送り、姉ちゃん達の所へ


「姉ちゃ」


「い、いつもより多く回しております~。いかがですか夏紀様~」


「ふん。皿なんて今時、猿でも回せるのよ。アタシを本気で楽しませたいのなら、カバでも回してみなさい!」


「ひぃ~」


「…………」


まだ店長いじめてたのか


「ね、姉ちゃん?」


哀れな店長から目を逸らしつつ、相変わらず偉そうに座っている姉ちゃんに声を掛ける。その横には春菜がテーブルに顔を伏せって座っているが、秋姉達の姿は無い


「あん? ああ、何処ほっつき歩いてたのよ。もうアンタらの焼きそば食べちゃったわよ? そこの眼鏡なオッサンが」


「久しぶりに肉を頂きました!」


別の席で皿を片付けている眼鏡オッサンが、感極まった声で応えた


「そうですか……」


後でイカ焼き奢ってあげよう……って俺、なんでこんなにイカ焼きを押してんだ?


「ところで、秋姉達は?」


「雪葉とトイレよ。この店に無いから、駐車場の方まで行ってるわ」


口元に手を当て、欠伸をしながら教えてくれた。退屈そうだ


「そういえば水着コンテスト? 出るんだって? 珍しいね」


「ん? ……ふふふ」


退屈そうな顔から一変。夏紀姉ちゃんは目を細くし、妖しく微笑む


「ど、どうしたの?」


「いいえ。うふふふふ」


怖っ!?


「へい、昇天地獄ラーメンお待ち!」


店員の一人が、2、3キロはありそうなラーメンの器を両腕抱えで持って来た。なんつーでかさだ


「待ってました! うひょ〜」


勢い良く起き上がり、これまた勢い良くラーメンを食い始める。器の中のラーメンはみるみる減ってゆき、それと比例して春菜の腹が膨らんでゆく


「野生動物みたいな奴だな……」


食える時に食って、貯めておくってか


「う〜ん。まずいなこのラーメン!」


「まずいのか」


なんで嬉しそうなんだ、コイツ


「海の家のラーメンは美味しくない。そんな基本を忠実に守って作っている、自信作でございます」


なんで自信満々なんだ、この店長


「あ~もう皿、回さなくて良いわ。仕事に戻りなさい」


「はい! ありがとうございました女王様!!」


「誰が女王様よ!」


あ、そこは否定なんだ


「……あ、京介。戻っていたんだ」


「ごめんなさい、お兄ちゃん。先にご飯食べちゃった」


女王様を見ていると、秋姉と雪葉が手を繋ぎながら戻って来た。これで全員集合だ


「よっし! ごちそうさま!!」


「食うの早いなお前」


ぽっこりとした腹が、なんか面白い


「食ったら即動く! 泳ぎに行こうぜ兄貴!」


「早死にしそうな生き方だよなお前って……」


ま、付き合うか


「ちょっとまた泳いでくるけど秋姉達は?」


「パス。めんどい」


「海……浮かばない」


「雪葉もちょっと海恐いかも……」


「そう?」


何だかみんな、あんまり乗り気じゃないな。てかぶっちゃけ俺もそんなに海が好きって訳じゃないし……


「……ん、雪葉。後で砂でお城作ろう?」


「うん、秋お姉ちゃん!」


「アタシはパラソルの下で寝てるわ。三時過ぎてまだ寝てたら起こしなさい」


「そっか、了解。じゃ後で」


まぁ、海の楽しみ方なんて人それぞれだよな。姉ちゃんはいつも通りだけど


「よし、行くべ春菜」


「ああ! どっちが長く泳ぎ続けられるか、競争だ!!」


「……普通に泳ごうぜ」


合宿メニューじゃないんだからさ

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