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夏の海 7

「さてと……ん?」


海の家を出て、軽く辺りを見回す。春菜の姿は見えないが、なんだか少し浜辺が騒がしい


「ひ、人だ〜人が溺れているぞ〜!」


なんだって!?


海を見て騒いでいる集団に走り寄り、その視線を追う。するとかなり沖の方で、人影らしきものがうっすらと見えた


「た、大変じゃないですか! ライフセーバの人は!?」


「それが辺りに居ないんだよ! だから今、消防署に連絡した!」


「間に合うんですか!?」


「分からない! しかし待つしか無いんだよ!」


怒声に近い返事に、とんでもなく緊迫した事態なのだと言う事を知る


「……お、俺が」


ちょっと待て、何を言おうとしているんだ俺は


「なんだ!? 何か言ったか!」


他人だぞ、他人。なんで他人の為に命を掛けないといけないんだっての


「お、おい、なんか沈んでないか? やばいんじゃないか、あれ!?」


そう他人。……だけど、もしあれが春菜だったらどうする? 俺、多分一生後悔する


後悔して、後悔して、後悔し続けて生きる。そんなのは――


「……最悪だ」


なら……なら、行くしかねぇだろ!


「俺が助けに行く!」


「な、なに!? 止めとけ兄ちゃん! 素人が行ったって二重事故になるだけだ!」


「行くったら、行くんだよ! オリャアア!!」


海に飛び込み、直ぐにクロール。海は温かくて流れも穏やか。これぐらいなら余裕がある


10メートル、30メートル、70メートル、120……後少し!


「ハァハァ……おーい、大丈夫か〜」


「た、……けっ、ぶくぶくぶく」


ジタバタ暴れながら、浮かんだり沈んだりしている二十前後の女性。春菜じゃない?


「よ、良かった……」


いやいや、良くは無いだろ!


「今、助けるぞ〜」


溺れてる人に正面から向かうと、抱き着かれて大変危険らしい。俺は女の背後へ回り込む様に泳ぐ


「どご、どご行ぐの!? だ、だずけ!」


「あ、こっち向くな! 貴女は何もしなくて良いから、目をつぶって待ってて!」


「じにたぐない、じにだぐな、ぶくぶくぶく」


やべ、完全に沈んだ!


「だ、大丈夫か!」


女が沈んだ所へ、慌てて行くと……ぐぃ


「な、なんだ!?」


足を引っ張られた! 妖怪か!?


「ぬ、ぐぅう!」


沈まない様に必死に泳ぐ俺の身体を、妖怪はよじ登ってきて――


「づがまえたぁあ、げほげほ!」


「ギャアアア!?」


ワカメの化け物〜って


「さっきの人か!」


パーマをかけているらしい濡れた長い髪が、べたーっと顔を覆っていて、世にも恐ろしい事になっている


「だずけで、だずげてぇええ」


「た、助けるから、離れて!」


とても女とは思えない強い力で、がっちりしがみつけられて身動きが取れない!


「いや、いや! はなざない〜」


「ぐっ!」


このままでは俺まで溺れてしまう! 仕方ない!!


「ボディ! へい、ボディ!!」


暴れる女にボディへの二連発!


「うげ! ぐ、ぐぐ……あ、あなだ私を見殺じにずる気ね……」


「ちっ、まだ息があるのか!」


手強いな!


「う、怨んでやる、怨みまぐってやる、盆休みに化げで出でやるぅう」


「ボディ! ボディ、ボディ!!」


怒涛の三連発!


「うぎ! うげ! うっご…………がく」


女から力が抜けた。もう大丈夫だろう


「……ふぅ」


疲れた。この人連れて岸まで戻るのはキツそうだし、後は浮かんで助けが来るのを待つとするか


「感謝状貰えるかな」


貰えたら今度こそ、俺の感謝状だ。自慢しよ


「早くこねーかな……」


まだ助かりきってない不安な気持ちを独り言でごまかしながら、俺は女の背中を胸で抱いて、プカプカ浮かびながら助けが来るのを待つ


「う〜みは広いな大きいな〜。……ん? な、なんだ?」


岸からこちらへ、高い水しぶきが一直線で向かって来る。つか……早い!


「さ、サメ?」


いや、サメは水しぶきなんかたてない。となるとあれはマグロ……い、いや、あれは!


「あにき〜」


「は、春菜!」


魚雷みたいな早さで、春菜が向かって来る


「助けに来たぞ、兄貴」


「た、助けに来たって言ってもな……」


いくらなんでも春菜一人で俺達二人を同時に助ける事なんて出来る筈がない


「ほら浮輪」


「へ?」


春菜は、何故かビニールロープ付きの浮輪を俺に投げ寄越した


「ロープで引っ張ってってやるから、ちゃんと浮輪を持ってろよ。じゃ、行くぞ〜」


「引っ張る? うお!?」


岸に向かって再び泳ぎ出す春菜に、浮輪が身体ごと引っ張られる


「ま、マジかよ……」


化け物かコイツ?


「やっぱ、ちょっと重いな〜。距離が短くて良かったぜ!」


「短いって……」


「波が来たらこうやって蹴ると良いんだぜ。おりゃ〜!」


水を切り裂く凄まじい蹴りだ


「…………」


今後、春菜とケンカするの止めよ……


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