夏の海 4
「しかし大変ですね。こんな暑い中、ラムネ売りだなんて」
年齢詐称の疑惑は消えないが、太陽が照り付けるこの場所で追及するのは危険だと察し、俺は話を変えてみた
「いえいえ、すごく気持ち良いですよ。普段は室内で汗をかいていますから、たまには外で。あ、今のはエッチな話ではありませんので、あしからずです」
「…………」
まったくこの人は……ここらへんで一度ビシっと言っておくか
「綾さん!」
「は、はい!」
「なんでもかんでも下ネタに持って行こうとするのは三流芸人のする事ですよ! ツッコミ入れる身にもなって下さい!」
「で、ですが、私からエロを抜いてしまったら、ただのツンデレ剣道少女しか残らなくなってしまいます……」
俺の説教を受けて綾さんはしょんぼりしながら、そう言ったってか
「……ツンデレだったんですか貴女?」
また意外な
「そうですよ、こほん。おっぱいなんか揉ませないんだからねっ!」
「…………ははは」
俺の口から、乾いた笑いが勝手に出た
「ご、ごめんなさい。自分でも今のは無いなって思います……」
綾さんは顔を赤くさせ、俯く。どうやら流石に恥ずかしかったようだ
「若い内は間違う事もありますよ」
なんて優しくフォロー
「うぅ……と、ところで佐藤君。今日は春菜さんといらっしゃったのですか?」
クーラーボックスを担ぎ直し、綾さんは話をごまかす様に尋ねた
「いえ、兄弟全員で来てますよ。今、あそこの海の家にいます」
海の家を指差すと、春菜っぽい奴が海の家の前をうろちょろしていた。何やってんだアイツ?
「わぁ、それは凄いですね。是非とも皆さんの水着姿を拝見しなくてはいけません」
そう言い、目を輝かせる綾さん。ま、まさかこの人……
「あ、綾さんは女性に興味があったりする人なのですか?」
恐る恐る聞いてみると
「いいえ。立派な男好きですよ」
なんて真剣な顔で返されてしまった
「誤解を招き兼ねない言い方は止めましょうね」
だけど何だかホッとしたぜ
「レズレズな感じは嫌いです。あれは邪道です。おおにたです」
「またレトロなネタを……」
「男性と違って女性はパートナーに求める感情が複雑で曖昧なんです。尊敬や、友情、愛情の境界線や違いが分かりにくいんですね」
「そうなのですか?」
「はい。ですからレズレズな方の恋は、果たしてそれが本当に恋愛なのかどうか疑わしい所です。やはり恋は肉欲に直結するべきものだと私は思っていますので、相手に触りたい、キスしたい、抱きたい、抱かれたい。そのような気持ちが湧きにくく、また想像しにくいのであれば、相手の事を好きだと思っていても、それは友情の延長なのではないかと思います」
「な、なるほど」
なんだか濃い話になってきたな……
「エロマンガの受け売りですけどね」
「またか!」
今度貸して欲しいかも
「と言う訳で、安心して私を口説いて下さいね恭介君」
そう言うと綾さんは表情を和らげ、子供のように無防備な笑顔を俺に見せた
「……気が向きましたらね」
まったく不思議な人だよな、綾さんは
俺は綾さんに微笑みを返し、家族全員のラムネを購入すべく財布をポケットから取り出した