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夏の海 2

「夏だ! 海だ! 大好きだ~!!」


海。夏の海。母ちゃんを除いた家族みんなで家から車で一時間の海へとやって来た俺達。真っ先に車から飛び出して浜辺に降り立った春菜は、両手両足を目一杯広げて海の風を全身に浴びている


「元気だな~」


春菜を追って浜辺に出た俺は、半分呆れながらも何だかほほえましくて暖かい眼差しで見てしまう。やっぱ元気なのが一番だ


「だって海だぜ、海! 夏の海!! うおおお~最高ー!!」


春菜は俺の方へ猛スピードで走り寄って来て――


「おりゃ~!」


「ぐぼぉ!?」


俺の腹へ矢のようなタックル! 500のダメージ!!


「あ~にきっ! って……あれ? 何、寝てんだよ! せっかく海に来たんだし、もっとテンション上げようぜ!」


「ね、寝ているんじゃない。お前にぶっ倒されたんだ……」


なんつータックルだ。俺でなかったら死んでたかもしれん


「そっかー。ごめんな、兄貴」


謝りながら俺へ伸ばされた春菜の手を取り、起き上がる


「いてて……。全く。気をつけろよ」


しかしまぁ、こんな良い天気だ。はしゃぎたくなる気持ちも分かる


「つか、なんか空でけー」


ものすげー青いし


「海も超でけーぞ!」


「そうだな」


夏。そう、つくづく夏なのだ。夏は母ちゃんの妹である麗華叔母さんちに泊まりに行く季節……


「よーし、今日は超泳ぐぞ~」


気を滅入らす俺を尻目に、春菜は高いテンションのまま、おもむろにズボンを脱ぎ始めた


「ばっ、お前、こんな所で……なんだもう着替えていたのか」


春菜はズボンの下に、ちゃんと水色のビキニを履いていた。たく、ビビらせやがって


「海に行く時は先に着替えとく。そんなの常識だぜ」


ニヤッと笑い、春菜は両手をクロスさせて裾下から上着をめくって……ぽろり


「あ、上着てくんの忘れてた」


ゴーン!


「ぎゃー!? な、なにすんだよ! いきなり頭突きとかひで~よ」


「頼むからもう少し気をつけろって!」


涙が出そうだ


「ちぇ、意味分かんねーの。多分車ん中にあると思うから、水着取って来るわ」


「ああ、そうしろ。間違っても人前で着替えんなよ」


「分かったよ」


どうも釈然としていないようだが、納得はしてくれたらしい


「困った奴だ」


走り去る春菜を見送りながら、溜め息。やっぱ一度本気で夏紀姉ちゃんに教育をしてもらう必要がありそうだけど……


ぶるると身体が震える。俺も一度姉ちゃんの教育受けた事があるが、あれは某ヨットスクールよりも恐ろしい。流石に可哀相だから、雪葉や秋姉に春菜の教育をお願いしてみよう


「さーて」


俺もどっか物陰で着替えてくるとするか


周囲を見回すと、ちょうど隅にボロくて小さな藁葺き小屋があった。そこの裏を借り、着替えを済ませて服やタオルを袋にしまう


「……よし」


着替え終了だ。秋姉達はもう着替え終わってるかな。とりあえず一度車に戻ってみよう


「あちち」


焼けた砂浜を歩き、階段を登って夏紀姉ちゃんがわざわざ借りて来たワゴン車が置いてある駐車場へと向かう。すると、ちょうど車から水着姿の夏紀姉ちゃんが出て来た


派手な色のペイズリー柄ワンピースが俺の目をチカチカさせる


「はぁ……暑いわね。ずっと車に閉じこもっていたい気分だわ」


基本引きこもりな姉ちゃんは、太陽を見ながらうんざりした口調で呟く。つか、なんで海に誘ったんだこの人


「秋姉達は?」


「クーラーボックスに入れる飲み物をコンビニへ買いに行ったわよ。熱中症対策らしいけど、まめよね」


いや、あんたが用意しとけよ。などとは言えない俺が好き


「お兄ちゃ〜ん」


呆れながら姉ちゃんを見ていると、俺を呼ぶ声がした。見てみると数十メートル先に、コンビニ袋を持ったピンクの花柄ワンピースを着た雪葉と春菜と……っ!?


「あ、あれはまさか」


まさか、まさか、まさかぁああああああ!!


「び、びび、びびびびびびびびび?!?」


「あん? ……ああ、アキね。あの子今日も学校の水着で来ようとしたから、急遽水着を買って来て……な、なんで号泣してるのよ?」


「ああ、今、心の琴線が激しく震えている! 人は本当の美を前にしてはなんと無力で、ちっぽけな存在なのだろう」


白ビキニ。それは宇宙の誕生に等しい奇跡


白ビキニ。それは輝かしい未来の象徴


「ありがとう世界、ありがとう地球! ありがとぉお、ありがとぉおおー!!」


僕らの未来はこれからだ!!


「…………」


「あ〜ありがたや〜、ありがたや〜。……はっ!?」


ふと背中に感じた強い寒気に我に返り、振り向いてみると、見られただけで思わず石になってしまいそうな冷たい目の姉と目があってしまった


「な、なんちゃって」


「夏休みさ……姉ちゃんとゆっくり話し合いましょう? ゆ〜っくりね」


ニコリと笑う姉。なんと邪悪に満ちた笑顔なのだろう。本人は警戒を解いてるつもりだろうが、こんなのが保険の勧誘をしてたら、相手は裸足で逃げ出すレベルだ


「あ、い、いや、え、遠慮しておくよ。姉ちゃんも忙しいだろうし……」


「大丈夫よ。うふふ」


ああ、俺の夏は今日で終わった


微笑みながら妖しく舌なめずりをする姉ちゃんを見て、俺はひと夏の終わりを覚悟しました


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