第124話:夏の誘い
「ただいま~」
妹大会は無事に終わり、家へと帰って来た俺
雪葉達は花梨の家に寄ると言うから、雪葉に賞金の小切手を渡してタクシーに乗せた(自腹)秋姉は友達と電話をした後、その友達と会ってくるからと駅前で別れ、結局ひとりぼっちで帰宅
「む、む、麦茶。俺は恭介~麦茶っ子~」
微妙な寂しさに思わず新曲を歌いながらリビングへ入る。すると日曜日の昼間っから、ソファーの上で寝ているシャツと短パン姿のオッサン、もとい夏紀姉ちゃんがいた
「ううん……さけ……むにゃむにゃ」
部屋が蒸し暑いからか、シャツは胸元までめくれていて、腹やら下乳やらがまる見えだ。このままほっとくと、風邪を引いてしまうかも知れない
「……よし」
ほっとこう。姉ちゃんならきっと風邪なんか引かないさ。触らぬ神に祟りなし、余計な事して怒られる前にさっさと麦茶を取りに行くべ
「こら」
「うわっ!?」
さっきまで閉じていた筈の姉ちゃんの目がうっすらと開き、その目がギロリと俺を捉える。まるでジャッカルの様だ
「お、起こしてしまいましたか姉様。どうかお許し下さい」
今、この疲労状態で姉ちゃんに絡まれるのは、非常に危険だ。ここはうまく逃げよう
「今、何時?」
「三時を五分過ぎた所にてござりまする」
「そう……なんだか四ヶ月ぐらい寝ていた気分だわ」
「そのネタはリアルタイムで読んで下さった方以外、分からないかと思いますが」
「あ~暑い」
姉ちゃんはソファーから身体を起こし、背伸びをする。シャツは乱れたままなのだが、直そうとは思わないのだろうか
「ふぁーあ……はぁ」
目を擦り、姉ちゃんは溜め息をつく
「どうしたのさ、溜め息なんかついちゃって。何か悩み事でも?」
「……ビール飲みたい」
なんだ、ビールね
「麦茶飲む?」
「麦茶……麦と茶……とホップ……サッポロ」
虚ろな目でぶつぶつと呟く姉。恐すぎる
「禁酒って何日やれば成功なのかしら……」
「いや、普通に一生でしょ?」
「そうよね。そうなのよね…………はぁぁ」
俺まで落ち込んでしまいそうな程、深い溜め息だ
「辛いなら飲めば? 姉ちゃんの場合は飲み過ぎるから悪いんであって、少しぐらいなら大丈夫だろ」
「雪達と約束しちゃったから。これ以上、姉の威厳を損なう訳にはいかないのよ」
「一応、損なわれてた自覚はあったんだ……」
意外だ
「ところで――。どうしたのよその目」
「目?」
「久しぶりに生き返ってるじゃない」
「いつも生きてるよ!」
毎日元気です!
「あ、そう。どうでも良いわ、早く麦茶を持って来なさい」
「ぐっ……ただいま、お持ち致します」
今は辛抱だ、そのうち下克上をしてやる。そしたら姉ちゃんなんか、毎日俺の肩揉み係だぜ!
なんて空しい妄想しながら冷蔵庫を開け、冷えた麦茶とコップを二つ手に取る。やっぱり夏は麦茶だな
「喉渇いた~」
「はい、ただいま!」
悲しき条件反射か俺は背筋を伸ばし、素早くリビングへ向かう
「お待たせしました、どうぞ」
琥珀色の麦茶をコップへ注ぎ、姉に献上する。相当喉が渇いていたのか、姉ちゃんは一気に飲んで再びソファーにねっころがった
「お休みですか、姉様。ごゆるりと……」
逃亡チャンス!
「そういえば」
「は、はい! なんでしょう?」
「アンタ朝から雪と何処行ってたの?」
「え? えっと……隣町の森林公園に」
「ふ~ん。……楽しかった?」
「う、うん。それなりに」
「そう。良かったわね」
「まぁ、うん……」
何が言いたいんだ、この人
「来週さ」
「え?」
「日曜日。みんなで海行かない?」
「海?」
「アキも来月大会あるし、みんなで出掛けるなら来週ぐらいしか時間無いでしょ?」
「そうかもしれないけど……秋姉、来週空いてるかな」
今日も朝練あったみたいだし
「あの子が帰ったら聞いてみるわ。アンタは?」
「大丈夫だよ。春菜も喜ぶんじゃない?」
海行きたがってたしな
「よし、じゃそうしましょう。新しい水着も買ってあげるから、今度選んで来なさい」
それだけ言って姉ちゃんは、また寝るのか目を閉じる。なんだか随分、優しいが悪い物でも食ったか?
「タオルケット持って来ようか?」
「いい。少し横になるだけよ」
「そっか。じゃ、安らかに」
俺も寝よっと
今日の淋しがり屋
夏>>>>>>>>俺≧雪≧秋≧春
つまみ