雪の妹大会 18
「全ての競技が終わりました。この後、20分の休憩を挟み、閉幕式と今回のゴッドシスターの発表を致します」
そんなアナウンスがスピーカーから流れ、体育館内はユルイ雰囲気となる
「それじゃ雪葉達、今のうちに着替えて来るね」
「ああ、いってらっしゃい。……さて」
秋姉の所へ行こーっと
壇上を降り、わらわらと居る観客達を避けて秋姉が居た場所へ!
「…………あれ?」
秋姉が見当たらない。何処か別の所へ移動したのだろうか?
「まずいな……」
秋姉は人混みに紛れてしまうと、見付ける事が非常に難しくなる。忍者みたいな姉なのだ
「あの人も妹だったのだろうか?」
「ん?」
「い、いや、妹にしては美しすぎる」
なんだか辺りがざわついている
「じゃあなんだと言うんだよ! 実は姉でしたってか? はん、冗談じゃないぜ!」
「しかし雪葉殿がお姉ちゃんと……」
「…………」
なるほど、秋姉の話をしているんだな。それにしても……物の道理が分かってない奴らだ
「ち、違う。あの方は恐らく……神。そう、神に近い存在なのかもしれない……」
「ほう」
少しは話の分かる奴が混じっているようだな
「君達」
「だ、誰だ!?」
「あ! あ、貴方は、平成のシスコン王、佐藤 恭介様!?」
「……もうなんとでも言ってくれ。それより君。今、美しい女性の事を話していたね?」
「え? あ、はい。まるで風の様に颯爽と現れ、去って行った方が居たのですが、あまりの美しさに彼女は神の化身か何かだったのではないかと……いや、すみません! ただの妄想です!!」
「正解だ」
「え!?」
「……覚えておけ、あのお方こそが女神と言う存在だ。ふふ、良い体験をしたな君」
俺は青年の肩をポンっと手で軽く叩く
「や、やっぱり……ありがとうございます!」
「うむ。ところで、その女神がどこ行ったか知らない?」
「い、いえ。いつの間にか消えていたので……外ではないかと」
「なるほど。ありがとう」
「こちらこそ!」
頭を下げる青年に微笑みを返し、体育館の入口へと向かう
「……ふぅ。暑い」
太陽がギンギラギンだぜ
「あ……きょ」
「お兄ちゃ〜ん」
「ん? お、雪葉」
体育館を出ると、ちょうど着替えた雪葉と会い、雪葉はトテトテと俺の傍に走り寄って来た
「着替え早いな、雪葉」
他の子達の姿はまだ見えない
「うん。急いで着替えて来たの」
「そっか」
「うん……あのね、お兄ちゃん。賞金の事なんだけど……」
「七人だからな。分けると一人142万となんぼぐらいか……凄いよな。母ちゃんと相談して大切に使うんだぞ?」
俺は何に使おうかな。旅行と釣り道具と新しい将棋盤と、ゲームと。後は秋姉に貢いで、残りを雪葉の進学貯金に……
「……お兄ちゃん」
使い道に悩んでいると、雪葉は何故かとても真剣な顔で俺を見つめた。雪葉のここまで真剣な表情は、あまり見た事がない
「どうした、雪葉?」
「雪葉の分、花梨ちゃんにあげて欲しいの」
「え?」
「本当なら全部お兄ちゃんに預けないと駄目だけど……お願い、お兄ちゃん!」
「お願いって言われてもな……。どうしてだか説明してくれるか?」
雪葉の取り分は雪葉の物だ。使い道についてはある程度自由にしても良いとは思うけど……
「う、うん……」
「雪葉?」
「……花梨ちゃんのお家って、凄く借金があるらしいの。花梨ちゃんのお母さんも、病気で……だから」
「……花梨に同情でもしたのか?」
「違うよ! 同情とかじゃなくて……大切な友達だから! 友達だから助けてあげられる時は助けてあげたい!!」
そう言い、雪葉は強い目で俺を見上げた。真っ直ぐな目だ
「……金の問題って、結構シビアなんだぜ。渡す方も渡される方も、どこか負い目が出来てしまうし、卑屈にもなる。そうなったら対等な友達にはなれなくなるかも知れないし……でも」
お前達なら大丈夫だな
「……お兄ちゃん?」
「良いぜ雪葉。好きにしろ」
「お兄ちゃん!」
「まったく。いつの間にそんな大人になっちゃったんだよ!」
雪葉の頭を撫で、俺の心も決まった
「兄ちゃんの賞金もお前にやる。好きに使え」
「え!? で、でも」
「まぁ、俺が金持ってたって無駄遣いしかしないしな。それならお前に任せた方がよっぽど良い」
正直かなり惜しいし、カッコもつけているが……
「俺は雪葉の兄ちゃんだからな!」
お前が喜んでくれんのが一番だ
「お兄ちゃん……ありがとう。……大好き」
雪葉は、ぎゅっと俺の腰を抱いて顔を埋めた。雪葉は体温が高いので、正直ちょっと暑苦しい
「僕達もその話に乗らせてもらいたいな」
背中からの声に首だけ振り向くと、着替えてジーンズ姿に戻った風子と、美月が立っていた
「風子……それに美月」
「お待たせ、兄ちゃん」
「私も居るし。恭君ふしあな」
美月の背後からヒョッコリと千里が顔を出す
「い、居たのか、すまん」
千里は身体が細くて小さいので、誰かの後ろにいると結構隠れてしまうのだ
「お兄さん。僕達の賞金も花梨にあげて欲しい」
「え? い、いや、しかし……良いのか? お前らが手に入れた賞金だ、遠慮とかする必要は無いんだぞ」
「僕にはお金の使い道なんて無いから。もし必要になったら自分の力で稼ぐよ」
「わたしも要らない。欲しいもん無いし! あ、でも兄ちゃんは欲しいなぁ」
「う……」
美月の大きな目でジッと見つめられると、言う事を聞いてしまいそうになる
「お、お兄ちゃんはあげません!」
すかさず雪葉が俺の前に立ち、ガード。流石我が家の名ディフェンダーだ
「私もいらない。親に説明するの面倒し」
「面倒って……本当に良いのか?」
「うん!」
「オッケ」
「よろしく、お兄さん」
三人は、ごく自然にそう答えた
「……風ちゃん、千里ちゃん、美月ちゃん」
「本当に友達なんだな、お前達は」
少し羨ましいぞ、こんちくしょう
「よし、分かった。じゃそうしよう。……で、その花梨は?」
「あっち」
千里が指を差した方向を見てみると、リサと花梨が足を止め、何やら揉めていた
「だから要らないって言ってるでしょ!」
「あなたは貧乏なんだから素直に受け取れば良いのよ! ど貧乳!!」
「な、なにお〜」
「な、なんだ?」
なんかめっちゃ揉めてるような……
「どうしたんだ、お前ら」
「何でもないわよ!」
「何でもないわよ!」
「そ、そうか……ごめん」
ステレオで怒られてしまった……
「どうしたんだい二人とも」
「…………」
「…………」
風子が尋ねると、二人は顔を下げ黙ってしまう。俺とは随分態度が違うなこら
「花梨ちゃん?」
「…………賞金、あたしに全部渡すってこの馬鹿が言うから……」
雪葉に見つめられ、花梨は言い難そうに呟く
「ば、馬鹿って言う方が馬鹿なんだから!」
「うるさい馬鹿!!」
花梨の本気の怒り声に、リサは短い悲鳴をあげて黙り込んでしまい、重い雰囲気に包まれる。そんな中、風子はあっさりと言う
「僕らの賞金も花梨に譲る事になったよ」
「…………え?」
「これは僕らの総意。断らせない」
そう断言する風子の言葉に、花梨は驚きの表情を浮かべた
「受け取って、花梨ちゃん」
「雪まで……みんな知ってるのね、あたしの家の事」
「大人達の間で噂になっていたからね。結構強引な取り立てをしているらしいし」
「……確かにうちは貧乏だけど、それはあたし達の問題よ。助けてもらおうとか、なんとかしてもらおうなんて思わない。余計な事はしないで」
キッパリとそう言い放つ花梨の表情は強く、大人びていてるが、どこか諦めている様にも見えた
「……する」
「え?」
「余計な事、する! 花梨ちゃんがヤダって言ってもする!!」
「ゆ、雪? な、なんで……や、止めてよ! そういうの迷惑だから!」
「迷惑でもする! するったらするの!!」
お、おお……久しぶりに見る強引な雪葉。こうなったら絶対自分の意見を変えないからなコイツ
「な、なんでよ!? あたしは嫌だって言ってるのに!」
「そんだけお前が大切だって事だろ? こんな大会のあぶく銭よりも」
俺がそう言うと花梨はハッとし、次に泣き出してしまいそうな顔で言った
「あ、あたし、みんなとは普通の友達でいたい。だからこんな風に同情してほしくないの」
「そうじゃないよ花梨。同情だとか、可哀相だからとか難しい話じゃないんだ。大切な友達だから助けられるのなら助けてたい。ほらね、単純でしょ?」
いつもより子供っぽく言い、微笑む風子。他の子らも、当然とばかりに頷いている。こりゃもう勝負ありって奴だな
「お前の負けだ花梨。お前もこいつらの事が大切だと思うなら素直に受け取れ」
「あ、あたし……何も出来ない。そんな事をしてもらっても、みんなに何もしてあげられない!」
花梨は目を潤ませ、搾り出す様な声で言った
「たく……馬鹿だな」
「ふふ、馬鹿だね」
「馬鹿花梨!」
「な、なによ、みんなして!」
「んなもん一言で十分だろ?」
「え? な、なに? あたし、どうすれば」
「ダチなんざ礼一個だけで良いんだよ、花梨」
「っ! ……あ……う…………う……っく」
言葉に詰まった花梨の顔は、次第に涙と鼻水でぐちゃぐちゃになる。嗚咽で息も絶え絶えだ。それでも花梨は顔を上げ、涙を袖で拭き、その一言を言った
「……あ、ありがとう……ありがとう!!」
「うん、花梨ちゃん!」
「おう」
しかし、花梨ちの借金っていくらなんだろうな。余ったら少し……って、未練がましいやね
「んじゃ、賞金貰ってさっさと帰るべ。んで帰りマックだ!」
「やったー! 早く行こう兄ちゃん!!」
「ち、ちょっと待て! 金貰ってから」
「み、美月ちゃん! お兄ちゃんに抱き着く権利は雪葉にありますよ!」
「ふふ。ごめんね、雪。僕も抱き着かせてもらうよ」
「風子ちゃんまで!?」
「恭君もてもて。流石平成のシスコン王」
「つか暑い! は~な~れ~ろ~」
今日の遅刻
燕≧ゆ
「ところで……秋姉はどこに行ったんだろ?」
「……うしろ」
「え? う、うわぁ! あ、秋姉!? いつからそこに!」
「……最初から」
「え! あ、ご、ごめん秋姉、最近ちょっと乱視で気味……」
「ん。……みんな素敵な子達だね」
「うん、俺もそう思う。みんな良い友達だよ。流石は雪葉かな」
「……あなたも」
「え?」
「素敵だったよ、恭介」
「う……うおおおおおおおおー!」
スズナリ横町