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揺らがない彼女

お蔭様でお気に入り900ありがとうございます&ギックリ腰、少し回復記念。そのうち削除


今日の燕さん。その5




「ううむ〜。なるほど、手料理か……」


日曜日昼。午前中の予定を全て消化し、夕方の舞稽古まで自由に出来る時間を作れた燕は、彼女にしては珍しく就寝以外の目的でベッドに寝そべりながら、雑誌を真剣に読んでいた


「む! キ、キスの種類だと? なんと破廉恥な……」


と批判しつつも、足をパタパタさせながら軽くキス顔を作ってみる辺り、興味津々なのはバレバレであった。しかしこんなアホな姿を家族や友人に見られでもしたら……


「おじゃましますね、燕」


「ひゃあ!? ゆ、ゆかな!」


部屋のドアが突然開き、咄嗟に雑誌を枕の下に隠した燕。視線の先には、彼女の友人であるゆかなが、穏やかに微笑んでいる


「の、ノックくらいしたまえ! それに来るのなら、前もって連絡がほしい」


燕は気まずそうにベッドから起き上がり、友人の為に洗い立てのクッションをフローリングの床にひいた


「ごめんなさい。びっくりさせてしまったみたいね」


頬に手をあて、ゆかなは申し訳なさそうにそう答えた。だが何処か面白がっている風でもある


「それにしても……燕もそういう雑誌を読むのね」


ゆかなは出されたクッションに腰を沈めながら、ちらりと枕元に視線を移す


「うっ!? あ、あれは別に……」


「気にする事は無いわ、みんな普通に持っているもの」


「え? そ、そうか?」


「ええ。最近はインターネットが多いみたいだけれど、私は紙の方が健全だと思っています」


「……なんの話だ?」


「だからえっち本の一つや二つ、隠す事ないわよ燕」


「違う!!」


〜渋々説明中〜


「別れた元彼と復縁する方法?」


燕が読んでいた雑誌はタウン情報系の物で、特集の一つとしてそんな企画が組まれていた


「べ、べつにその特集目当てで購入した訳では無いぞ! あったから少し読んでみただけだ!!」


「一途ね、燕」


「だ、だから違うと言っているっ!」


わたわたと、あわてふためく燕に対してゆかなは全く動じず、ゆっくりとページをめくる


「そうねぇ……色々なキスの仕方?」


「ぬ……は、破廉恥極まりない低俗な内容で、私も困っていたのだ。まったく、なんとも呆れた物書きよ」


若干引き攣りながらそう話す燕に対し、ゆかなは憂いを帯びた顔で囁いた


「キス……私と試してみない?」


「にゃ!?」


「冗談よ」


「た、たちが悪い冗談は止めてくれ!」


びっくりして、猫の様に跳ねてしまった燕の姿を見て、ゆかなは嬉しそうにニコニコする。基本的に彼女はSなのだ


「ごめんなさい。でもキスが出来る仲なら、もうとっくに復縁していると言っても良いわよね」


「む……確かに」


「燕は恭介君とキスをした事はあるの?」


「な、何を聞く!?」


「約一年半年の付き合いだもの。してない筈が無いわね」


誘導尋問。この副会長の特技である。しかし、いつもの燕ならば何も答えず、即座にこの話を止めにするが、今日の燕は非常にテンパっていた。だからついウッカリ


「それは……まぁ……少しは…………」


と、答えてしまう


そしてそれをこの副会長は逃さない


「あの頃の二人は凄く仲が良かったものね。恭介君と燕の相性は最高だと思うわ」


「ぬ……ま、まあそれは確かにそうかもしれないな。うむうむ」


「始めてのキスは何処で?」


「公園だ。おでこに」


「おでこ?」


「うむ。おでこに2回だろ、頬に1回。そ、それと……ううむ〜」


「……あなた、いちいちキスの数を覚えているの?」


「な、なんだね、その可哀相な人間を見る目は」


「実際に可哀相だもの。それだけ少ないと言う事でしょ?」


「べ、別に良いではないか!」


「恭介君も燕も積極的ではないから……他の男の子と付き合ってみたりはしないの?」


「しない!」


「即答ね」


「好きな人が居るのに、他の男性と付き合えるほど、私は柔軟な思考を持ってはいない」


「じゃあ恭介君に恋人が出来たら?」


「それは……諦めよう。彼との約束だ」


「頑固者」


「ふん。どうせ私は頑固で可愛いげの無い女だ。そんな事、自分でも分かっている」


燕は唇を尖らせ、拗ね始める。他人には絶対に見せる事がないこの姿は、ゆかなに甘えていると言っても良いだろう


「拗ねないの。でもその時は仕方ないわね、私も恭介君と燕の復縁は諦めるわ」


「……別に諦めなくても良いではないか」


「え? ごめんなさい、聞こえなかったわ。もう一度言って」


「な、なんでもない! ニュース見る!」


気まずさに、燕はテレビのスイッチを押す。すると


「お兄ちゃん、カッコイイ!」


「ふふ。流石だね、お兄さんは」


「恭くん。ナイス」


「兄ちゃん、超すげー! 超やっべー!!」


「や、やるじゃないアンタも……ちょっと見直した」


「わ、私の方が活躍してた!」


噂の元彼が変な大会に出て、少女達にチヤホヤされていた


「…………」


「…………早くしないと恭介君、取られてしまうわよ?」


「なっ!? い、いやしかし……と言うより何故テレビに!? そ、それに妹大会とは一体」


ゴクリと燕の喉が鳴る。自分の想像力を越えた光景に、彼女は戸惑った


「此処は森林公園ね。此処から30分ぐらいで行けるけど……行ってみます?」


「え! あ、いや、しかし時間は……あるけど」


視線を落とし、弱気に呟く燕を見て、ゆかなは仕方ない子ねと軽い溜息をつき、


「行きましょう燕。私も見てみたいから」


と言った


「う、うむ……君がそう言うのなら付き合おう」


この気弱で頑固で大切な親友が、幸せになるように手助けをする


「ありがとう」


数年前のあの日誓ったこの決意は今までも、きっとこれからも変わる事なく彼女の胸の中にある。だから


「それでは、行きましよう燕」


彼女は揺らぐ事が無いのだ



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