雪の妹大会 11
そして、始まる――
ドン、ドン、ドンドコドン!!
体育館に和太鼓の音が響き、金ぴか司会者は叫んだ
「最終試合! ツンデレ対決だぁああああ!!」
ウオオオオオー!
体育館は今日一番の歓声に震え、中には失神する客も出る始末
だが俺にも分かる。いよいよ最後にして、尤も熱い戦いが始まろうとしているのだ。ちなみに元気っ子対決は希美ちゃんって子が優勝。負けた子は
「お兄ちゃん、あ〜ん」
「ち、ちょっと瑠璃ちゃん。お兄ちゃん恥ずかしいよ」
体育館の端っこで呑気に弁当を食べている
「よし。頼むぞ、リサ、花梨」
「はいはい。一千万円だもの、ある程度の事は我慢してあげるわ。で、ツンデレって何をすれば良いのよ? アンタを蹴っ飛ばせば良いの?」
「俺も詳しくは分からんが、少なくともそれは間違ってると思うぞ」
「ふぅ、駄目ね花梨は。世間の流行を何も分かってないんだから。ここは私が先に行かせてもらうわ」
自信満々に言うが、まだ何をするかも分かっていない。そんな時、金ぴかオッサンは再び叫んだ
「第五試合は、お寝坊さんのお兄ちゃんを、ツンデレっぽく起こしてみよう対決だー!!」
「やっっったぁ!!」
「サンキュー、ツンデレ!」
「…………」
盛り上がる会場。そしてやっぱり盛り下がる妹達
「なんだかアタシ、頭痛くなってきたわ」
「なら休めば? どうせ花梨が出ても、私の優勝は間違いないし」
「リサが本当に優勝出来るのならそれでも良いんだけど」
「なによ!」
「なによ?」
相変わらず仲が悪そうな二人だな
「リサちゃん、花梨ちゃん。仲良く頑張らないと駄目だよ?」
「……ハァ。分かったわよ雪。一緒に頑張りましょリサ」
「ふん。頭下げたら、一緒に頑張ってあげても良いわよ?」
「あのねぇ!」
「そこまでだよ、二人とも。ほら、試合内容の説明が始まるみたいだ」
風子は喧嘩しそうだった二人をやんわりと止め、壇上の金ぴかオッサンに視線を移す。つか、やっぱ風子すげー
「試合内容は簡単だ。今からこの体育館に急いで部屋のセット組む。そのセットの中で、ベッドに寝ているお兄ちゃんを起こす、それだけだ。しかしそれは宇宙よりも可能性に満ちたレジェンドであり、神が与えし奇跡でもあって、時空間の流れがうんたらこんたら」
「…………」
そんな説明されても分からんて。他の出場者もそう思っているだろうなと周りを見てみると、結構頷いている人が目立つ
「これは勝てそうだね、由良」
「シスコンのくせに気安く名前を呼ばないでくれない?」
「これ俺らの勝ちだな、美紀ちゃん!」
「ちゃんは止めて、気持ち悪い」
「………………」
あちこちからギスギスした会話が聞こえる。これは、ただ仲が悪いだけでは?
「セットが出来るまで、三十分の休憩を入れるから、それまで自由にしてくれぃ! 開始予定は一時五十分。それまでには戻って来ておくれ」
「三十分後か。ジュースでも飲もうぜ、奢るよ」
「奢り? やったぁ!」
ぴょんとジャンプ、花梨さん
「か、花梨ちゃん?」
「あ……べ、別に嬉しくなんてないんだから! 馬鹿!!」
「馬鹿って……」
奢る上に罵倒までされる俺って一体……
「ま、まぁ、とにかく外に行くべ」
休憩だ、休憩
「あ、あいつすげぇ。優勝した妹ちゃんを二人も連れて……それにあの子は俺の一押しだった美月ちゃん。ちくしょー!」
「なんだよ、なんなんだよこれは! これが平等かよ、これが民主主義なのかよ! 生まれた時から俺は負けてるじゃないか!!」
「う…………」
憎しみが篭った目が、俺を貫く
「お兄ちゃん?」
「……この近くにあったから、ファミレス行こうぜ」
今はただ、人の目が無い所へ行きたい