雪の妹大会 10
さて、くじ引き。箱持ちバニーさんの前に立ち、しばし思案する
俺がくじを引くべきか美月が引くべきか。そもそも、どの水槽を狙うべきか
「兄ちゃん、わたしでっかいのが良い!」
悩んでいると、美月は期待するように俺を見上げて、そう言った
「でかいのか……」
確かに大きい水槽は、小さな水槽に較べて金魚の数が多い。どう考えても大きい水槽の方が有利だろう
「そうだな。一番でかい水槽が狙い目だな」
「うん。頑張って、兄ちゃん!」
どうやら美月は、俺にくじを引かせてくれるらしい
「よーし! くじ運なら任せとけ(根拠無し)」
「では佐藤さん、お願いします」
「おうよ!」
バニーさんが持つ箱に手を突っ込む。箱の中にはピンポン玉程度の大きさな玉が五個ぐらいある。これだ!
一個を掴んで箱口から取り出すと、緑色の玉だった
「緑でましたー」
「オーウ、ざんねーん。美月ちゃん達は五番の一番小さい水槽でーす」
「…………」
最悪だ
「やっぱり駄目な男ね、あの人」
「リサ、出世を逃した夫に対する妻の最終的な評価みたいな言い方は良くない。此処は今風に、超ベリーバットな感じー。みたいな」
「……なにそれ」
味方からも批難(多分)の声が聞こえてくる
「ドンマイ、兄ちゃん」
「…………ありがとな」
ポンっと背中に手を置かれ、慰められてしまった
「それじゃあ佐藤さんと美月さん、五番の水槽にスタンバって下さ〜い」
「ええ」
元気なバニーさんの指示通りに水槽前に行き、ぼけーっと待っていると、他の四組も現れ、それぞれの水槽も決まった。つか、どの妹達も膝上丈の短い浴衣なのだが、主催者側の趣味か?
「はーい、ポイをどうぞー」
「あ、ああ。ありがとうございます」
渡されたポイは一つ。薄い紙と針金だけで出来たしょぼい物だ
「金魚をすくえるのは妹ちゃんだけだ! 妹ちゃん達は配られたポイを使って、金魚を十匹すくってもらう。最初に十匹すくった子が優勝!! ただし、出目金に関しては二匹で一匹扱いとなるぜぃ」
「ふ〜む」
自分達の水槽を見ると、出目金の数は少ないが、金魚自体が三十匹前後しかいない
「やっぱ不利か」
美月にポイを渡しながら思わず呟くと
「全然平気! 頑張ったら褒めてね?」
「……ああ!」
美月の方が俺よりずっとポジティブだな
「よーし、これで一通り説明し終わったが、質問ある子!」
「はーい」
一番大きな水槽を手に入れた子が、ぴょこんと手を挙げた。あの子、どっかで見た事あるような気が……
「えーと、瑠璃ちゃん。質問よろしくー」
「ポイが破けちゃったらどうするんですか?」
「オーゥ、ナイスな質問ちゃんだ。その時はバニーさんが代わりのポイを出してくれるぜぃ。ただし20秒のロスがついてしまうぜベラマッチョ」
キャラが統一しないオッサンだな
「分かりましたー。ありがとうございます!」
「こちらこそ素敵な質問テンキュー。他に質問ある妹ちゃんはいらっしゃるかい?」
手は挙がらない
「オッケー。それじゃ、第四試合そろそろスタートするぜぃ!」
ウォーッ!! っと、盛り上がる会場。凄い熱気だ
「よーし、よし。喜べロリコン共! 今回は特別に妹ちゃん達を近くで見れるぜ!! 水槽前に張った、白線まで出て来いやシスコン野郎が!」
水槽から2メートルぐらいの場所に、白いテープで張られた線。客達は、ぞろぞろと集まって来る
「こ、これは……」
なんて暑苦しい
「俺は2番の水槽に行くぜ!」
「ばーか。元気っ子ちゃんなら、5番の美月ちゃんに決まりだろ!」
いつの間にか派閥が出来ているらしく、客はそれぞれ見たい水槽前へと別れて行った。一番集まってるのは断トツで瑠璃ちゃんって子だが、美月も2、3番目に入るぐらいの人気はある
「どいて、邪魔よ! どいてって、言ってるでしょ!!」
偉そうな声が目の前の集団から聞こえ、そこから人混みを掻き分けて花梨が強引に一番前へと出て来た
「ふー、あつ。バーゲンに比べればたいしたことないけど」
花梨は胸元をパタパタさせた後、俺達を見て
「金魚すくいのアドバイスをしてあげる!」
と、超偉そうに言う
「自信ありげだな。金魚すくい得意なのか?」
「ええ。地元のお祭りでは、祭荒らしの花梨って呼ばれているわ。金魚すくいなら一つのポイで二十匹はいけるもの」
「す、凄いな。飼うの大変だろ?」
「飼わないわよ。金魚屋のおじさんと交渉して、買い取って……って何言わせるのよ!」
「わ、悪い」
「まったく!」
「…………」
なんか最近、花梨にも弱くなったな俺
「とにかく教えてあげるから二人とも良く聞きなさい」
「あ、ああ宜しく」
「宜しくー」
「ええ。先ずは、持ち方よ。ポイは指を三本使って、優しく握る」
「なるほど」
「次にすくい方。金魚すくう瞬間まで水に触れないで、捕りたい金魚の動きを空中で追う。そして獲物が捕り易い場所に来たら素早く水を切る様に金魚をすくう!」
「それでは、金魚すくいスタートだぜぃ!」
「あ! まだ説明の途中なのに!!」
そんな花梨の文句も虚しく、金魚すくいは遂に始まった
「よーし、すくうぞー」
「いい、美月。最初は落ち着いてやるのよ? 最初が一番肝心で――」
「やー!」
花梨の言葉の途中で、美月はポイを持った右手を金魚に向かって素早く振った
「ち、ちょっと! そんなに慌てたら……え?」
美月が持つお椀の中に、金魚が三匹入る
「三匹同時すくい!?」
「お、おおー!」
美月うめー
「これで良いの花梨?」
「え、ええ。ポイのダメージも少ないし、完璧だわ」
「よーし! どんどん行くぞー」
「…………今年のお祭りは美月と一緒に行こ」
それからも美月はポイを破る事なくバンバンと捕って行き、断トツのスピードで七匹目もゲットした
「後三匹!」
「ちょっと美月、足か開いてきてるわよ。しゃがんでる時はちゃんと足を閉じなさい。下着が見えちゃうでしょ?」
「え? 大丈夫だよ」
「何が大丈夫なのよ。実際こうしてアタシがしゃがんで覗いたら……」
そこまで言った後、花梨の表情は凍り付いた
「どうした花梨?」
「み、美月? アンタもしかして下着……」
「うん? もちろん履いてないよ? 浴衣着る時はパンツ履かないのが基本なんだって。ばーちゃんが言ってた」
「なっ!?」
「それより、後二匹! この勝負もらったね!」
そう言って美月は、俺を見上げてえへへと笑う。なんて無邪気な……
「〜〜〜〜っ! アンタは〜!! あ〜も〜、馬鹿、馬鹿美月っ! 棄権よ、棄権!!」
「あ、ああ!」
話を聞いていたのか客達が不自然にしゃがみ始めたし、これ以上続けるのは色々とヤバイだろう
「すみません、俺達棄権します!」
「え~! なんで!? もうすぐで勝てそうだったのに!」
「ごめんな、大人の事情って奴で……。と、とにかく今回は諦めよう。早く着替えてきな」
「…………分かった」
がっくりと肩を落とし、美月は渋々頷いた
「美月が一番だってのはちゃんと俺が知ってるから。頑張ったな美月」
「…………うん!」
って事で
四試合目、棄権!