雪の妹大会 6
「とは言ってもどこに行けば……」
公園は広く、一部は森の様になっているのもあって、どこから犯人を捜せば良いのかさっぱり分からない
「その答えは直ぐに見付かりそうだよ」
風子は目を閉じ、耳に手をあてる
「…………」
俺も同じようにやって耳を澄ましてみると、東へ続く石道の先から怪鳥音が、うっすらと聞こえて来た
「行きたくないな」
絶対、マッスルブラザーズの声だよこれ
「誰かと戦っているのかな。少し怖いね」
そうは言うが、風子の表情はいつもと変わらず、落ち着いたものだ
「……仕方ない、行ってみるか」
「うん」
様子を見に、いやいやながら声がする方へと向かう
それから五分ほど歩いただろうか声は直ぐ側で聞こえるようになり、その内容も分かって来た
「これでも捕まえられませぬか」
「ふあっはっはっは! 咲よ!! その者は中々のてだれ。しかしその者も倒せぬ様では、まだまだおやつにチーズケーキは早いのう」
「ち、チーズケーキ……見ていて下さい兄者!」
なんとも不可思議な会話だが、マッスルブラザーズが何かと戦っている事は理解出来た
「この曲がり道の先に居るみたいだが……。ちょっと外れて森の中に入ってみるか?」
「うん。お任せするよ」
「ああ」
道の脇に入り、森の中を北(多分)へ進む
「……お、あれか」
木々の間から見える先には、噴水がある開けた場所だった。そこでは手錠を持ったマッスル妹と、グリンベレーっ子が向かい合っている
「木に隠れて覗いてみようぜ」
どうやら犯人は居ないみたいだが、今の状況をまとめる為にも様子見だ
「はぁはぁ……んく」
余裕のマッスル妹に対して、グリンベレーっ子の息は荒い。兄貴の方も既にやられたのか見当たらないし、どうやら追い詰められているのはグリンベレーっ子のようだな
「はぁはぁ……も、もうゴリラには付き合ってられない!」
グリンベレーっ子は踵を返し、マッスル妹……咲ちゃんで良いのかな? 咲ちゃんとは逆方向に走り出した
「あ!」
「咲、逃げる兎は獅子の獲物よ! 狩れい!!」
兄の声を受け、咲ちゃんは走る。グリンベレーっ子の倍近い歩幅で、全身のバネをフルに使った走行は、パワフル過ぎる
そのパワフルな走りに、グリンベレーっ子は、あっという間に追い付かれて……
「なに!?」
追い付かれる前に急ブレーキをし、身体を丸めてしゃがみ込んだ!
「あ、危な」
「キェエエ!!」
咲ちゃんが、グリンベレーっ子にぶつかる瞬間、咲ちゃんは高く飛び上がった。そしてグリンベレーっ子の前に着地する。コマネチ10点! って感じだぜ
「……もう逃がしませぬぞ、一之瀬殿」
ハードボイルドって言うか時代劇な雰囲気で、咲ちゃんはグリンベレーっ子に迫る
「…………もう良い。めんどくさい。私の負け。帰る」
グリンベレーっ子は立ち上がり、ふて腐れた顔で自分の手首に持っていた手錠をかけた
「い、一之瀬殿?」
「兄さんは3秒で負けるし、ゴリラは居るし……最悪」
「ゴリラですか! ど、どちらにいらっしゃいますのでしょうか!? 一度お手合わせを……」
「うるさい!」
「ど、どうなされました一之瀬殿」
「別に悔しくないから!」
グリンベレーっ子は捨て台詞を吐き、オロオロする咲ちゃんを無視して体育館の方へ歩いて行った
「…………むぅ」
ついつい見入ってしまったが、これで優勝は俺達かマッスルブラザーズのどちらかになったと言う訳か
マッスルブラザーズに勝てる気しないし、ここは素直に犯人探しだな
「じゃ、見付からない内に行こうぜ風子」
「とても残念だけれど、もう見付かってしまっているみたいだよ」
「え? ……あ、あれ? マッスル兄の方が居ない?」
「僕らの後ろだね」
「え? うわ!?」
後ろを向くと風子の言葉通り、マッスル兄が俺達の直ぐ後ろで腕を組ながら仁王立ちしていた
「咲の奴、強敵を得てまた一つ成長しおったわ」
咲ちゃんの方を見て、マッスル兄はしみじみと呟く
「さて、主らは咲の強敵となりえるかな?」
「無理です!」
「え? きゃ!? お、お兄さん!?」
風子の身体を横抱きし、逃亡。俺の逃げ足は夏紀姉ちゃん直伝だ、木の間をスルスルと抜け走る
「ぬ、ぬぅ! 早い! 咲!! 鼠が森を東に向かって逃げおった、先回りせい!!」
「は、はい!」
「我はきゃつらをこのまま追う! まていコワッパ!!」
「待つかよ!」
そして恒例のトム&ジェリーが始まった!
で……
唐突に!
〜若き日の回想〜
『恭ちゃん。アンタ弱いんだから逃げ足だけは鍛えなさい』
『う、うん……でも僕、足遅いし……』
『逃げ足ってのはね、ただ足が早いから良いって訳じゃないわ。例えば逃げながら助けを呼ぶとか人通りが多い所へ行くとか。後は……相手の気を逸らすのよ』
「あ! 今、レディ〇ガが居た!!」
「まてい、まてい!」
嘘が効かない!?
「ま、松〇健がマツケンサンバを踊りながら、アメリカンドッグを食ってる!」
「まてい、まてい、まてぃい!」
「の、のび太! のび太大量生産!!」
「ヌガァアアア!」
距離は広げられず、逆に縮まるばかり。も、もう駄目か……
「……あ、ツキノワグマだ」
「ガアアア……あ? なんだと!? ど、何処だどこにおる! 是非手合わせを!!」
「さっき、向こうにある信号を渡っていたよ。急いだ方が良いかもね」
「向こうか! 感謝する童女よ!!」
「ふふ。どういたしまして」
マッスル兄は、風子の指差した方へ走り去って行く
「はぁ、ふぅ……。た、助かった。ありがとな風子」
「お疲れ様、お兄さん。ところで……」
「ん?」
「お、下ろしてもらっても良いかな?」
「あ、ああ。ごめん、ごめん」
恥ずかしそうな風子を下ろし、息を整える
「……さて、取り敢えず森から出ようか」
ぼやぼやしてると咲ちゃんが来そうだし
「うん」
「でも、そっから何処行くべ」
この公園、広いからな
「……このゲームの基本は犯人を捕まえる事。なのに開始15分にして、もう二組が消えてしまった。残ったのはあの逞しい二人と僕らだけれど、向こうの二人組は犯人捜しより、戦う事に熱中したみたい。でもこのままじゃ盛り上がらないし、当初の趣旨と違う。だから犯人は捕まり易い所にわざと出て来ると思う。例えばカメラ多く設置してあって、みんなも楽しめる場所とか……かな」
「体育館前か!」
犯人は現場に戻るって奴だな!
「ふふ。行こう、お兄さん」
「ああ!」