雪の妹大会 4
第2試合、ハードボイルド部門。体育館を出た俺達を待っていたのは、血にまみれたナイフを右手に握っている男だった
「ナイフねぇ……ナイフ……ナイフ!?」
過激派!?
「や、やば……に、逃げっ! 逃げるぞ風子!」
風子の手を掴み、慌てて体育館の中へ逃げ込もうとした時、マッスルな女の子が雄叫びを上げて男へ向かっていった
「チェエエエ!!」
女の子は男の間合いに入る一歩前あたりで、高く飛び上がり、男の顔面へ向かって体重を乗せた飛び蹴りを放つ
男は咄嗟に両腕でガードをしたが、後方へ吹っ飛び、ナイフを落として尻餅をつく
「ぎゃっ!」
「貰った!」
女の子は左足を踏み込んで、男の頭を狙い、右のローを
「や、止めて下さい!」
必死な犯人の声に、女の子は蹴りを止める。後数センチで当たる所だ
「わ、私はこの大会のスタッフです!」
「スタッフ……だと?」
訝しげに男を見下ろす女の子。それと同じく、横で舌打ちが聞こえた。見てみると、いつの間に居たのかグリンベレーの子が、左手にコンバットナイフを構え、投げようとしていた
「ってこら!」
「……なに?」
グリンベレーはギロリと俺を見る。結構迫力あるが……
「ナイフなんか持って、危ないだろ!」
俺は子供を叱れる大人なのだ
「べつに」
不機嫌そうに答え、そっぽを向くグリンベレー。ナイフを腰のベルトに挟み、つかつかとマッスルっ子達の方へ歩いて行く
「あ、こ、こら!」
「ご、ごめんなさぁい」
呼び止め様とすると、情けない声で謝られた。グリンベレーの側に居た少年だ。ひょろりとした体格にオカッパ頭は、気の弱さを感じてしまう
「あの子ぉ、ミリタリーが好きでぇえ。あれはぁレプリカでぇすぅ」
突然高くなったり低くなったりと妙な音程で話す少年。常にキョロキョロしていて余り落ち着きが無い
「……そっか。でも模造刀だからって持ち歩くと良く無いと思うぞ。気をつけてな」
まぁ他人がとやかく言っても仕方ない。この辺で説教モードはおしまいだ
「はぁい、すっみませぇん!」
「あ、ああ」
元気な奴……
「……兄さん、早く」
「は、はぁい!」
グリンベレーっ子が呼ぶと、オカッパ少年は慌てて追い掛けて行った
「…………」
「僕達も行こう、お兄さん」
「あ、ああ……」
個性的な兄妹だったな
風子に促され、警戒しつつスタッフ(自称)へ近付く。いざとなれば俺の逃げ足が光るぜ!
「スタッフの者か。すまなかったな」
そんな事を考えていると、マッスルっ子がスタッフ(多分)に手を差し延べて起こす。スタッフ(仮称)は、その手を借りてフラフラしながら立ち上がる
「ふ〜。びっくりしましたよ」
「あっはっは。すまんのう、うちの咲が」
そう声を上げたのは、マッスルっ子(咲?)よりゴツイ、白胴着を着た白髪頭のおっさん。実はさっきからマッスルっ子の側に居て目立っていたのだが、危なそうなので目を逸らしていた
「あ、兄者」
お、お兄さんなのか。随分と歳が離れているんだな……いや、見た目で言えば妹の方の歳も想像つかないけど
「すまないな、青年。咲はこう見えて中々おちゃめな子であってな。はっはっは!」
「や、止めて下さいまし兄者。咲は恥ずかしゅうございます……」
「はっは! ういやつ、ういやつ」
「…………」
「……お兄さん?」
「え? ……ああ、ごめんごめん」
個性が強すぎて、思わず足を止めて見入ってしまった
「しかし……凄いなハードボイルド部門」
てか濃すぎ……
「そう? あんなのは見かけ倒しよ」
風子じゃない声の返答に顔を向けると、最後の一組、目付き鋭い少年、少女達が居た。二人はスカートとズボン、そしてシャツと一般的な格好をしている
「私達なら、一分もあれば二組とも倒せる。もちろん貴方も」
「そ、そうか?」
たかが妹大会で、随分物騒な事を言うちびっ子だな……
「うん。ただ――」
女の子は言葉を止め、視線を俺から風子に移し、
「貴女だけは、分からない」
「僕を買ってくれてありがとう。でも、一つ間違えているよ」
風子は女の子の方を向かず、背中で語る
「お兄さんは、僕よりずっと強い」
「俺!?」
俺は多分、あのマッスル兄妹にも勝てないぞ〜
「……へぇ。なら一番最初に貴女のお兄さんを狙ってあげる」
「また俺!?」
てか何で戦うって話になってんだ?
「ふふ、楽しみにしているよ。では、後で」
「ええ。……後で」
二人は視線を合わせず、歩き出す。俺と少年は、何となく取り残されてしまった
「……すみません、生意気な奴で」
「あ、いや。……かっこいいじゃん、妹さん」
「かっこいい……ですかねぇ」
フゥっとため息をつく少年。苦労してるんだな
「お兄ちゃん、早く!」
「あ、ああ! じ、じゃあ、また後で」
「お、おう。また後で」
良く分からんが、戦いの図式が出来上がってしまったようだ
「……ハァ」
俺は、少年に負けないため息を付き、みんなの所へと走り寄った