第122話:坂の噂話
「貴方が花梨や風子さん達に手を出してるって噂の鬼畜男ね!」
学校帰りの夕暮れ時。いつもと同じく家の近くにある公園を横切ると、突然二人のガキンチョに立ち塞がれた。まるで待伏せでもされていたかの様なタイミングだ
「な、なんだ?」
ま、まさかカツアゲ?
「うん、確かに彼が言うとおりド貧相でド低脳な顔した屍人。でも気をつけてミサ。ド間抜けそうに見えてもこの人が希代の悪党である事には変わりないから」
「そ、そうね千里。屍の癖に私達を見る目がエロいもの」
「初対面で随分失礼なガキンチョ共だな!」
「うるさい屍!!」
「こ、このガキ……」
人を屍呼ばわりするこのガキンチョは、外国人なのか金色の髪と藍色を瞳を持った、やたら気の強そうな奴だ。右腰に手を当て、左手で俺をビシっと指差す態度は、偉そうを通り越して清々しささえ感じる
もう一人は日本人形みたく切り揃えられた短い黒髪と、余り感情を感じさせない大人びた表情が特徴的な子だ。和服が似合いそう
「わわっ! 屍が舐める様に私達を見てる!? 千里、ここは一時撤退よっ!」
「大丈夫、まだ人通りがあるから。……いざとなれば私の右拳が火を噴くし」
シュッシュっと、黒い方はシャドーボクシングを始める。自信ありそうな割にはめちゃくちゃ弱そう
「てか、なんだ? 俺に用事でもあるのか?」
急いでるんだが……
「……ええ、あるわ。花梨達に今後一切近づかないで欲しいの」
「花梨? ……ああ、あいつの友達?」
なんか似てるし
「ち、ち、違う! と、友達なんかじゃ……ないもん! 今の言葉、訂正してよ!!」
「そ、そうか? ごめん」
何故か謝ってしまう
「しかし……何故に花梨に近づくなと?」
別にそんなに会ってもいないけど
「しらばっくれて! 知ってるんだからね、貴方が花梨や風子さん、美月ちゃんに雪ちゃん達と付き合ってるの!」
「………………え?」
「え? じゃないわよ鬼畜!」
「すけべ」
「ロリコン!」
「すけべ」
「おためごかし!」
「すけべ」
「ち、ちょっと待て! 身に覚えがってか、そもそも雪葉は妹だ!!」
「なにを〜、……え? 妹?」
「すけべ」
「ああ、妹だ」
「すけべ」
「え、だって同棲してるって……」
「すけべ」
「そりゃ家族だし当たり前だろって相方が壊れたテープリコーダー見たいになってるぞ」
「SUKEBE」
「発音変わった!?」
「ああ、気にしないで。たまにこうなるから」
「なるのかよ!?」
「にゃんぱらり」
「なんか懐かしいキャラが出て来た!?」
「だから気にしないでって。それより! 雪ちゃんは妹って事で良いわ。でも他の子は!!」
「良いわって……。あのなぁ、誰から聞いたのか分からないけど、そんな下らない嘘を信じるのは花梨達に失礼だぞ」
「で、でも……坂田君が言ってた!」
「あいつか……。花梨達は雪葉の友達であって、直接俺とは関係ないよ。俺は雪葉の兄貴だから、話ぐらいは普通にするけどさ」
ゆっくりと、真剣に諭してやる。俺だけの問題じゃないからな
「……ほんとに?」
「ああ、本当だ。だから学校でもちゃんとそう言ってくれよ?」
「…………」
それにしても最近のガキンチョは、ませてるな
「……いちおう、分かった」
「そりゃ良かった。じゃあ俺、急いでるから、そろそろ帰るよ」
もうテレビが始まっちまう!
「急いでる?」
「ああ、月一回しか放送しない番組が、もうすぐ始まるんだよ。じゃ」
「え、ええ。さような」
「……月一? ま、待って!」
振り返り、急いで帰ろうとした時、黒い方が慌ててと言った感じで俺を呼び止めた
「な、なんだ?」
「ち、千里?」
「月一。……山田巖象の月間将棋っ子クラブ?」
「知っているのか!?」
あの超マニアックな番組を!
「当たり前。あの番組はN〇K最後の良心だし。……うかつだった、先月からチェックしていたのに。もう間に合わない」
「録画は?」
「してるけど、駄目。ライブ感が伝わらない」
「た、確かに……」
このガキンチョ、分かっているな!
「……あなたの家に行く。近いし」
「よし分かった! 行くぞ友よ!!」
「うん、友よ」
「ち、ちょっと! 何、意気投合してるのよ!? 大体この人、まだ完全にシロって訳じゃ」
「……分かってないな」
「ね」
俺と千里って子は一度顔を見合わせ、次にミサってガキンチョを見て
「将棋っ子クラブを見ている人に、悪い人はいない!」
「将棋っ子クラブを見ている人に、悪い人はいない」
と、同時に番組のキャッチフレーズを言った
「…………は?」
「決まった……。じゃあ急いで」
「ああ、もう始まっちまうからな」
「な、なんなの……」
「将棋っ子!」
「クラブー」
「イェーイ」
「イェーイ」
お互いの手を叩き合い、家へ向かう。思わぬ所で同志に出会えたものだ
「なんなのよ〜!!」
今日のマニア
千>>俺>>>>>>>>>>>>>>>>リ
「あれ? リサちゃんに千里ちゃん? どうしたの?」
「こ、こんにちは、お邪魔してます」
「こんにちは。……雪ちゃん、雪ちゃんの兄、なかなか見所があるよ」
「え?」
「でも王手。しかも決まり手」
「ま、参りました……」
詰み
将棋戦闘力早見表
雪葉 10
千里 8
俺 5
リサ 0
「ゆ、雪葉……俺の、俺の敵を~! グハッ」
「お、お兄ちゃん! お兄ちゃん……勝負だよ、千里ちゃん!!」
「え? ……こ、この闘気。まさか雪ちゃんはあの伝説の戦法を受け継いだ最後の!?」
「雪葉の裏ヤグラ……見せてあげる」
「くっ。なら私は地獄のアナグマを!」
そして決戦の火蓋が幕をあげた!!
多分続かない




