第21話:夏の夜長
夏の夜長
〔バッキャロー!〕
〔ウア、な、何しゃがる、タカシー〕
〔ミツヒコ、俺達は、俺達は仲間じゃないか〜〕
〔タカシー!? 俺が間違えていたぜぇ! うぉー〕
〔分かってくれたか! さあ、皆で歌おうぜ。あの太陽に向かってさ〕
〔音程はずすなよ〜、タカスィー〕
〔ミツヒコだって音痴でゴワス〕
〔はっはーさぁ歌おう〕
ラララララー、ラララ
「…………なぁ」
「…………」
「なぁ!!」
「なんだよ、今泣けるとこなんだぞ!」
その言葉の通り、春菜の目が潤んでいる
「つーか、わざわざ俺の部屋で見るなよ!」
深夜10時頃。春菜は突然ゲームをしていた俺の部屋に入って来て、人のベットを占領した
今はそのベットにねっころがって青春映画を見ている
「ぐず……だって……ブルーレイ無い……うぅ、泣ける」
「人の枕に鼻水垂らすな!」
一時間後
「あ〜、良かった!」
「……そうか?」
「最後の試合の前日、タカシがインドへ行ったじゃんか? あれが無ければカレーは出来なかったんだよ」
「……色々言いたい事あるけど、疲れたからいいや。ほれ、どけ」
「……なんか急に眠くなって来た。このまま寝る」
「寝るじゃねーよ! 部屋に帰れ部屋に」
「たまにはベットで寝たいんだよ〜。毎日布団なんだからさ〜」
「和室選んだお前が悪い」
因みに秋姉も和室だったりする
「なら兄貴も一緒に寝ようぜ。それなら平等だろ?」
「何に対して平等なのか全く分からねーが、お前、寝相悪いから嫌なんだよ」
一緒に寝て、顔面を蹴られた記憶がある
「昔だろ、昔。今は無呼吸だから」
「……本当に無呼吸なら耳鼻科行け」
「とにかく、私はもう動かないぞ」
そう言って春菜は掛け布団を頭迄すっぽり被る
「……仕方ねーな」
俺は電気を消す
「じゃ暖かくして寝ろよ」
「おやすみ〜」
俺は春菜を残してリビングへと向かった
リビングでは母ちゃんがソファーに座り、梅昆布茶を飲みながらドラマを見ていた
「母ちゃん、俺も昆布茶貰っていい?」
「良いわよ〜。今、容れるわ〜」
「いいよ、ドラマ見てな」
〔犯人はこの中にいるゼニガタアザラシ〕
動物刑事、オラがアニマル
動物を使い、犯人を追い詰めてゆくアニマル刑事の活躍を描いた作品だ
〔まちナウマン象! お前は既に袋のね、ね、ね……ネズミ小僧!!〕
「それ、人」
相変わらず、激しくつまらなそうだ。春菜は母ちゃんに似たのだろうか?
「あら〜ネズミ小僧って人なの〜? ……ネズミ男の亜種かしら」
母ちゃんは一人で悩んでいる
「………前、遠山の金さんと女ネズミ小僧が戦ってたろ?」
「…………あ〜」
ポンと手を鳴らす母ちゃん
納得してくれただろうか
30分後
ドラマは終わり、母ちゃんは先に寝るわねとリビングを出て行った
広いリビングに一人残り、少しの寂しさと、開放感を暫し味わう
「………何時だ?」
ふと時計を見ると、もうすぐ深夜12時になる頃だ
そろそろ寝るかな
俺は、廊下の物入れにある布団を取って来ようと、リビングを出た
「布団、布団っと……」
ガチャリ
布団を取り出していると、玄関のドアが開く
「うぃ〜今帰ったぞ〜」
そこに現れたのはすし詰めを片手に帰って来た夏紀姉ちゃん
し、しまった! いつもより少し早く帰ってきやがった!
「ん〜………おっ? そこにおわすは愛する弟ちゃんではござらぬか〜、あは、あはははは!!」
ヤバい! LEVEL7だ!!
以前、夏紀姉ちゃんの飲み友達が、泣きながら送って来た事を思い出す
「やあ、お帰り姉様。それでは僕はこれで」
俺は早足でリビングへ向かう
「あいや、またれい!」
夏紀姉ちゃんは素早くブーツを脱ぎ、スタン・ハンセン並のラリアットをして来た!
「ぬげっ!?」
俺は仰向けにぶっ倒れる
「ぬげ? 脱げってか! ……ふふ、大和撫子足るもの殿方に言われ脱がない訳にゃあ、参らぬなぁ」
そう言って夏紀姉ちゃんは服をぱっぱと脱ぎはじめ、倒れている俺の馬乗りになった
「実の姉に向かって脱げだなんて変態にも程があるわねぇ? ほ〜ら、お望み通り後はブラとパンツだけ。脱がせられるものなら脱がしてみなさい?」
夏紀姉ちゃんは蛇の様に舌なめずりをしている
こ、殺される
「か、母ちゃん! 秋姉!助けて〜!!」
「二人とも一度寝たら起きてこな…………」
夏紀姉ちゃんの額から汗が流れる
夏紀姉ちゃんの背後には、犬柄の可愛いパジャマを着た鬼が一匹いた
「………………」
「あ、お、お、起こしちゃった?」
「…………起きてた」
「お、お姉ちゃんはそろそろ眠ろうかなぁ」
「……………行こう?」
「ど、どこへ!?」
「…………さあ?」
夏紀姉ちゃんは悲鳴と共に何処へと引きずられて行った