第119話:雪の残念
『さて、何の本を読む?』
『今日は、このご本を雪葉に読んで下さい』
『ん、なになに……ネズミ小僧、危機一髪……渋いね、雪葉は』
『はい!』
『よし、じゃ読むよ。えっと、むかしむかし、江戸の町に、一人の義賊がいて……』
チュン、チュン。チュンチュン
「……ん? ん〜ふぁ〜あ」
夢か
「…………ふふ」
懐かしいな
あの頃は、雪葉もまだ幼稚園で――
なんて回想を入れようとしたら、コンコンとドアをノックする音が聞こえた
「開いてるよ」
「うん。入るね、お兄ちゃん」
「雪葉?」
「おはよ、お兄ちゃん」
雪葉は妙に照れ臭さそうな表情で、俺に朝の挨拶をした
「おはよう、雪葉」
「うん。…………」
「ん?」
なんかモジモジしてるな
「どーした、雪葉?」
ベッドから起き上がり、雪葉に近づく
「あ、うん……えへへ」
「ん〜、なんだよ〜」
夢の影響か、なんだか昔を思い出し、雪葉を抱き上げた
「きゃ! も〜下ろしてよ〜」
子供扱いをされたからか、雪葉はしかめっつらをするが、口許は緩んでいて、声も甘え口調だ
「どうしたのか言うまで下ろさないぜ〜」
「……あ、あのね、子供の頃の夢を見たの」
「夢?」
今も子供だぞってツッコミは置いといて、雪葉を下ろしてやる
「……うん。お兄ちゃんが、ベッドで絵本を読んでくれた夢」
「え! ま、マジか? 俺も今日そんな夢を見たんだよ」
「え!? ほ、ほんと?」
「ああ、本当。もしかしたら、読んだ本も同じかも知れないな」
「う、うん。じ、じゃあ一緒に言おう?」
「ああ。……じゃ、いっせーのせで言うぞ」
「う、うん。……い、いっせーの」
せ! のタイミングで、俺と雪葉の声が重なる
「ネズミ小僧、危機一髪!」
「おやゆび姫!」
「………………」
「………………」
なんか色々と残念な兄妹だった
今日のため息
俺≦雪
痛恨