風の音 3
友達らしき人と店を出て行く綾さんを何となく見送ってると、ちょうど入風子も戻って来た
通路が狭いので綾さんは風子に道を先に譲り、風子とすれ違った後、ちょっと振り替えって俺に手を振った。俺も軽く手を振り返すと、自分に振られたと思ったのか風子まで俺に手を振る。だから俺は、振るか振らないか迷った後、今度は風子に向けて振ろうと思った。さて、俺が実際に手を振った回数は何回でしょうか?
「ごめんね、お兄さん」
「ああ。用事は済んだのか?」
答えは1回。いやまぁ、どうでも良いんだけど
「うん。父さんに少し遅れるって」
「え? 用事が有ったのか? ……無理に誘ったな。ごめん」
「ううん。僕がお兄さんと一緒に居たかっただけだから」
風子は席に座り、帽子を外す。帽子の中で束ねていたらしい長い髪が、さらさらと揺れながらこぼれ落ちた
「……相変わらず綺麗な髪してるよな。帽子で隠しているのが勿体ない気がする」
「ありがとう。本当は切りたいのだけど、こうして褒められるのなら我慢したかいがあるよ」
「そうなのか?」
「うん。父さんから絵のモデルにしたいから切らないでくれと頼まれているんだ。そのかわり、その絵が売れたら全額僕の口座に貯金してくれてるみたいだけど」
「ふ〜ん。風子も大変なんだな」
娘の髪型ぐらい好きにさせてやれってんだ
「……変わってるね、お兄さん」
「……良く言われる」
まことに遺憾だが
「この話をすると、殆どの人は良いお父さんだねと言うんだ。うん、僕も良いお父さんだと思うけど……」
「……風子?」
「……ふふ。なんでも無いよ」
そう言って風子は、寂しそうに微笑む
「……あ〜、自分の絵のテーマに風子を選ぶって事は、それだけ風子が大切で掛け替えの無い娘って事なんだろうな、きっと。じゃなかったらわざわざ娘の絵なんて書かないで、自分の好きなもん書いてるって」
俺がそう言うと、風子は驚いた表情で俺を見つめ
「……まいったな」
と、苦笑いをした
「僕は、よく大人びていると言われるけど、お兄さんと話していると自分が子供だと言う事を強く実感してしまうね」
「そ、そうか?」
明らかに俺の方がガキっぽいと思うが……
「うん。素敵な大人だよ、お兄さん」
そう言い、再び笑顔を見せる風子。今度は優しい微笑みだった
「……やっぱ風子の方が大人だと思うぜ?」
「ふふ」
しかし今日は2度も素敵と言われてしまったな。良いことあるだろうか?
今日の幸運
風>綾>>>>>>>>>>>俺
「じゃ、そろそろ引き上げようか」
「うん……っ!? …………お、お兄さん?」
「なんだ?」
「トイレに行って、ズボンの前を見て来る事をお勧めするよ」
「ん? …………げ!? チャック全開かよ!」
「…………ばか」
サザエ