風の音 2
トレイを持って店の奥へと入る。店内は結構混んでいて、中々風子の姿が見付からない
「風子は……」
「こっちだよ、お兄さん」
「お、いたいた」
喫煙コーナーの手前にある、店内右端奥の禁煙コーナー。そこで手を振る風子を発見し、そっちへ向かう
「混んでるな」
風子の向かいに座り、軽く店内を見回す。殆ど満席だ
「学校帰りの人達が多いみたいだね。僕の学校の子達もいるよ」
「そっか。ほら、コーヒー。一応砂糖とミルク2個ずつ貰って来たぞ」
「ありがとうお兄さん。じゃあミルクを2つ頂くね」
「お、渋いな。砂糖は入れないのか?」
「甘いのが苦手なんだ。でも苦いのが好きって訳でもない。だから、ミルク2つが好きな味」
そう言い風子は両手でカップを持ち、ゆっくりとコーヒーを飲む
「……うん。美味しい」
「なるほどな、覚えておくよ。ポテトも適当に摘んでくれや」
「ありがとう。お兄さんは、どうコーヒーを飲むんだい?」
「俺は砂糖1つ、ミルク1つだな。甘すぎず、苦すぎず。程々が一番だ」
「ふふ。お兄さんらしい」
「ふ、かもな」
お互い微笑み合い、泥水の様に濁った黒いコーヒーを飲む……マズっ!?
「砂糖とミルクは1個ずつ。……うん、僕も覚えておく」
「……ああ」
もう一本砂糖を入れたいが、我慢しておこう
「しかしコーヒーは奥が深い飲み物だな。無限の可能性がある」
「コーヒーはよく人生に例えられる。そして作り方はその人の生き様と言うね。でも肝心なのは」
「美味いかマズイか。そしてこのコーヒーはマズイ、そういう事さ」
「でも僕らはそれを美味しいと飲んでいる」
「それだけ俺達が今の腐った世界に染まっているって事さ。だが世界はそれで上手くいっている。皮肉なものだぜ」
何を言ってるのか自分でも良く分からんが、とにかくハードボイルドだ。タバコがあったら吸いたい所だが吸わ無いんで、取り敢えずポテトをくわえてみた
「あ、そうだ」
「ん?」
「ごめん、お兄さん。ちょっと電話して来ても良いかな?」
「ああ、行ってらっしゃい」
「うん」
風子は立ち上がり、急ぎ足で店を出て行った
「………………」
やっぱ一人だと何か気まずいな。だから風子を誘った訳だが……
「今日はショタ萌えですか、佐藤君?」
「そう、ショタ最高ーって、いつの間に!?」
声のする方、すなわち左横を見る。半透明な板ガラスの仕切りがある為、顔は分からないが、この声は間違いなく綾さんだろう
「いつ声をかけようか悩んじゃいました」
「……もしかしてずっと居ました?」
「はい。30分前から友達と。眼鏡は気付いてないみたいでしたけど」
「俺も全然気付きませんでしたよ、ってか顔見ないで話すと落ち着きませんね」
「そうですか? テレクラか何かだと思えばドキドキしませんか?」
「……相変わらずアホですねぇ」
「佐藤君こそ相変わらず容赦無いですね……。惚れてまうやろー」
「…………」
「覚えたてです。後、どんだけー」
「……やっぱ母ちゃんと話合いそうですね」
微妙にネタが古いんだよなぁ
「それにしても今日は静かでしたね。本当に気付きませんでした」
「基本的に静かですよ、私」
「そうなんですか?」
「佐藤君は知らないと思いますが、一応私、鞭の女王様と呼ばれて――」
「氷の女王でしょ。適当あだ名を教えないで下さいね」
「ちぇ……。知っててくれたんですね。綾音、嬉しい!」
「舌打ち聞こえてましたよ~」
俺としては鞭の女王ってあだ名の方がしっくりくるけどな
「……う~ん。やっぱり佐藤君は手ごわいです。アプローチの仕方を変えた方が良いかも」
「アプローチされてた事を今、知りました」
「こうなったらバターを使って……」
「良く分からないけど止めとけー」
「あはは。やっぱり佐藤君は可愛くて素敵です。また遊んで下さいね」
「……むぅ」
からかわれてるぜ
「では友達が戻って来ましたので失礼します。ついでに眼鏡もからかってこなきゃ」
「……行ってらっしゃい」
頑張れ、スペシャルアドバイザー