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秋の挑戦 3

「……サラダ」


前菜であるサラダと、主食であるパンがテーブルに並べられ、水曜日の夕食が始まろうとしている


『またまた助かっちゃう〜』


母ちゃんは、のんきな声をあげ、雪葉を連れて服を買いにデパートへと行った。夕食も食べてくるらしい


『お兄ちゃん……』


『……雪葉』


『…………また、会えるよね?』


『ふ、当たり前だろ?』


『うん……。うん!』


そんな感動的な別れのシーンを回想しつつ、いよいよ立食の時間


審査員は三人。先ずは鋼の胃袋を持つ女、春菜!


「……はぁ」


続いてドSな酒飲み、夏紀!


「……なんでアタシまで」


そして俺!


「そんなに心配するなって二人とも。俺も手伝ったけど、結構良く出来たから」


「…………」


「…………」


疑うような目で二人は俺を見る。温度が感じられない屍の目だ


「……お待たせ」


そして、メインである肉料理がキッチンから現れた


「…………あれ?」


視界がぼやける


コト。軽い音を立てて、テーブルに置かれる皿


見下ろすと


「………………」


涙が止まらない


両隣を見てみると


「…………」


「…………」


声も出さず泣いていた


「……飲み物。麦茶で良い? 姉さんはビール?」


「そ、そうね。……ビールが良いわ」


「ん」


早く食べて欲しいのだろう。いそいそとキッチンへ戻って行く秋姉


「……染みるわ」


「……染みるね」


「目が痛て~よ、兄貴~」


残された俺達は、涙を拭きながら料理を改めて見る。このメインデッシュは目に染みるのだ


「……この、上にかかった生臭いソースは何?」


「……イカスミ風バルサミコ酢和えケチャップ仕立てのホワイトソース」


「そう……」


姉ちゃんは納得した顔をし、ステーキにナイフを入れる


「ミディアムレア……お肉は柔らかいし、上手く焼けているわ」


「だろ? 今回特殊なのはソースだけだ」


本来ニ人前だった肉は、三人分に切り分けられている為、少し小さい。しかし、その分、肉に対してソースの量が多い


「…………恭介」


「……なにさ」


「アタシが倒れたら、寝不足で調子が悪そうだったとアキに言いなさい」


「ね、姉ちゃん」


ま、まさか率先して試食を……


「……たまには姉らしい事をしてあげないとね」


そう言い姉ちゃんは、うっすらと笑いました。それはまるで仏の様に穏やかな笑みでした


「……行ってらっしゃい姉ちゃん。ご無事をお祈りします!」


「な、夏姉……がんばって!」


「ふふ。姉って、因果な生き物よね……」


敬礼する俺らを一瞥し、姉ちゃんはフォークを使って肉を口に入れる


「………………」


「……姉ちゃん?」


動きが止まってしまった


「……ゆでたまご好きやで~」


「ね、姉ちゃん?」


「いや、こりゃ洒落にならんわ、ほんま。訳分からんって」


姉ちゃんが何故か突然、板東 〇二に変わってしまった!


「……と言うか本当に訳分からない。自然界に無い味じよ、これ」


あ、戻った


「野菜やパンと一緒に食べればどう?」


「……食べてみなさい」


「…………春菜君。先程から君のお腹が鳴っている様ですが?」


「あ、兄貴……私の事、嫌いか?」


「好きだよ。だから早く食べなさい」


「鬼っ!」


涙目で俺を睨み、覚悟を決めたのか春菜はフォークを手にする


「よし、いけ!」


「うう……食べる!!」


パクっと一口、春菜さん


「…………あれ?」


目をパチクリ、春菜さん


「だ、大丈夫か春菜?」


「結構、大丈夫だぞ」


春菜は頷き、もう一口食べる


「……うん。超マズイけど大丈夫だ」


あらハッキリ言う子だこと


「……そうよね。味はともかく頭痛も吐き気も無いし」


「……よし、俺も!」


覚悟を決めて食ってみる


「…………うん。まぁ、確かに」


普通にマズイだけだ


「これくらいなら大丈夫だね」


口の中に膨らむのは肉の旨味、ガーリックの香ばしさ。そしてミャンゴニキな味……ミャンゴニキってなんだ?


「なんて言うか……ミャンゴニキな味よね、これって」


「そうだな……ミャンゴニキな味だよな、兄貴」


姉ちゃんや春菜も頷きながら、不可思議な言葉を言っている


「……てか、ミャンゴニキってなにさ」


「……さぁ?」


「なんか頭に浮かぶんだよな……ミャンゴニキ」


三人で悩んでいると、キッチンとリビングを繋ぐドアがゆっくりと開く


「……待たせちゃって、ごめんね。ビールが冷えてなくて……あれ?」


「ごめん、秋姉。もういただいてるよ」


「腹減って、待てなかった! このカボチャとかうめ~!!」


「やるわね、アキ。さすがアタシの妹よ」


秋姉の手から食べれる物が生まれた。その偉業と喜びは俺達を笑顔にし、食を進ませる


「あ…………うれしい」


そして秋姉の笑顔! もうこれ以上望む物なんてない


「私、ビール買ってくるね」


「あ、もういいわ…………よ」


よほど嬉しかったのか、秋姉は割烹着を着たままキッチンを飛び出して行ってしまった


「…………あんなに喜じゃって。なんだか騙してるみたいで、悪いわ」


「う〜ん。そんな事ないんじゃない? 秋姉は勘が良いし、俺達が本当に喜んでいたのは分かると思う」


それにこの一歩は偉大なる一歩


約四年。ここまで来るのに四年も掛かってしまったが、初めて秋姉は、わりと食べれる物を作ってくれたのだ


「俺はこれからも秋姉の料理を見守り、食べ続ける!」


目が死んだままでも構わない。俺の輝きは、秋姉だ!!




今日の決意


俺>>>>>>>秋>>>>春≧夏


「……それにしても、相変わらずアキに弱いわねアンタ」


「姉ちゃんの料理とかだったら、絶対食わないけどね」


「あぁん!?」


「あ、ご、ごめ……ぎゃ〜!!」


「…………バカだよなぁ兄貴も」


ツーリング


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