第113話:秋の挑戦
「兄貴はフランス料理とか作らないのか?」
火曜日の夜。テーブルで食後の紅茶を楽しんでいると、向かいで一緒に飲んでいた春菜が、そんな事を聞いてきた
「フランス料理? あんまり興味無いな」
難しそうだし
「ふ〜ん。……作る気ない?」
「フランス料理ったって色々あるけど……何か気になってる料理があるのか?」
「なんか肉使う奴。肉焼いて、ホワイトソースがどうのこうのって言ってたぞ」
ホワイトソースか……
「今度作ってみても良いけど、作るなら材料費はお前持ちだからな」
「え〜、ただで作ってくれないのかよ〜」
「お前ねぇ」
コイツには一度、等価交換と言うものを教える必要があるようだ
「とにかく、ただじゃ作らないぞ。クイズに勝って母ちゃんにでも頼めよ」
「ちぇ。……秋姉?」
「え?」
春菜の視線を追い、振り返ると、秋姉がエプロンを外しながらこっちを見ていた
「洗い物ご苦労様、秋姉」
「ん。…………フランス料理」
ビクっ! 確認するように言った姉の一言で、春菜の身体が跳ねる
「……食べたい?」
「や、やっぱいいや! フ、フランス料理とか良く分かんねーし!!」
「……がんばる」
「ええ!? で、でもほら、む、難しいんだろ! た、大変らしいし、なっ兄貴!!」
「そ、そ、そうだよ、難しいよ! 大変だし、お金掛かるし」
必死で断ろうとしている俺達を見て秋姉は微笑み
「……まかせて」
「よ、良かったな春菜! 秋姉に作ってもらえるぞ〜」
絶句している春菜に、わざと明るく言い、俺は立ち上がる
「じゃあ、僕はこの辺で失礼しますね」
お前を見捨てる兄ちゃんを許しておくれ……
「あ、兄貴も食べたがってたよな、さっき!」
ブルータス!?
「お、お前っ! あ、いや……ふふふ」
春菜に文句を言おうと思ったが、秋姉の前でそれは出来ない。なので、上手く断ろう
「俺は良いよ。材料費だって掛かるんだ、お前だけ秋姉に食べさせてもらいなさい」
なんて、良い兄貴を演じつつリビングを脱出
「恭介の分も作るよ?」
出来なかった!
「で、でも二人分だと大変だし! それにもうすぐインターハイが……」
「……どんとこい」
胸をトンっと叩き、力強く頷く姉を見て、私は逃れられない運命があると言う事を知りました