家の豆知識 2
「キッチン、それはキッチリキッチン〜」
新曲を作りながら戸棚を物色していると、見覚えがある真っ黒い箱が下段に収納されていた
「これは……」
南国名物、黒い恋人。チョコレートクッキーの中に黒蜜を挟んだ、甘い甘いお菓子だ。雪葉が好きなんだよな、これ
初めて食べたのは、確か四年前――
〜若かりし頃の回想〜
『うわぁ、このクッキー美味しい! 美味しいです、お兄ちゃん!!』
四年前の夏。黒い恋人を初めて食べた雪葉は、よほど美味しかったのか少し興奮していた
『ああ、凄く美味しいな雪葉。ほら、良かったらお兄ちゃんの分もお食べ』
嬉しそうにする雪葉をもっと喜ばしてやろうと思い、何気なく言った俺の言葉に雪葉は少し迷った顔をし
『雪葉はもう満足です。お兄ちゃん、雪葉の残りの分、食べて下さい!』
と、ニッコリ笑顔で言って、俺へクッキーを差し出した
『い、いや雪葉が食べなよ。兄ちゃん甘いの少し苦手だから』
『……ほんとですか?』
『本当ですよ』
『じゃあ……いただきます!』
『うんうん』
「……うむ〜」
今思えば、雪葉は昔から俺の事を気遣い、立ててくれていたな。昔は常に敬語だったし……今も真剣な時や、テンパったりすると敬語になってしまう様だけど
「お兄ちゃん?」
なんて事を考えてると、俺に声が掛かった
「ん? ああ、雪葉。何か取りに来たのか?」
「うん。喉が渇いちゃったから、麦茶を取りに来たの」
雪葉は、とことこと冷蔵庫の前へ行き、ドアを開いて麦茶を取り出す
「そっか。ほら、コップ」
「ありがとう、お兄ちゃん」
笑顔の雪葉が抱える麦茶入りポット。夏のコマーシャルは、これで決まりかもしれん
「どうしたの、お兄ちゃん?」
「いや、なんでも。それより夏紀姉ちゃんが、クッキーくれたぞ。一緒に食べよう」
「あ! 黒い恋人!? うん!」
今も昔も可愛い雪葉。この子もいずれ恋をし、俺から離れて行くだろう
でも、俺にとってお前はいつまでも大切な妹だ。お前に何かあったら飛んで助けに行くからな
俺の側に寄る雪葉の頭を撫でつつ、なんで俺が娘を嫁にやる感情に包まれなきゃならないのか、疑問に思いながらリビングへと戻る事にした
今日のおやつ量
春>>>>俺≧雪>>秋
つづきあり