第111話:俺の孤独
「美少女と仲良くなるにはどうしたら良い?」
月曜日の朝。教室へ入り席に座ると、クラスメートのSが俺に近付き、いきなり聞いて来た
「セーブを小まめにやって、好感度上がる選択肢でも選べば?」
「三次元の話! 触れる女!!」
「俺に聞くなよ」
小学生の頃、3年連続で良いお友達でいたい人1位を獲得した俺に、何を期待しているんだこいつ
「この間駅前で見たぜ。すげぇ綺麗な人と仲よさ気に歩いてたのを」
「…………」
記憶にございません
「見間違いだろ?」
「見間違うかって。女の方はサングラスかけてたけど、超スタイル良かったし、目立つし」
「……ああ、あの人ね」
綾さんの事かって、結局目立ってたんかい!
「佐藤の姉ちゃんは秋さんと夏紀様だし、なんか美女が寄って来るコツを知ってんだろ?」
何で夏紀姉ちゃんには様付け?
「……あのなぁ、二人は家族なんだからコツも何も無いだろ。サングラスの人も、仕事場の知り合いで」
「じゃあ、お前! 鳴神の生徒会長はどうなるんだよ!!」
「うぉう!? な、なんだよいきなり」
俺らの話を聞いていたのか、突然声を荒げて会話に参加する後ろの席のB君。目が血走っている
「なんだ鳴神って!」
「鳴神様がどうしたのよ!?」
「な、鳴神の生徒会長って……ま、まさかあの、き、菊水……」
鳴神と言う単語で集まって来るクラスメート達。つか、どんだけ暇なんだこいつら
「私、見たんです。二週間前……」
お前は稲川 〇二か、都市伝説か、と突っ込みたくなる雰囲気と口癖で語り出すB。そのBの言葉を、一字一句逃さんと耳を澄ますクラスメート達
「……平和だねぇ」
天下太平事もなし。今日もお江戸は日本晴れってか
たいして面白そうな話でも無いし、俺は頬杖をついて、ぼけーっと空を眺める
しかし、有名なんだな燕は
『君に見つめられると何だか恥ずかしくなる。でも……幸せだよ、恭介』
まぁ、なんだかんだ言っても可愛いし……
『だ、だからって、そんなに見つめるな~』
……ちょっと変な奴だけどな
「も、元彼ぇえ!?」
「うわぁ!? な、なんだ!?」
突然起きたクラスの怒声にビックリしBの方を見ると、あら素敵。殺意に芽生えてそうなクラスメート達の視線
「ほ、本当に、菊水様があの死人を元彼と?」
「ああ……信じられない気持ちは良く分かる。俺も自分の耳と記憶を信じるまで、二週間も掛かった」
「…………なぁ、俺、今泣いてるか?」
「秋さん、夏紀様、サングラスの君、春菜さんに雪葉ちゃん……」
クラスメート達は怨みの篭った声で、ぶつぶつと呟いている。……怖い
「……今日、五寸釘買って帰る」
大工さんですか?
「俺は藁人形」
「じゃ私は金属バット」
「俺は出刃包丁」
「って段々怖くなってるな!? 言っとくけど、俺もう燕にフラれてるから!」
命の危険を感じ、そう叫ぶと
「だよな~」
あっさり信じてくれた!
「秋さんの弟だって事すら殺したいのに、菊水さんまで彼女だったら殺してるよ~」
「にこやかな顔で物騒な事を言うなよ!」
な、なんだこの呪怨は。まさかこんなにもクラスメート達から恨まれていたとは……
「……良いさ、別に。どうせ男は孤独な旅人さ」
家に帰れば秋姉が居る。ならそれでいいやん?
「……でも」
ショックを受け一人で引きこもっていると、A子さんがぽつりと呟いた
「佐藤君なら分かる気がする」
おっ!
「……確かにな。他の奴が菊水さんの彼氏だって言っても信じられねーけど、佐藤ならもしかしてって思っちまったわ」
おお!
もしかして俺って、モテる隠れ要素なんかがあったりするのだろうか
「なんせ」
「…………なんせ?」
何だろ? 良く見るとハンサムボーイだとか? 実は目が輝いてるとか!
ワクワクしながら耳を澄ませる。すると
秋さんの弟だからな!
秋さんの弟だからよ!
なんて一糸乱れぬクラスメート達の声が、教室内で響き渡りました。終わり
今日の凹み具合
俺>>>>>S>>B
「てゆーか、結局美少女と仲良くなる方法は?」
「……お前も美人で素敵な姉ちゃんを持てば良いだろ」
「どうやって!?」
「知るか!」
妻夫木聡