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一昨年のクリスマス

「さ、最近世間がやけに賑やかだが、何かあるのだろうか?」


十二月二十日。燕と一緒にマックで昼飯を食べていると、燕は棒読みで俺に聞いてきた


「ん? 何って……何かあったかな?」


天皇様の誕生日?


「う、うむ。私も良く知らないのだが、何でも異教の祭がどうとか……」


「異教?」


なんだその怪しげな単語は


「う、うむ。なんでも赤い服を着たご老体が、私財を投げ売って子供達にプレゼントを配るとかなんとか……」


燕は俺の様子を窺う様に言う


「…………もしかしてクリスマスの事か?」


「そ、そうだ。確かそんな名前の祭だった」


うむうむ、とわざとらしく頷く燕。一体何が言いたいのだろうか


「……と、時に君はあれかね? 異教の祭等には興味無いあれかね?」


「い、いや別にそんな事は無いけど。一応家族でパーティーするし」


「そ、そうか。……うん、それは素晴らしい事だ。仲の良い家族でうらやましく思うよ」


燕は少しだけ残念そうたが、それでも微笑みながらそう言った


「だから25日は無理だけど、24日、デートでもしないか?」


「なぁ!? …………」


燕は勢い良く椅子から立ち上がった後、再び静かに座り直す


「つ、燕?」


「……ごめんなさい、取り乱しました」


「そ、そうか」


びっくりした~


「で、デート……宜しくお願いします」


「あ、ああ。こ、こちらこそ」


急にしおらしくなった燕に戸惑いつつ、なんだかお見合いみたいな雰囲気で、俺と燕は日が落ちるまで24日の予定を話し合った



んでもって24日


待ち合わせは午後四時だが、なんだかんだで緊張していた俺は、一時間も前に待ち合わせ場所に着いてしまう


「……ふぅ」


早く来すぎたな……って!


「なんで着物やねん!」


銀糸のラメが入った黒と赤の生地。半袖と帯は白で、クリスマスらしい雪ダルマやツリーの柄がちりばめられている


そんな着物を見事に着こなす彼女を、通る人通る人がちらちらと見て、感嘆の声を上げてゆく


その彼女は、傍目からも緊張した様子で、時計を何度も確認している


……ああ、確かに良く似合っているよ。こうして見ると凄く綺麗だとも思う。しかしアレだ。俺はどうすれば良いんだ? ジーパンにセーターにダッフルコートだぞ? 着物と合ってないってゆーねん


「…………はぁ」


今更引き返す訳にもいかないし……仕方ない


俺は渋々と燕の方へ歩いて行く


「燕〜」


「あ、恭介……は、早いではないか」


「燕こそ。てか何故に着物を?」


「う、うむ。学校の友人なのだが、その友人がクリスマスの……そ、そので、デートと言えば良いのかな、うむうむ。と、とにかくそれは特別だから一番自信がある服にしなさいと……似合わないだろうか?」


燕は急に弱気な表情になり、上目使いで俺を見ながら恐る恐る尋ねた


……こういう所、狡いよな


「良く似合ってるよ燕」


「……ありがとう、恭介」


燕は恥ずかしそうに、でも本当に嬉しそうに微笑んでくれた



そんなこんなで、デート開始


「じゃ、先ずは映画に行こうぜ」


映画→夕食→イルミネーション見物→燕んちの前で解散の王道コースだ


「う、うむ」


映画館へ向かい歩き出す俺の後を、三歩下がって燕が着いてくる


「…………」


「…………」


「…………よ、横に並ぼうぜ!」


なんか寂しいじゃんか!


「しかし、殿方と並んで歩む訳には……」


「え!? な、なんて奥ゆかしい……」


言われてみれば、燕はいつも俺の一歩後ろを歩いてたな


「だ、だからってそんなに離れるなよ。せっかく一緒に歩いてるんだから、やっぱり顔を見て話したい」


このままでは首が疲れてしまう


「うえ!? …………」


奇妙な声を上げて数十秒沈黙した後、燕は一歩前に出た


「もう一歩」


「ま、まだか?」


燕はもう一歩前に出て、いつもの定位置へと付く


「更にもう一歩!」


「こ、此処では駄目だろうか? これ以上は心の準備がまだ出来ていないんだ……」


艶っぽい声で呟く燕


「って……あのなぁ」


「だ、だって……」


しょんぼりとしてしまった


「ぬぅ」


なんだか虐めてるみたいだな


「……分かったよ、そこで良い。ちゃんと顔も見れるからな」


「う……うむむ」


唸りながら、燕は髪を直す。我が恋人ながら変な奴だ


微妙に話し難い雰囲気の中、映画館に到着。当初は【ブッチャー殺人事件】を見る予定だったのだが、早く来すぎてしまった為、まだ上映中だ


「どうする? 他の見るか?」


他のはホラーで【怪奇! 河童de☆川流れ】と、【パチンコ放浪記】がある


「…………」


「…………凄くつまらなそうだな」


「う、うむ……河童には少し興味あるが……あちらはどうだろうか?」


「ん? えっと……」


燕が指差す看板を見ると


スーパーエロサスペンス【コニャック夫人】


「…………燕」


「え? あっ!? ち、ちがうぞ! 見たくなんてないのだぞ!?」


俺の左腕を両手で軽く抱き、燕は必死に弁明する


「あ、ああ、分かってるって。……あ~取り敢えず河童見るか?」


「あ…………こ、こほん。失礼、取り乱した。君がそれで良いのなら、是非」


「よし、行くべ」


「うむ」


冷静さを取り戻し、いつもの燕に……


「……つ、燕。そっちの入口はコニャック夫人の方だぞ」


「わぁ!?」


戻って無かったな……




「お待たせ燕。はい、コーラとポップコーン」


買って来たポップコーンとコーラを燕に差し出す


「あ、ありがとう」


映画館に来た事が無いらしい燕は、珍しくおどおどした様子でコップを受け取った。どうやら不安だったらしい


先に席を取っておいてもらっていたのだが、この客数なら一緒に買いに行った方が良かったかも知れないな


「……ん?」


室内が段々と暗くなって行き、上映開始のベルが鳴った


「そろそろ始まるぞ」


「う、うむ」


ごくり。燕の喉が鳴る


「そんなに緊張しなくても大丈夫だって」


「と、とは言われても」バババーン!


びくっ! 


でかい効果音に燕の身体はビクつき、石化したかの様に固まってしまった


「つ、燕?」


「だ、大丈夫だ。何も問題無い」


ギギギと音が鳴りそうなぐらい不自然に正面を向き、燕は画面に集中し始める


……大丈夫そうだな。俺も集中しよう



一時間後


クスン、クスン


映画が佳境に入った頃、俺の隣から妙な音が聞こえて来た


「うん?」


声の方向、即ち燕の方を見てみると、燕はハンカチで目元を拭いながら真剣な表情でスクリーンを見ている


「…………」


場面は、主人公が生き別れになっていた親に会う感動シーンなのだが、正直、泣ける程では無い


「ぐす…………? ど、どうしたのだ恭介?」


視線に気付いた燕は、急いで目を擦り、俺の方へ向く


「……いや、なんでもない。それより手、繋いで良いか?」


「にゃ!?」


「にゃ?」


猫?


「に、にゃに言ってるのなのだ!?」


「お、落ち着けよ、何かバカボンになってるぞ。それに他のお客さんの迷惑に……」


ならないな。周りに誰も居ないし


「と、とにかく繋ぐぞ!」


実は初のクリスマスデートで、何気に緊張している俺。勢いに任せて強引に燕の手を握った


「っ!? あ、ぅう」


燕は顔を伏せ、手に力をって


「いてぇ、いてぇ、いて~~!!」


彼女の握力は強かった



そんな、いっぱいいっぱい感じで時間は進んで、上映終了


「……手がベトベトだ」


やけに手の平が汗ばむ燕に呆れつつ、映画館を出る


「あ、暑かったのだ。……ものすごく」


確かに燕の顔は、ほてっており、ほんのり赤くなっていた


「あっちの公園で涼もうぜ」


「う、うむ……うむ」


元気の無い燕を誘導し、近くの公園へ


「……ふぅ。冷たい風が気持ち良いな」


空いていたベンチに座り、ほっと一息


普段なら寒い! と言って良い気温なのだが、映画館が妙に暑かったので心地良い


「…………」


「燕?」


「……す、すまない恭介。せっかくのデートなのにてんやわんやしてしまって……」


「うむ~。確かに変だったな、今日の燕は」


人の事は言えなかったりするが


「し、仕方ないではないか。す……好きな人と、始めてクリスマスを一緒に過ごしたのだから……」


燕の声は、耳を澄ませないと聞こえないぐらい小さなものだった。でも、俺にはしっかりと届いていた


だけど、どうやら今日の俺は少しいじわるならしい


「ん? 聞こえないぞ、燕」


「だ、だからぁ……ええと、あ……あうう」


燕は顔をめちゃ真っ赤にし、


「に、二度も言えない!」


泣いてしまいそうな顔と声で、そう言った


「……たく、本当に変な奴だよな燕は」


「う、うむぅ~」


こんな変な奴、好きになるのは俺ぐらいなもんだぜ


俺は苦笑いをしつつ燕の頭を抱き寄せて、


「メリークリスマス。大好きだぜ、燕」


なんて言って、おでこにキス


「………………きゅう」


「ん? うわ!? つ、燕!?」


な、なんて古典的な気絶の仕方をって


「それどころじゃねぇ! 燕、しっかりしろ~!!」



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