剣の手紙 3
ハローこちら宮田です。うん? 電波遠いかな? メーデ、メーデ。もしも〜し……なんてね。そのぐらい遠い遠〜い所からのお手紙です。
さて秋さん、ついでに恭介君。お元気にしてますでしょうか? こちらは元気です。私は今、アメリカのカリフォルニアって言うド田舎で暮らしています。
カリフォルニアってロサンゼルスじゃん、サンフランシスコじゃん都会じゃんって思いました? 私も来る前はそう思っていたのですが、今住んでいる場所は、見渡す限り谷と山と道と土! ビルなんてどこにもありません。刺激的な事と言えばたまに熊が出るぐらいです。がおーです。まぁ、車で30分も行けば都会に出ますけど。
そんなへんぴな所に来て早一月。最初は戸惑いましたが、今となればお友達も出来まして、なんと剣道場まで見付けてしまって、鍛練、勉学等と充実した日々を送っています。びしばしです。
と、私の事は此処までにしまして、秋さん。インターハイ出場、本当におめでとうございます。試合の方も、ネットで見させて頂きました。……凄い試合でした、震えました。
あの氷の女王と呼ばれていた徳永さんが、あれだけ慌てる姿を見るのも初めてでしたし、何よりあの凄い突き。おそらく……いえ、今の私では、かわせません。その突きを破り、勝利した秋さん。正直言って嫉妬です。ジェラシーです。
「ん……」
楽しそうに手紙を読んでいた秋姉の顔が曇る。ライバルだと思っている宮田さんに、嫉妬されたのが悲しいのだろう
「……秋姉」
「うん……ごめんね」
秋姉は、一枚目の手紙をめくり二枚目を読み始める。すると、秋姉の表情は嬉しそうなものへと変わっていった
そんな凄い秋さんと試合が出来た徳永さんが羨ましいです! 私も秋さんと戦いたかった、そして勝ちたかったです!
「……うん。私も戦いたかったよ、宮田さん」
いつか必ず、必ず私は日本へ戻ります! だから待っていて下さい、なんて都合の良い事は言いません。今度は秋さんの方から勝負したくなるような剣道家になります、絶対に!!
「……これは負けられないね、秋姉」
「……うん」
それでは唐突ながら最後になりますが、一番言いたかった事です。
熊は嘘でした。既に絶滅しています。残念……
「こ、これが一番言いたい事なのか?」
「……グレスリー」
あ、あれ? 秋姉もなんか残念そう
冗談です
「……宮田さんって冗談のセンス全く無いね」
一番言いたかった事は
秋さん、インターハイ頑張って下さいね! 地球の反対側から、精一杯応援しますから!!
それでは、またいつかお会いしましょうね。 宮田 かなた
うぅ、読み返すと自分の事ばっかりだ。手紙って難しい…………あ、恭介君の事忘れてた。恭介君も何か頑張れ〜
「……何かって」
所詮ついでか……
「……ありがとう、宮田さん」
秋姉は手紙を閉じ、大切そうに封筒へとしまった
「元気そうで良かったね」
「……うん。私も頑張らなくちゃ」
よしっと気合いを入れる秋姉。実に可愛いらしく美しい
それにしても……
「……あの人、氷の女王とか呼ばれてたんだな」
それが一番驚いたよ
今日のくしゃみ
徳
土屋アンナ
超適当小説、今日の燕さん。その1
鳴神学園、本館。階段を三階まで上がり、東側に進んで最初の広い教室
そこは鳴神に通うの生徒達にとって、前を素通りする事ですら躊躇われる特別な場所であり、全ての英知が集う場所でもある
その場所に入る事が出来るのは、全校合わせても13人。それは様々な分野で天才と呼ばれる、選ばれし円卓の騎士たち。そしてその騎士たちの頂点に居る者、それが――
「副会長」
「はい、会長」
鳴神は休日も門が閉められる事は無い。此処には町の図書館など遥かに凌駕する資料が揃っているし、休日を返上し、勉強を教える熱い教師も居る
何より、学園において絶対な力を持つ生徒会、その中で過去最高とうたわれる生徒会長、菊水 燕が居るのだ。彼女が居る限り、学園は決して休まない。それは常識となっている
そんな彼女は、今日も実務に追われていた
「2ーAとD、そしてEの英語授業だが、予定していたカリキュラムが少々遅れている。これでは期末に影響が出てしまうぞ」
「その3クラスは上中先生ですね。彼は教科書に沿って授業をするのでは無く、実地での経験を交えて授業を行う癖があります。ですので、一つ一つの授業が濃くなってしまい、時間が足りなくなってしまうのでしょう」
「うむ。それはそれで素晴らしいのだがね。しかし学校にはテストと言うものがある。点数を取る事だけが全てとは言わないが、少なくとも社会は点数だけを見て判別する傾向が強い。此処は上中教員に折れてもらい、授業を早めてもらおう」
会長と呼ばれた生徒は、机に置かれた書類にハンコを押し、副会長と呼ばれた女性に手渡す
「では次に化学室の予算についてだが……ん?」
スカートの僅かな震えに気付き、会長は副会長に断ってポケットから携帯を取り出した
「お電話なんて珍しいですね、会長」
「私の携帯には、余り連絡が入らないからね。母上かな……な!?」
「ど、どうしたの、燕?」
「き、恭介からだ。何かあったのだろうか……。ゴホン、ゴホン。……声は変じゃないか?」
「良いから、早く出なさい!」
「う、うむ。……もしもし……ん? うむうむ。……む! ふむ~。ふむふむ」
「……よくそれで会話が続くわね」
「うむ……分かった。では、後ほどファックスで……え!? え、ええと……じ、時間は、その……」
会長は、窺う様に副会長の顔を見る。すると副会長は、渋々と頷いた
「あ、ありがとう、ゆかな。…………な、なんでもないぞ! 大丈夫だ、今日は暇だぞ、恭介!」
「……はぁ。明日はまた早起き、か」
呆れ声の副会長。しかしその会長を見る顔は、見守る様に微笑んでいた。