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雪の不機嫌 2

さて、そんなこんなで俺達は近めの歯医者へと向かう


手を繋ぎながら歩く小道。一歩、一歩歯医者に近付く毎に雪葉の足どりが重くなっていく


「お、お兄ちゃん」


「ん?」


「ふ、風水的にそっちは駄目だと思う……」


「……こっち南だっけ?」


「そう! 今日の南は良くないってテレビでやってたよ」


「そっか。ま、こっちは東だから大丈夫だな」


「ええ!?」


雪葉は口を開いたまま固まる。雪葉にしては珍しく大きなリアクションだ


「ほら、行くぞ」


固まり続ける雪葉を引きずって、俺は歯医者の前へとたどり着いた


「あ……あぅ」


歯医者の看板を見た雪葉の顔は引き攣っていて、ちょっと可哀相だと思う反面、笑ってしまいそうになる


「大丈夫だよ、雪葉」


「……………う、うん」


俺達は歯医者のドアを開けた


カランコロン


「いらっしゃいませ〜」


「……………」


「……………」


「今日は何ですか、歯ですか? 歯ですよね? てゆーか歯医者ですもんね!」


割と綺麗系の女性なのに、テンションが凄い


「え、ええ。妹が痛がっていまして」


「歯が痛い!? それは大変です! 何でもっと早く来なかったんですか!!」


「あ、はい、すみません」


良く分からないが、俺が悪いらしい


「ほら、早く保険証出しなさい! 今、客いないから即やれますから!! やろうよ!!」


「は、はぁ……」


俺が雪葉の保険証を出すと直ぐさま書類に写しはじめる歯科助手


「…………雪葉?」


その間、やけに静かな雪葉を見てみると、雪葉はカタカタと震えていた


「大丈夫だよ雪葉」


「で、で、で、でも」


「大丈夫だ、俺がついている」


「あら? じゃあお兄さんも早く保険証出して!」


歯科助手さんはいきなり俺に詰め寄る


「はい?」


「早く!!」


「は、はい!」


勢いに負けて出してしまう


「……はい、オッケー! よし行きますよ!!」


そして連れていかれたのは治療室


そこに現れた黒覆面


「ようこそ、我が診療室へ」


「あ、はい。お邪魔しました………さ、さあ帰ろうか雪葉!」


「あ……おあ……お……え?」


雪葉は混乱している


「あれ? ウケなかった?おかしいなぁ」


そう言って先生? は黒覆面を取った


「ごめんね、昨日合コンでウケたから……」


黒覆面を取った姿は、童顔の可愛い女性だった。ショートヘアが良く似合っている


「先生、駄目ですよ」


「あ、やっぱり?」


「そこは、ようこそショッカー実験場へ、です!」


「……本当?」


「いえ、嘘です」


「なんや嘘かいな〜」


歯科医師さんがツッコミを入れる


「………………」


「………………」


「………エヘッ」


「さ、帰ろうか雪葉」


雪葉は首が取れそうな勢いで頷いた


「ち、ちょっと待って! これはその、小意気なジョークでお子様の緊張をほぐそうとしただけで……腕は確かだから! 他より上手いよ〜安いし!! ね、たっちゃん!!」


「はい! 南ちゃん」


「…………はっ」


「は、鼻で笑った! 鼻で笑われたよ、たっちゃん!!」


「………はっ!」


「たっちゃんまで!?」


……ああ、駄目だこりゃ


「あの〜、帰っていいですか」


「駄目! 保険証返さないわよ!! ね、竜子」


「はい、お返しします」


「なんでやねん!」


再びツッコミを入れる南ちゃん。くだらね〜


「……………………ぷっ」


「ん? どうした雪葉?」


「あははは! おもしろーい!!」


「……………」


子供のウケるポイントって……


「お兄ちゃん。雪葉、大丈夫かも」


「そ、そうか?」


疑いの眼差しで、二人を見てみる


「ふっ、竜子」


「はい、南先生」


竜子さんは、一度診療室から出てゆき、何かの紙を持って戻って来た


「ご苦労。ほら見なさい、チェリー」


「誰がチェリーやねん!」


ツッコミを入れつつ、紙を見る


歯科医師国家試験の満点証明だ


「自分の才能が怖いわ」


「俺はあんたが怖いわ」


「わ〜上手いですね。チェリーの癖に」


「…………雪葉、本当に此処でいいか?」


「うん。あんまり怖くないから」


「そうか」


兄ちゃんは直ぐに出て行きたいよ……


「……それじゃ南ちゃん、妹お願いします」


「はいよ! って南先生て呼びなさい!!」


そして雪葉を残し、俺は診察室を出て行った




45分後


待合室で待っていた俺の元に、笑顔の雪葉が帰って来る


「ただいま、お兄ちゃん!」


「おかえり。大丈夫だったか? 変な事されなかったか? 改造とか」


「うん! 全然痛く無かったし」


腕は本当に良いのか?


「ふふ。良く頑張ったわね〜、雪ちゃん」


診察室から南ちゃんと竜子さんが出て来た


「うん! 南ちゃん、竜子ちゃん。ありがとう!」


「……ふ、この無垢な笑顔を見る為に私は頑張っているのよ」


「キモいですね、南ちゃんは」


「………そ、それでは僕ら帰りますね」


これ以上、この人達と関わっていては雪葉の教育上、良くない気がする


「あら、次はお兄さんですよ?」


「ええ!?」


「雪ちゃんが頑張ったんだから、チェリーも頑張んないとねぇ」


「がんばってね、お兄ちゃん!」


雪葉はキラキラした目で俺を応援している。この目を裏切る訳には……


「…………宜しくお願いします。南先生」


雪葉。お前の風水、大当りだよ……


「よ〜し! 竜子、診察室へレッツラゴーよ!!」


「あいよでやんす」




今日の虫歯


雪>>俺>>>父>南>>>>竜




つづくさ

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