第107話:夏のダイエット
「……あ」
「お、花梨。遊びに来たのか?」
「え、ええ……あんたに会いに来た訳じゃないからね!」
「そりゃそうだろ」
土曜日昼。遊びに来たらしい花梨と廊下ですれ違う。相変わらず生意気な奴だが、今日はそれどころじゃ無い
この間、雪葉に貰ったブッチャークエストΩ。ようやく最後の町に入ったのだ。今日は部屋に篭ってクリアーするぞ〜
「じゃあな」
「頭撫でないでよ!」
怒る子供はほっといて、部屋に戻る。此処からは大人の時間だ
テレビの電源を付けて、スイッチオン!
チャチャラーラーチャララー
『おお、ゆうしゃよ。よくもどってきた。さあ、まおうをたおしにいくのだ』
はい
いいえ←
『いいえ……だと? テメェ、ちょっと調子に乗ってねーか、最近。そう言えばニチョーメのキャバクラ、ミーアで近頃マユマユにちょっかいだしてるらしいじゃねーか。あれはオヤッサンのスケやで? 手ぇ出したらエンコの一つや二つじゃ済まされねぇぞ!』
殴る
蹴る←
酒を浴びる
『ぐえ!? やられた。であえ、であえ、こいつは上様の名を語る偽者のだ。切り捨てぃ』
【サムライ達が一万匹現れた! ボタン連打で皆殺しにしろ!!】
「よしっ!!」
連打、連打、連打!!
『時間切れだZe! おとといきなYo!!』
【ゲームオーバー】
「くそ~!」
何度やっても神父To侍に勝てない。やはり特殊なアイテムが必要なのだろうか
「……ふぅ」
少し疲れたな。一息付くか
俺は立ち上がり、麦茶を取りにキッチンへと向かう
「むむ麦茶、良い子の麦茶~」
一息付いたらエンディングまでノンストップだ!
冷蔵庫から冷たい麦茶を取ってゴクリと飲む
「ふ~」
うまい!
煎餅かなんかないかな~
「あら、ちょうど良い所に居たわね」
煎餅を探していると、キッチンとリビングを結ぶドアから、不吉な呼び声がした
恐る恐るそちらを見ると、そこにはスポーツウェアに身を包み、後ろ髪を結んだ夏紀姉ちゃんの姿
「ちょっとアタシに付き合いなさい」
奴は何に付き合えば良いのかすら言わない。従わなければ、ぶっ飛ばす。そんなジャイアニズムをこの姉は持つのだ
「い、忙しいんだけど」
精一杯の反抗をしてみる
「そうなの? なら仕方が無いわね」
通じた!
「何で忙しいの? 手伝ってあげるわよ」
無駄に優しい!?
「あ、いや……良いよ。大丈夫だから」
「そう? 遠慮しなくて良いのに」
今日はマジで優しいな。宝くじでも当たったか?
「ところでさ」
「な、なに?」
「何か気付かない?」
姉ちゃんは満面の笑みを浮かべながら俺に聞いたが、正直言って何を指して言っているのかすら分からない
「え、えっと」
考えろ、考えろ俺! 姉ちゃんの機嫌が良いのは多分その事が関係している。間違えたら……
「う、う〜ん。そうだな〜」
分からない時は、機嫌を損ねない様な軽いトークから始めよう
「あ、もしかして……痩せた?」
この会話を取っ掛かりにして、姉ちゃんの腹を探ろう
「…………」
しかし姉ちゃんは、ムスッとした顔で黙ってしまった
「……あ、あの」
「分かる?」
「はい?」
「やっぱり分かちゃうわね! そうなのよ、ニキロ痩せたのよ!!」
「……へ〜」
凄いな俺
「最近ちょっと怠けてたじゃない?」
ちょっと?
「最低限の運動はしていたけれど、いつの間にかウェストが少し太くなってたのよ」
そりゃあれだけ適当に生きてれば太りもするわ
「それでちょっと運動始めてみたら思いの外、楽しくてさ。気付いたらこれよ」
夏紀姉ちゃんは上着を捲り、よく締まった腹を俺に見せる
「へ〜凄いね」
どうでもいいけど
「じゃ、今から走りに行くわよ」
「…………え?」
「アンタも最近ちょっとヤバイわよ?」
俺の腹を見て、ボソっと呟きやがった
「……大丈夫だよ」
「そうかしらねぇ」
「ほ、ほら! 見てよこの腹筋!!」
服を捲くって、腹を見せると……
「ふん」
鼻で笑われた!
「そんなお腹じゃ燕ちゃんに笑われるわよ」
「燕は関係無いよ!」
「ならアタシが笑うわ。あははは」
「ぐうぅ!」
なんつー性格の悪さだ!
「そのお腹じゃ、走れないかもね。ごめん、ごめん」
「走りに行くよ! 準備するからちょっと待ってて!!」
姉ちゃんになんか負けるかよ!
俺は早足でキッチンを出て行った
「……単純ねぇ」




